第24話 本領発揮
九里が震えながら服を脱ぐ。
俺は申し訳なさで一杯になり、目を強くつむっていた。
いくら九里でも、男がいる中で下着姿になるのは、かなり抵抗があるはずだ。
衣擦れの音が途切れ、服を脱ぎ終えたであろう九里は、こう言った。
「いや~ん! エッチっちゲームに負けて、衆人環視の中全裸にされちゃう~!」
………………え?
だいぶ想定していたセリフと違っていたので、俺は10秒くらい頭が真っ白になった。
呆けていると、九里は「センパーイ」と、とんでもないことに駆け寄ってくる気配がした。
「なんで目ぇ閉じてるんですか? せっかくの罰ゲームなんだからアタシのこと思う存分に見回したらいいじゃないですか」
「お、お前なぁ! 冗談で済ませて良い範囲と悪い範囲があるだろ!」
「固いなぁ。もっと盛り上がりましょうよ! いえ、むしろ固くなって盛り上がりましょうよ!」
まだ下ネタまで言えるのか……。こいつ、いくらなんでも余裕ありすぎだろ。
オープンな性格なのは知ってたけど、普通に男が2人もいる中で下着姿になっても余裕が崩れないとは思わなかったぞ。
「ほらほらー、怖くないからこっち向いて~」
「やめろー!」
九里は俺の腕を引っ張ってきて、俺はなんとか誘惑に耐えようと顔を後ろに向けて抵抗する。
こいつバカか? 羞恥心って言葉をご存じじゃないのかな?
注射を嫌がるガキみたいなやり取りに、六瀬は溜息をついた。
「珍獣は放って置いて、次に行きましょう、次に。まだ試合は終わっていませんよ」
◇ ◇
ゲームを再開する。
「先輩方はぜっっったいこっち見ないでくださいね」
有原が注意喚起するが、見ないでと言われても、そいつちょこまかと動くからどうしても目に入るんだよなぁ……。
「センパイ頑張ってー!」
視界の端に、ぽよんと、小柄な割りにしっかりした胸が揺れるのが映った。
ひらひらしたスカイブルーの下着を隠そうともしていない。
ぐっ……女子の下着姿とかはじめて見たな……。これで動揺しないのは無理がある。
「なあ九里。正直に言っておくが、俺このままいくとこいつに勝てないんだけど」
「そうなったら仕方ないからアタシが脱ぎますとも!」
九里の頬は赤く色づいていて、なんというか、逆に嬉しそうにしている。
本当に、これ以上脱いでも平然とした立ち居振る舞いをしてそうだ。
俺は目の前の赤髪の男を見据えて、
「六瀬――俺はあと4回以内にお前を攻略する!」
「彼女が裸になるまでをバッファに入れましたか。クズですね」
俺のブレイクショットが終わると、六瀬がまた1人ゲームをはじめる。
だが、俺たちは呑気にプレイしている場合ではなかった。
――カシャ。
シャッター音が鳴る。
六瀬のやつ、九里の卑猥な画像を撮って脅すつもりか――。
と、思ったら六瀬はキューを構えた腕をとめて、俺同様放心していた。
音の鳴った方向に顔を向ける。
「見てください! これがアタシを全裸にして、恥ずかしい画像をインターネットで全世界に公開しようとしている鬼畜達です!」
九里が、俺たち2人が映る位置で自撮りをしていた。
全世界に公開って、そんなこと一言も話した記憶がないが!? というか達って俺も含まれるの!?
「ふん、強がりを」
「……あれが強がりに見えるか?」
九里は胸の前で手を交差して、その豊満な胸部を隠し、身体を震わせてこういった。
「あの、うら若き乙女の柔肌を見て、獣のように猛る性欲旺盛な男子高校生の眼差し!! 今にも襲いかかってきそうです!!」
九里が暴走気味に、妄想を連発する。
さすがの六瀬も度肝を抜かれたのか、メガネ拭きを手から落とした。
……ヤバいよこの女。六瀬よりずっとこっちの方が危険人物じゃん。
とはいえ、下着姿の九里と一緒に映る写真を撮られたのは非常に厄介で。
さらに、九里が本当にヌードまでをネットにアップロードすることを恐れないなら、俺たちに対する脅しになるわけで。
え――俺達、もしかして追い詰められてる!?
それに気づいた瞬間、賭けの内容とかもはやどうでもよくなり、ひたすら九里の暴走から逃げることで頭が埋め尽くされた。
六瀬も危機を察したのか、自然と目が合う。
迫る危機に、俺たちは意識がシンクロし、視線だけで会話をはじめる。
(マズいぞ怪人、このままだと俺ら性犯罪者だ)
(ならば、どうしろと言うのですか、風紀委員)
(とりあえずゲームを終わらせろ。これ以上九里を脱がすのはマズい。下着の画像までならともかく、裸にさせたらアウトだ)
(ワタシに負けを選べと?)
(九里を全裸にして社会的に終わるか、ビリヤードで負けるか。どっちがマシかわかるだろ!)
(しかし……)
六瀬は、苦悶の表情で、己の顔を掴む。
苦渋の選択に、もだえ苦しんでいる。
六瀬がここまで追い込まれているのは、過去に一度もみた覚えがない。レアな光景だ。
……まさかとは思うが、九里はこの展開を見越して服を脱ぐなんて言い出したのか? 自身をネタに六瀬を脅すために。
だとしたら、とんでもない策略だ。
俺まで巻き込むことはないだろうが。
六瀬はカッと目を開くと、キューで手球を
カンカンと複数の球が反射を繰り返し――9番の球がポケットの直前で停止する。
そして手球、次の番号の球、9番の球が一直線に連なった。
しかも、六瀬は今のでポケットしていない。次は俺の番。
「おっと、手が滑りました」
あごを上げて、挑発的なポーズで告げる。
ナイスだ! 六瀬!
あとは俺が真っ直ぐに
手球に対しキューを構え、真っ正面に並ぶ9番の球を目掛けてショットする。
その直前で――ふにゅんと柔らかい感触が二の腕にあたった。
ギギギと調子の悪い機械みたいに顔を向けると、
「こんな少年誌レベルのエッチ展開で幕切れとかシラケますよね。ねー、センパイ」
九里が俺の右腕にまとわりついていて。
ふわふわした薄い布越しの感触に加え、素肌の谷間の部分まで密着していて。
「――――ッ!!」
あまりの衝撃に、呼吸が浅くなり、心臓が飛び跳ねる。
何故こんなマネを……こいつまさか……脱ぎたいが為に俺の邪魔をしているのか?
――九里の行動が計算? そんなわけがなかった。
こいつは、ただ性欲のままに動いているだけだ。
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