第4章 告白

第21話 男には超えなきゃなんねぇ壁がある!!

 本当に貴方はどうしようもないクズですね。

 知ってはいましたが、ここまでとは思いませんでした。

 私の想像を超えて来るとは驚きを隠しきれません。  


 天文学的数字の確率で貴方に惚れた女の子がいると言うのに、ただただ無駄に時が過ぎていくだけではありませんか。


 犬畜生でも喜んで腰を振りそうな事案に対し、何をそんなにグダグダとされてるのか理解出来かねます。犬畜生以下に値する言葉が見つからない、私の語彙力ごいりょくを恥じますが、宇宙創世記以降で最低最悪です。この世の厄災やくさいは全て貴方から始まってるほどに

 


 隣で文庫本を読みながら呪詛のように呟いてくる野々宮さんの言葉である。

 静かにページをめくるのと比例して罵詈雑言ばりぞうごんはキツくなっていく。



 図書委員が今じゃ辛い。当番なんて来なくて良いのに……生徒も数えるほどしかいないとは言え、なぜこんなとこで、こんなに言われなきゃいけないのか

 


 理由は1つ……俺が情けないからである。

 ピクニックから早1ヶ月、とっくに安田記念も終わり、昨日は上半期の総決算、宝塚記念も終わった。

 なのに、未だに吉沢さんに告白出来てない!!


「貴方が一言『好きです』や『付き合ってくれ』と、言えば終わる、簡誰な誰にでも出来るお仕事です」

「仕事ではないかなぁ……」



 野々宮さんは視線だけを俺に向けてくる

 俺には猫かぶるのを辞めたのか、言葉も態度も表情も何もかもが冷たい


「ピクニックの時に、貴方と愛梨ちゃんは『付き合ってるみたいです』と、既成事実を作って差し上げたのに、壊してどうするのですか」

「蓮から突然言われたし、心の準備が」


「準備が? では、既成事実を否定したものの、松岡君からは『お前の意思で動け』言われたのですよね? 」

「はい」

「そこから約1ヶ月経ってるのですが、この期間は準備期間にはなってないのですか? 」

「そうなんですけど……」


 顔を手で覆うと深〜い、ため息を

 吐いた野々宮さん。

 こんなにも感情を顔に出してくるとは珍しい


「堂々巡りですね。何故、一言が言えないのですか? 」

「吉沢さんといると楽しいし、嬉しいよ。でも、言おう言おうと思うと言えなくなる」


「それは何故なのですか? 」

「本気で『好き』って思ってるから? 」

「質問を質問で返さないで下さい」



 呆れ顔になっちゃったけど、自分でも呆れてしまう

 本気で思ってる事を突然、口に出してしまう事も多いのに

 吉沢さんに対して『好きです』って言葉は喉のところで止まってしまう

 それこそ無意識に出てきて欲しいのに



「それより野々宮さんこそ、れんに対して特にアクション起こしてなくない? 」

「私には私の考えがありますので、お気になさらずに」

「前は俺に協力して欲しい。みたいに言ってたくせに」

「ここまで愚鈍ぐどんなら、最初から1人でやってました。何のために松岡君の幼馴染である貴方に声を掛けたのか」 



 え? 本屋さんで声を掛けたのって俺が蓮と幼馴染だったから??

 最初からそれが狙いで声を掛けて来てたの?


「あ〜あ。野々宮さん一目惚れして好きだったのに残念だ。こんな性格だと思わなかった」

「貴方が私の外見に勝手に見惚みとれて、私の中身を勝手に決めて、勝手に好きになって勝手に幻滅して、それを言ってくるなんて自分勝手すぎませんか? 若生君なんてどうでも良いですが」


「ぐうぅぅ」

「なんですかそれ? 」

「ぐうの音も出ないけど、悔しいから出してみた! 」

「声が大きいです。図書室ですからお静かにお願い出来ますか」



 くっそ! ムッカつくなぁ!!!

 蓮に野々宮さんの本当の性格を教えようかな

 たぶん蓮も信じないだろうけど



 野々宮さんの言ってる事は間違ってない。間違ってないからこそムカついてしまう、情けない自分に



 妄想でしか恋愛をしたことないから経験値が0なんだよ、レベル1なんだよ。もちろんチート持ちでもないし特殊なスキルもない!



愛梨あいりちゃんとは、普通に遊んだりはしてますよね? 」

「ま まぁ」


 遊んでる言っても一緒に競馬レース観て、あーでもないこーでもない。言ってるだけなんだが



「雰囲気が大事ですから、まずは雰囲気作りからです」

「たとえば? 」

「週末には7月になりますし、海辺はどうでしょう」

「野々宮さん……蓮と行きたいの? 」

「今は若生君の話です。海開きはしてませんから、海辺を散歩したり2人で静かに海を眺めたり」

「普通にロマンチストなんだね。蓮と海デートしたいのかぁ。へぇ〜」


 頬を赤く染めるとプイッと横を向いてしまった。 

 形勢逆転か!


「そっかぁ。蓮と海デートしたいんだ。まっ 俺は小さい頃から何回もあるけどさぁ」


 おっ 少し悔しがってない? 握りこぶし作っちゃってるじゃん


「蓮ってスタイル良いじゃん。腹筋も割れてて格好良いんだよね。俺なんかお姫様抱っこされて海に投げ出されたしさぁ」


 ふふん。好きな男からのお姫様抱っこはされたいはず!

 ロマンチストな女の子ならなおさら!


「それに水着ギャルたちが凄い蓮に話し掛けて来るんだよね、俺は無視して蓮だけに。海の家でも蓮だけ焼きそば大盛りになったり、カキ氷サービスだったり、俺は普通なのに…………この話、辞めて良い? 」

「貴方から勝手に話しといて勝手に悲しくならないで下さい」



 よくよく思わなくても、明らかに俺って邪魔物扱いだったじゃん


「とにかく。若生君は愛梨ちゃんと海辺に行くことです」

「それで何とかなるかなぁ」

「雰囲気に飲まれて告白出来るかもです」

「はは〜ん。野々宮さんは、そんな感じに告白されたいんだ」

「黙れ、犬畜生以下」



 こわっ! そんな低い声出せるの? 幾重にも猫かぶってた!!



 でも野々宮さんの言うことも分かるし、何事もやってみなければ分からない!

 今はわらにもすがる思いだ、野々宮さんにすがってみよう!


 早速RINEで吉沢さんに土曜日に出掛けよう。と送ってみた


 すぐに既読になり『りょ』の文字と可愛いらしいハートが付いたスタンプが送られてきた

 


 男には超えなきゃなんねぇ壁がある!!

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