第18話 おしゃピク

 土曜日ってのもあるのか 昼前にもかかわらず、芝生には色とりどりなシートが敷かれてあった 


 キャッキャと元気に遊具で遊ぶ子どもたち。それを優しい眼差しで見つめる親たち

 はたまた、寝転びながら将来の事でも語らってそうなカップルたち


 実に健康的で爽やかな休日を過ごしてらっしゃる

 これもまだ6月頭なのに、夏日になった陽気のせいなのか


 普段の俺ならソファーに寝そべって競馬中継だもんな



「良い天気で良かったですね」

「ホントだよね。風も気持ち良いし、日光浴してビタミンD作ろっと」

「虫除けスプレーも持ってきましたから」

「助かる〜 さすがあおいちゃん」


 吉沢さんと野々宮さんのバッグからは、ピクニックバスケットやドリンク用のお洒落なカップ。

 木製の可愛らしい食器に、赤と白のギンガムチェックのピクニックシート。

 と、これでもかと言わんばかりに、互いの女子力を競い合ってそうな華やかなアイテムが次から次に出てくる。



 一目惚れだから『好き』の感情は薄れつつあるけど、やっぱ野々宮さん可愛いなぁ 


「葵ちゃん。明るい色も似合うんだね。レトロな花柄ワンピにパンプスに白バッグ。胸元のリボンも可愛し甘めガーリーだ」

愛梨あいりちゃんも、っぽいですよね。デニムに白Tシャツにスニーカーってシンプルですが、スタイルが良いのでモデルさんみたいです」



 女の子って褒め合うの好きだよな。ただ、この2人に関しては何故か、お互いを値踏みしてそうな雰囲気を感じるのですが


颯太そうた、ちょい耳かして)


 シートに座ると、れんから近付いて来いと手招きされた


(あの2人。お互いに語尾を微妙に伸ばした褒め合い方だから、ショップ店員が客を褒めてるような、わざとっぽさがあるよな)


 それか! 店行って買うことないから知らんけど、物真似とかで観たことあるかも



 ピクニックシートに必要なものを並べ、まずはティータイムをすることになったらしい


 野々宮さんの保冷バッグにはカットされた苺やレモン、ブルーベリーにパインと色々と揃えてあった。

 フルーツを取り出すと透明なガラス容器に手際良く入れ始める



「その、ガラス容器お洒落だね」

「これは『メイソンジャー』ですよ」


 メイソンジャー? ダイワメジャーとハービンジャーなら知ってるよ……

 吉沢さんにしか通用しねぇな


「ごめん、アタシ。お花ツムツムしてくるね」

「俺も便所行きたい」

「松岡君。わざわざ普段使わない言い方したのに意味ないじゃん」


 先に向かっていく吉沢さんを慌てて追い掛けていく蓮。


「若生君は大丈夫ですか? 」

「大丈夫だけど。何か手伝おうか? 」


 野々宮さんは「フウッ」と息を吐いたかと思うと、俺を見るなり今度は深く大きくため息をついた。



「まだ3週間なのか、もう3週間なのか」


 野々宮さんの声音も表情までもが、明らかに変わっていた。ってか目付きが……愚民を見るような女王様の目ってこんな感じなのかな?


「若生君。もうキスくらいはしましたか? 」

「え? キス?? 」

「聞くまでもないですよね。髪型変えて少し人気が出たと言っても」


 お前ごときに期待してないが、やはり何もない。と、分かると侮蔑せざる得ない。って目で言われてる気がする

 後半の人気が出た。の下りが聞きたいが聞ける雰囲気じゃない



「モタモタしてないで、早く愛梨ちゃんと付き合ったらどうですか? 」



 この人、顔と心が真逆だよ。

 俺が好きだったのは野々宮さんなのに

 無駄に俺を傷付けて来るな


「愛梨ちゃんも。最近分かった事ですが、清楚系ビッチと真逆ですよね。純情系ギャル……とでも言うのですかね」


 野々宮さんから『清楚系ビッチ』って言葉が出てくるのに驚きだよ ホント普段はどんだけ猫被ってるの?


「噂で男嫌いとかあったので、それが本当なのかも。と、最初は思いましたが」

「違うみたいだね」

「若生君が愛梨ちゃんと付き合えば、松岡君は諦めると思うのですが」


 何か腹立ってきたな、この前は野々宮さんの応援しても良いかな。思ったけど


「あのさ、俺と吉沢さんの関係なしに野々宮さんが頑張れば良いだけじゃん」

「そ それが上手く行かないので若生君に言ってるんです」

「人のせいにしないで貰えます。蓮にとっては、野々宮さん魅力ないんだよ」


 ヤバい……言い過ぎた。


 メイソンジャーのキャップを外そうとしていた野々宮さんの手が止まった



「……松岡君は他校の女子生徒にも人気ありますからね」

「いや、野々宮さんもだからね。去年の文化祭とか凄かったじゃん」



 去年の文化祭で実行委員だった野々宮さんは

 巡回中にも他校の男子生徒から、写真をお願いされたり告白を受けていた。

 俺も写真撮りたかった内の1人だったからな


 前に自分に自信がない。と、言っていたけど

 可愛くて頭も良くて友だちも普通にいて、何もコンプレックスとかねーだろ 

 同じ女の子が聞いたら嫌味すぎて引かれるわ



 面倒くさいけど、1度は惚れた弱みだ。


「どこかで俺が吉沢さんを誘うから、蓮と2人だけになれる時間を作るよ」

「あ ありがとう御座います」


 ってか、俺自身がどうしたいのか分からなくなってきた

 蓮が吉沢さんを好きなのは変わらない訳で


 吉沢さんと2人だけで会うときは、どうしても片隅に蓮が引っ掛かってしまう

 俺は吉沢さんに恋をしてるのだろうか?


 いつも一目惚れや顔が好みなだけで始まる片想いだったから



「若生君は愛梨ちゃんに恋してますよ」 

「何で俺が分からない事が野々宮さんに分かるんだよ」

「見てれば分かります」  


 俺の好意は分からなかったくせに この清楚系ビッチが……っと、感情的になってしまった



「トイレめちゃくちゃ混んでたし」

「男子トイレはそうでもないけど、女子トイレは列が出来てたな」

「それは大変でしたね。フルーツドリンク作って置きました」


 2人が戻ってくると天使のような笑顔をすぐにつくる。

 あざとく両手でメイソンジャーを掴み、小首をかしげながら蓮に手渡す野々宮さん


 やっぱ清楚系ビッチだわ

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