第15話 集会

『集合場所で待機してます。向こうはまだ来てません』


 九里からメッセージが届く。

 九里は今日、ここである人物と待ち合わせをしている。

 そして俺は、待ち合わせ場所の横浜駅の改札から、離れた場所に待機していた。


 ほどなくして、一人の男が姿を見せる。

 金髪のセンター分け、コウモリが描かれたTシャツに腰までズボンを下げて、首や腕にシルバーアクセをジャラジャラつけたそいつは、


「やっほ、小凪ちゃんおまた~」


 ……誰だあいつ。まっっったく記憶にないな。

 九里から名前を聞いたときも『誰そいつ』ってなった。流石に同級生なら顔見ればわかるかと思ったが、マジでわからん。


笠原かさはらセンパイ! こんばんはーです!」

「ごめんごめん、直前で慎吾の野郎が小凪ちゃんを案内してぇってゴネはじめてさぁ! あいつマジ空気読めし! ねぇ?」

「もー! そんなことで揉めちゃダメですよー」


 大げさなリアクションに、やたらと目立つ声量。

 少し様子を窺っただけでわかる。静かに暮らしたい俺とは相容れないタイプだな。


「うっし、じゃあ行くか! 小凪ちゃん迷子にならないように俺の手握ってていいよ」

「遠慮しま~す!」

「あ、そ、そう」


 ともあれ、あいつが九里を例の集会に誘った男で間違いないようだ。

 改札を出て駅前に向かう二人をこっそりと尾行する。

 どうしてこんな探偵まがいの行為をしているのか。

 話は休日前にさかのぼる。




    ◇    ◇




「新入生歓迎パーティー?」

「非公式ですけど、在校生が新入生を歓迎する催しがあるみたいですよ」

「へぇ、今年はそういうのがあるんだなー」

「毎年恒例らしいですけど? センパイ呼ばれなかっただけじゃないですか?」

「…………別に呼ばれてもいかねぇし」

「すねないでくださいよ。実際、招待されるのは生徒の中でも一部って話なんで。だってウチの学校の全生徒が集まったらとんでもない規模になっちゃうじゃないですか」

「……そりゃそうだ」


 九里は先日、そのパーティーに呼ばれたらしい。

 何世代も前から受け継がれている伝統のある会なのだとか。俺は知らなかったけど。


「例年ホテルの宴会場を貸し切っての盛大な歓迎会になるらしいですよ!」

「それはよかったな。で、そのパーティーと清滝が何か関係しているのか?」


 世間話は良いから早く本題に進むよう、せかす。


「センパイ反応が淡泊ですねぇ……。そんなんじゃモテませんよ。白雪センパイに」

「白雪は関係ないだろ!?」


 ったく、こいつが用があるって言うから屋上まで出向いたというのに……。

 九里は大きく溜息を吐いて、本題に入る。


「パーティーはウチの学校のOB会が支援していて、その会長が清滝センパイの父親なんですよ」

「あいつの親父もウチ出身だったのか。それは初耳だな」

「会長にとって清滝センパイは自慢の息子ですからねー。何かとアピールしたくなるんでしょう。去年は新入生の代表として清滝センパイがスピーチをしたらしいですよ」

「あいつはそういうの慣れてるからつつがなくやり遂げただろうな」

「ですので、今年も清滝センパイの出番があるかもしれないとアタシは踏んだんですよ! パーティーには他のOBも来ますし、会長のメンツを保つために嫌でも呼ばれるんじゃないかと!」


 うーん、どうかな。


「絶賛不登校中のやつが、歓迎会にだけ出るなんてことあるかぁ?」

「それでも、留守かもしれないマンションの前で、不毛に待ち続けるよりマシだと思いませんか?」


 昨日、完全に無駄にした時間を思い出す。

 九里の言うとおり、1日なら良いがマンション前での張り込みを連日続けるのは、厳しいものがあるな。


「まあ確かに。眉唾だが、そこに賭けてみるか」

「でしょ! 受けより攻める方が絶対楽しいですよ!」


 楽しいとかそういう判断基準で動いてるのか、こいつは。


「いうて、えっちのときは受けるのも攻めるのもアタシはウェルカムですけど! センパイはどっち派ですか?」

「それはもういい」

「質問を変えましょう! センパイは白雪センパイにイジメられたいですか? それとも白雪センパイをイジメたいですか?」


 …………。

 九里に乗せられて少し場面を想像してしまった。


「てか、それもさっきと同じ意味の質問だろ!」

「具体性があると人の本性がわかるんですよー。センパイはむっつりです!」

「下らねぇ……。それで会場はどこなんだよ」




    ◇    ◇




「でさ、P4がいない今、俺が実質学園のNo1なわけ! 小凪ちゃんも困ったら俺のこと頼って良いぜ!」

「うわー頼りになりますー」

 

 あの笠原という男が今年の幹事らしい。清滝がいないので、代理で選ばれたという話だ。

 会場だが、九里には笠原が直々に案内するといって聞かなかったようで、渋々ついていくしかないと愚痴っていた。

 俺は近くで待機するという計画の都合上、こうして尾行するように後をついていくしかない状況だ。恨むぞ、笠原とかいうやつ。


 人混みの中、2人の背中を見失わないように追いかける。

 駅から離れていってるが、会場はどこにあるのだろう。例年ホテルでやるって言ってたっけ? 顔を上げて周囲を見るが、高い建造物は見当たらない。

 清滝が住んでた例のマンションくらいの高さの場所だろうか? でもそういうのって基本駅に近い場所にあるイメージだけどな。


 上げていた視線を正面に戻す、と――。


「!!?」


 九里と笠原がいない! 見失ってしまった!

 そんなに長い時間、目を離していなかったし、2人が先ほど通っていたのは大通りで小路に入る意味なんてないはずだが!?


 慌てて早歩きで2人の影を探すが……見当たらない。


「仕方ない、九里に連絡するか」


 ドジだのマヌケだの罵倒されそうだが、背に腹はかえられない。

 立て直すために今の位置を聞こう。

 そう思ったところで――俺が送るより先にメッセージが届く。


『センパイすみません。アタシ、ハメられたみたいです』

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