第31話 水面下
ショッピングの帰り、アタシは理梨さんと並んでアーケード街を歩く。
「奮発してたくさん買っちゃいました」
理梨さんが両手で紙袋掲げて言った。
「理梨さん何着ても映えるからなー。羨ましい限りです」
背の高い理梨さんならいいけど、アタシにはロングスカートとかワンピとかはキツい。
中途半端な丈になって、ずんぐりしたシルエットになりがちだから。
まあ、ミニスカート好きだからいいけど。パンツを外気に晒してる開放感があるし。
「週末は小凪ちゃんに選んで貰ったワンピースを着て臨みますね! でも、やっぱりもう少し肌が出た方が喜ぶんじゃ……」
「大丈夫ですって! あまり薄着だとかえって心配されますから! あれくらいが丁度良いんです!」
理梨さんのクソデカおっぱいとぷりぷりのデカケツが浮き彫りになるとか、もはや見る凶器だ。
それに、あまり露出度がすぎる服装が好ましくないのも本当。あんまりアクティブすぎる格好もデートらしくないし。
悩みに悩んだ結論、とりあえず白いワンピース着させておけばみんな大満足!
オークセンパイの趣味はわからないけど(メイド服とかかな?)、理梨さんの場合、清楚感でゴリ押せばオールオッケーだと思う。
「遊園地デート楽しみですね!」
「はい!」
週末にオークセンパイを誘って遊園地に行くらしい。
理梨さんも思いきったなぁ。2人きりで遊園地デートとか、実質告白じゃん!
南条センパイも見習ってガツガツいけばいいのに、あの人根が陰キャだから……。
仕方ないなぁ。大興奮でデート服選び手伝っちゃってなんだけど、センパイのために一応探っておいてあげますか。
「盆田センパイのどこに惹かれたんですか?」
とりま理梨さんの本音を聞いてみよう。
でも、大木のようなチ○ポとか言い出したらどう答えよう。なんてのは杞憂で。
「盆田くんは……そうですね。アニメとかゲームの趣味があって話が弾みますし、それにとっても親切で優しいんです」
理梨さんは楽しげに、例えばどういうアニメゲームについて会話をしていたか語りはじめる。
うんうんと共感するように頷くが、実際2割くらいしか内容を理解できていない。
エロゲーとかエロ漫画とかエロがつく二次元コンテンツには詳しいけど、実は普通のオタク文化にはあまり精通してないんだよね。
今まさに話してるお気に入りのvtuberの話とかさっぱりだ。
「理梨さんは盆田センパイのことが好きなんですね!」
頃合いを見計らって、話の転換を試みる。
一回軸を立て直そう。
「わたし、盆田くんのこと、好き……なんでしょうか?」
あれ? 思ってた反応と違う。
笑顔で即答すると思ったんだけど。
「盆田くんと一緒に居ると胸がぽわぽわして、温かい気持ちになるんです。でも、これが好きに該当するのか、まだよくわからなくて……」
「…………」
どうしよう。尊すぎて鼻血でそう。とりあえずオークセンパイはもげろ。
絶対それ好きなんだと思うけど……うーん、センパイの立場的には後押ししない方が良いかなぁ?
でも理梨さんの応援をしてあげたい気持ちもあるし……。
ふと横顔を伺うと、理梨さんは顔を下に向けて小さく呟く。
「わたし、盆田くんをお兄ちゃんと重ねてしまっているのではないかと、それだけが不安なんです。最初は気にならなかったんですけど、仲良くなる内に徐々にこんな不安が膨らんできて……」
「理梨さん?」
あれれ、アタシの想像より深刻な悩みなのかな。
これはちゃんと聞いてあげた方がよさそうかも。
唇に指を当てて、思案していると、
「――どへっ!」
何かにぶつかってよろめき、尻餅をついてしまった。
見上げると緑色の宇宙人が眼前に立っている。
「小凪ちゃん! 大丈夫!?」
理梨さんが寄り添ってくれる。うわ~、おっぱい超柔らかい! しかもドチャクソいい匂いする!
じゃなかった。目を凝らして、よく見ると、目の前にあるのは店頭に鎮座しているカエルの置物だった。
「……クスッ」
理梨さんがおかしそうに笑った。アタシがこんなのにぶつかったのが面白かったのだろうか。むー、なんかハズいなぁ。
アタシはじゃれるように頬を膨らませた。
「理梨さん! 笑わないでくださいよ!」
「あっ……。違うんですよ! ただ……」
理梨さんは
「昔のことですが、わたし、実はこういう人形は本物の動物が固まってると思ってた時期があったんですよ」
「――――えっ?」
両頬を赤くして笑う理梨さんとは対照的に、アタシの脳細胞には雷が走った。
喉から声が出せず、瞳の震えが止まらない。
だって理梨さんのその話は、昔センパイが語った思い出とまったく同じだったから。
◇ ◇
「よりによってどうしてこんな……」
同時刻、1900年代のイギリスをイメージした洋風な私室で赤髪の執事が
食い入るように読んでいるのは、部下に手配した調査報告書。
内容が芳しくなく、右腕でガリガリと頭を掻きながら拝読している。
その調査内容は、『
当初は、清滝と和解するきっかけでも掴めればと、軽い気持ちで依頼したものだ。
通常ならもっと早い期間で報告が上がるのだが。
「両親が離婚する前の姓は斉藤。復氏があったため調査が遅れた。――肝はそこではありませんね」
問題は彼女の経歴にある。
六瀬は苦々しい顔で、報告書に添えられた多量のスクラップ記事を睨む。
「まさか、あの事件は彼女の……」
この報告の内容を総括すると浮かび上がる結論は、『
六瀬は頭を抱えた。このあんまりな偶然を清滝に告げるべきか否か。
彼女との復縁を期待するのはまったくの無駄だと告げたとして、今の清滝にどう影響するか、六瀬でも判断しかねる。
「……少し、様子を見ましょうか」
まだその時ではない。いざ、一族と縁を切られる、そのリミットが迫るまで伏せておくべきだ。
六瀬は報告書を誰の目にも入らぬよう、鍵付きのキャビネットに納めた。
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