第47話 勝機

 九里含むセクバ最上位層の勝率は8割。カードの引き次第で出せる手が制限されるカードゲームにしては、高すぎる勝率だ。

 ゲームの裏仕様まで正確に記憶してるこの女レベルのスキルがないと、ここまでの高みには到達できないだろう。


 とはいえ、勝率が8割ということは、逆に2割は負けているわけでもある。

 ゲームの鍵を握るアディショナルを、己のみが持つ超人的感覚で瞬時に把握し、圧倒的優勢を誇示していても、5回に1回は負けている。


 つまるところ、ランダムに積み重なった山札からカードを引くゲーム性では、運ゲーを排斥しきれない。極限まで実力ゲーにしたとしても、捨てきれないのが2割の敗北と言うことだ。


 そして、セクバにおいて、最たる運要素は、ラストアディショナルだ。

 ゲーム開始時にピックする10枚のアディショナルの中でも、最後に選出する3枚は、特に強力なゲームチェンジャーになるという仕様。


 比類がないステータスであったり、ルールを書き換える効果を持っていたり、特殊勝利条件を備えていたり、最後にピックするカードは、どれもが一発でゲームを逆転出来るほどの性能を持つ。

 ピックしたラストアディショナルの相性いかんで、勝敗を左右するほどの影響がある。

 俺が九里に勝てるとしたら、これを利用するほかない。

 

 ゲームは終盤。お互い、ラストアディショナルを出せるくらいのコストが貯まっている。

 まだ俺の手元にはそのカードは来ていない。

 まずは引けるかどうかの勝負だ。


「ドロー!」


 スマホを勢いよくスライドし、勢いそのままに右腕が空を裂く。

 風船を持ったガキが奇怪なものを見る目をこちらに向けたが、もう気にしない。


 引いたカードは……。


「……くっ!」


 ハズレ。

 勝負は次に持ち越しだ。……次ターンがあれば、の話だが。

 できる限りの延命処置をして、九里にターンを回す。


「理梨さんがどう思おうと、センパイは自分の想いを主張するべきです。アタシ言ったじゃないですか。センパイの意志はよわよわだから、もっと主張を強くした方がいいって!」

「なんか言われたような記憶があるな」

「相手のために内に想いを秘めたままでいるのが美徳とか、アタシは一切そんなこと思いませんから。全部さらけ出すべきです! 身も、心も、体も!」

「体系2回言ったぞ、今」

「見ててください! アタシが今からお手本を見せますから!」


 そういうと九里はいつかのように服に手を掛けて……。


「ちょ……! こんな往来で脱ごうとするな! 人様が不審がってるだろ!」

「でも……その方が燃えるじゃないですか!」


 ……こいつが服を脱ごうとするのを止めるのは、これで何回目だろうか。

 定期的に脱衣しようとするの、焦るからマジでやめて欲しい。

 精神的にかなりよろしくない。


「まあいいです。とにかくセンパイには身も心も裸になってもらいますから!」

「身はいらないだろ身は。いい加減そこから離れろ」


 九里は楽しそうに笑って、ゲームを再開する。

 実は本来の目的すら、頭から抜けていて、完全に遊ぶモードに切り替わっているんじゃないだろうか。


「アタシのとっておきでフィニッシュです! センパイの何もかもを搾り取ってやります!」

「お前というやつは、下ネタを思いついたら言わずにはいられないのか……」

「小悪魔系後輩の真髄をしかと目に焼きつけてください!」


 小悪魔というか、立派な悪魔だよ、お前は。

 まったく締まらない口上と共に、九里が切り札を召喚する。


 最後のアディショナルは大雑把に、『オーク』、『太ったおっさん』、『エルフ』だったことを記憶している。


 ここまで圧倒している九里を前に同じカードを出しても勝ち目がない。

 相性で有利なカードを俺が出さなければ勝てない。

 アイコの許されないジャンケン。

 九里の出すカード次第で、完全に勝敗が決する。

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