第8話 噂の後輩
なんとしてもクソ執事――
そんなときどうすればいいか。
「清滝に会いたいんだが、やつはどこに?」
「どうしてそれを私に聞くの。あなた、昨日は風紀委員には風紀を守る義務がないとか言ってなかった?」
ゲームを巡る闘争から翌日の学校、元P4は疑うような目をこちらに向けてきた。
六瀬の元に通じる道は、清滝に通ず。
昨日、俺の前に現われた六瀬は執事服を着ていたが、あれはコスプレではない。あいつは実際の身分として、使用人なのだ。
では主人は誰なのかといえば、それは同じくP4の
清滝家に代々仕える使用人の家系が六瀬、という図式だ。
学校では清滝と常に行動を共にしていたし、多分私生活も同じだ。現に今も仲良く不登校しているわけだし、きっと六瀬は清滝の側にいる。
「考えを改めたんだ。クラスに友達が一人でも欠けてたら、気持ちが悪いだろ?」
「気持ち悪いのはあなたの改心の唐突さよ」
元P4なら仲間の居場所を知っていると思ったが、なかなか聞く耳を持ってくれない。
「俺だってこのクラスの状況を良くしたいんだ。清滝が帰ってきたら、今よりはマシになるだろ」
かつて、このクラスをまとめていたのは清滝だ。あいつが戻れば多少は好転するだろう。
もっとも俺自らの手で連れ戻す気概はさらさらないが。
「ま、確かにね。ずっとこんな調子じゃ、あなたも嫌になるわよね」
共感したように頷いた元P4と一緒に、教室を見遣る。
そこでは男子生徒たちがピンクのはっぴを着て奇妙なことをしていた。
「よっしゃいくぞー!
ペンライトを握って暴れる男子生徒を指さして。
「あれは何してんだ」
「
「移り気なやつらだ」
「あなたが言えた口?」
見ていると、また別の男子生徒がその集団に割り込む。
「貴様ァ! 白雪さんに忠誠を尽くすという誓いはどうした!? 誓いは!?」
「うるせー! 俺は新しい恋を見つけたんだよ!」
今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。
「止めなさいよ、風紀委員」
「…………」
追求から逃げるように、また別の方向を向く。
女子たちの方も乱闘が起こってもおかしくないくらい白熱していた。
「だからー! セン×ラウが正義って言ってるでしょ! 王子様でご主人様の千里君が側仕えの羅雨流君にイケない命令をするの! これしかないって!」
「違うのだ! 学校では主従のように振る舞う2人……けれど家では一転ドS執事の羅雨流様が千里君に日頃の鬱憤を込めたお仕置きをおおおおおお! つまり、ラウ×センこそが至高なのだ!」
派閥に分かれ、議論を続ける女子生徒たち。
「あれは?」
「本人たちがいないことをいいことに、堂々とカップリングについて議論しているのよ」
毎日のように新しい集団が続々と発生している。ここはもうダメかもしれない。
荒れ果てた教室を見回して、元P4は大きく溜息をついた。
「はぁ……わかった。千里君の家の住所を教えてあげる。前に一度だけお邪魔したことがあるの。あなたにはまったくこれっぽっちも期待していないけど、一応教えといてあげるわ」
「助かる。先生に聞いてもプライバシーがどうとかで教えて貰えなかったんだよ」
「私は彼が不登校になってから何回か通ってるけど、まったく反応がなかったわ。念のため、情報共有よ」
ま、実際は清滝を連れ戻すのはどうでもよくて、羅雨流からゲームを取り返しに行くだけだがな。
もし清滝に会えたら『おめー学校来いよ』の一言くらいはかけてやるさ。
目的は240万円のゲームソフトだ。あくまでれおちゃんのための行動ではあるが、れおちゃんがゲームに飽きたら売ろうとか、少しは考えたりもしてみたり。
早速向かおうと席を立ち、教室の戸を開ける。
すると、
「コナギちゃんがこっちに向かっているぞおおおおおおぉぉ!」
すれ違いざまに教室に入った男子生徒が、絶叫した。
「なに!?」「まことか!?」「ならば、今こそ練習の成果を示すとき!!」
件の後輩がこっちに来ているらしい。1年生がこの階に何の用だか。
放って置いて階段までの道を歩く。
「ねぇ、あの人って確か……」
「ああ。あいつ、風紀委員らしいぜ。近寄らない方がいい」
いつも通りの評判を通り抜けて、階段を下る。
そのとき、階下から上に登る生徒を見かけた。
黒髪でハーフツインの女子生徒。上から見下ろす形になっているので、顔はよく見えない。
青色のネクタイについつい身構えるが、すぐに意識を変える。
青色は先月まで先輩の色だったけど、今は違う。新入生の色だ。
つまり……あれが噂のコナギちゃんか?
すれ違った後、少し興味がわいて後ろを振り返ると……。
「ッ!?」
彼女も、振り返りこちらを見向いていた。見間違いじゃない。肩と首を回して振り向いている。
さっきの男子共が、あろうことかあの
階段の途中で、何故か完全に足を止めた彼女と、ばっちりと目があった。
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