第14話 迫る危機

「なるほど! 初登校の日、パンを咥えて走っていたときに曲がり角でぶつかったのが南条君だったんですね。なんだかロマンチックですー。あれって本当によく起こることだったんですね!」

「ですです~」


 そんなあからさまな出任せが通用するか!? と思ったが、通用してしまうのが白雪だった。

 ただし、九里が教室に押し入り、嘘の出会いを語り尽くしたとしても、


「あっ、拙者のターンでござったな」


 試合セクバは終わらない。最大の危機は回避されていないのだ。


「呪文カード『感度10倍ビーム』発動! 次のモンスターの攻撃で拙者が与えるボルテージは10倍になるでござる」

「なんだと……」


 これは終わった。『感度10倍ビーム』を使われてしまってはいよいよだ。

 『感度10倍ビーム』は唱えた瞬間にターンが終了するデメリットこそあるが、次にモンスターの攻撃を通せばほぼ確実に勝てるパワーカードだ。

 ATK 1のモンスターでも10ボルテージが溜まる。8ボルテージで負けの状態の俺では、モンスターのATK値に関わらず敗北してしまう。

 しかも、盆田の場にはガード不可の『アヤカ4号』が残っている。『アヤカ4号』を除去できなければ、シールド持ちのキャラを出しても無駄な状況……。だが俺の手札には除去できるカードがない。

 逆に盆田の盤面は万全で、『アヤカ4号』はシールド持ちモンスターに守られている。攻撃で突破するのも困難だ。

 次のターン俺は負けるだろう。そのときがゲームの終わりであり、白雪にとんでもないもの洋服崩壊を見せ付ける瞬間でもある。


「万事休すか……!」


 ターンが回ってくるが……いくら考えても打開策が思いつかない。

 俺が唸っていると、

 

「センパイなにぼーっとしてるんですか! そこは『洗脳スマホアプリ』の出番でしょうが!」

「へ?」


 隣で画面を眺めていた九里が、身を乗り出して命令をしてくる。

 こいつ、セクバがわかるのか? まあなんかわかりそうだと思っていたけど。

 ギャーギャーうるさいので、指示通り『洗脳スマホアプリ』を『アヤカ4号』に使って相手のシールドモンスターとバトルさせる。けど『アヤカ4号』もシールドモンスターもATKが低いせいで少しHPが削れるだけ……。


「――あれ?」


 おかしな結果になった。双方のモンスターが、そのATKより遙かに大きいボルテージを与えて両方とも破壊された。

 九里が鼻を高くして解説する。


「『洗脳スマホアプリ』でのバトルは相手がモンスターを攻撃させた判定になるんです。だから相手の『感度10倍ビーム』の効果も乗るんですよ? 『セクバ』プレイヤーの常識なんですが、センパイそんなことも知らないんですか?」

「得意げに言うな。そんな知識あるほうがおかしいだろ!」

「へへ……アタシエロい知識が豊富なので!」


 なんでそこで胸を張るんだよ……。

 まあ、無視してゲームを続けよう。


「あーちがーう! センパイそこは触手アーマーを先に使ってから姫騎士でしょ!」

「うるせっ! 人のプレイに口出しするな!」

「ケチー! アタシも混ぜろ~!」




   ◇    ◇




 ――数分後。


「な、なんてことだ……」


 あんなに状況が悪かったのに、いつの間にか逆転している。

 盆田は苦しげに呻きながらプレイを続ける。


「ぐぬぬぅっ……『無限種付けオジサン』を召喚」

「環境に優しそうなオジサンですね!」


 相変わらずの白雪の反応。たぶん、種まきをするオジサンか何かだと思っているのだろう。

 そうだった、何度も言ったことだが俺が勝つことになっても、意味がない。


 そこから数ターン、トドメを刺せる状況になったが……。


「南条殿……拙者はもう覚悟が出来てるでござるよ」


 盆田はすべてを察した顔で、無防備な身体を晒すが、


「お前が覚悟してても意味ねぇんだよ!」

「な、なんでござるか? なんでちょい切れ気味なのでござるか?」

「もうしらん、お前のせいだからな!」


 時間をかけても運命は変えられないので、最後の攻撃を盆田に与える。

 ちくしょう、白雪にこんなセクハラしたら俺の高校生活終わりだよ!

 俺も盆田もすべてが終わった顔でゲーム終了を見守る中、


「あー! 見てください! あの入道雲、ハマスタよりデカいかもー!」


 窓をがらりと開けて、そんなわけのわからないことを口にしたのは九里。


「えっ!? ホントにハマスタより大きいんですか? 私もみたいです!」


 天然の大天使様が、興味津々に駆け寄る。

 今のそんなに気を引かれる発言だった!?

 スマホから音が鳴り響く。


『キャー! 負けちゃった~!』


 タイミングよく、ゲームキャラが裸になるシーンを免れた。


「た、たすかった……」


 九里の行動は偶然……ではないだろう。

 あいつ何を考えているんだ。




    ◇    ◇




「よく白雪センパイの前でセクバをやろうと思いましたね」


 九里が恨めしい顔で文句を言う。

 煽りに来たと言ったが、用があったのは本当らしく、俺を借りるとかいって2人と分かれて屋上へ出た。


「違う! 提案したのは盆田の方だ! ……しかし、お前に助けられるとはな。お前ならむしろ喜んで追い打ちすると思ったんだけどな」


 責められる理由も、止めた理由もわからない。


「そんなことしませんよー。無垢な女の子は、無垢なまま保存しておくのがアタシの主義なんですっ!」

「なるほど」


 よくわからないが、その主義のおかげで助かったらしい。


「それにしても意外でした」


 九里は遠い空を眺めて言葉を続ける。


「白雪センパイって――オークっぽい人でもいけるタチだったんですね」

「どういうことだよ!」

「アタシはオークに犯される妄想をするとき純オークじゃないと満足できないタチなんですけど、白雪センパイは現実にいるオークっぽい人でもイケるタチなんだなって思いました」

「白雪をお前みたいな変態と一緒にするな! さっきだって変なワードの一切を知らなかっただろうが!」

「えっちな言葉を知らなくても、本能でオークプレイ的なモノを求めてるのかと思ったんですけど、違うんですか?」

「違うッッ! と、思う……」


 途中で自信がなくなる。

 その話を突き詰めると、なんで白雪が盆田に好意的なのかという点にたどり着くのだが……。正直俺にも答えがわからない。

 きっと外面で人を区別しない性格だから……だと思う。俺の予想だけど。


「ねぇセンパイ。あの2人、あのまま放っておいていいんですか?」

「いいだろ、別に。誰と誰が仲良くしたって」

「そうはいかなくないですか? だって――センパイって白雪センパイのこと好きなんですね? 今のままだとオークセンパイに取られちゃいますよ」

「お、俺が白雪を好きって! べ、別にそ、そんなことないけど?」


 何を根拠にそんなこと……。まったくもって意味がわからない。


「嘘です~。あきらかに挙動不審です~」

「それよりお前、俺に話したいことがあったから屋上まで来たんだろ」

「あー! ごまかそうとしてる~! いいじゃん本当のトコロ、教えてくださいよ~!」

「本当も何もないって」


 そう、本当に……。

 ニヤニヤしている九里と押し問答をしたが、結局は九里が折れた。


「頑固ですねー。わかりました、この追求はいったん置いておきます」

「で、俺に用って何なんだよ」

「それはですね。清滝センパイをおびき寄せるための、耳寄りな話があるんです!」

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