第19話 透明感溢れる青春がしたい

 昼も食べ終わって落ち着いてきたし頃合いかな


「吉沢さんの弁当、凄い美味しかった! 盛り付けも綺麗だったし」


 明らかにニコニコ顔の吉沢さんに、驚いた顔のれん

 野々宮さんも弁当作ってくれたのに、吉沢さんだけを褒めてるんだからな。


 はぁ〜 心底、周りで楽しむ家族連れやカップルを羨ましく思う


 俺が今からすることは蓮を裏切ることになるのか

 前に見た野々宮さんの涙が嘘だとは思わない。蓮に対する想いも本物だろう

 それは蓮にも言える事で、雨で隠すように涙を流した蓮


 じゃあ、何で俺は野々宮さんの都合で動くのか…………本当に惚れた弱みだけか?

 蓮から吉沢さんと2人にするよう手伝ってくれ。って、先に言われてたら俺はどうした?



「吉沢さん。運動ってか、少し歩こう」

「良いね! ウォーキングコースあったし」


 蓮の顔が見れない。アイツは今、どんな顔をしてる?


「暑いですし、好きなペットボトル持っていって下さい。水分補給は大事ですよ」


 野々宮さんに言われ適当にペットボトルを選んだは良いが、蓮の顔を見ないままウォーキングコースまで来てしまった。


「若生君。こっちのコースだと海が見えるみたいだよ」

「逆のコースだと仙台の街並みか……」


「「海だな」」


 ハモった。最近少しずつだけど吉沢さんの考えてる事が分かってきた気がする


「馬と喋られたら若生君なら、何を聞く? 」


 前言撤回。やっぱ、分かんねぇ


「喋られたら調子とか、勝てるかどうか。とか? 」

「アタシは苦手な騎手や、同じ厩舎で好きな子いる? とか」


 他愛もない話だけど何か楽しいんだよなぁ


 舗装されたウォーキングコースの両側には木々が生い茂っていた。

 木漏れ日がチロチロと歩道にゆらめく。


 少し立ち止まり深く息を吸い込む吉沢さん 


「風が気持ち良いし、緑の香りっての? 何か優しい匂い」



 あぁ 頭がグチャグチャになる。

 もしも、俺が野々宮さんに恋をしていた時

 蓮が隠れて野々宮さんと会ってたり、偶然や流れとは言え、野々宮さんの胸を堪能したり髪を撫でていたら。と、思うと胸が締め付けられる

 それを俺はやってんのか……


「若生君。何、考えてんの? 」

「え? 」

「何か、険しいってか……楽しくなさそうだから」

「ごめん。何でもない」

 

 吉沢さんは両手の人差し指を自分の口元に当てた。


「口角上げる! ニコッてしてよ。若生君の笑った顔好きなんだから」

「そう言われると逆に出来ないって」

「出来る出来る」


 人差し指で口角を上げたまま白目を剥く吉沢さん


「それ、ホラーだよ。笑えないよ」

「マジ? 友だちにやると全員大笑いなんだけど」



 歩き出しながら「白目の剥き方甘かったかなぁ」と、呟いているが、ガチで怖かったからね


「吉沢さんって好きなタイプあるの? 」


 キョトンとしてるけど、純粋に知りたかった。

 そもそも俺を好きだと言うが、元の好きなタイプが蓮みたいなイケメンなのか、それ以外に何かあるのか


「あぁね。昔は1コ下に夢中だったかな」

「年下彼氏? 年下好きだったの? 」


 意外だな。大学生とか大人の男とかに惚れそうな気するけど


「年下ってか、アニキャラとか」

「それ、次元が1コ下!?」


「べ 別に良くない? 報われない恋だよ。ホント切なすぎ」

「ち 因みに初恋は? 」

「ブエナビスタ!! 」

「いや、馬じゃん! しかも牝馬!! 初恋が人外って」

「黒鹿毛で美人さんだよね。あれ? その頃から百合好きだったのかも」



 それは百合好きってより、吉沢さんが百合になってない? 人と人外との百合って需要ある?? 俺以上にこじらせてない? もしかして吉沢さんって、彼氏いままでいなかった? 謎だらけだよ! 聞きたいけど事実を知るのも怖いし


「ほらほら、そこの丘から海が見えるみたいだよ。ベンチあるし座ろ」


 かけ足で登ってくけど、テンション高いなぁ

 結局、好きなタイプ分からなかった……



「喉乾いたね」

「え? 吉沢さん。ペットボトルとか飲み物は? 」

「持ってきてないよ」

「なんで? 」

「荷物になるし、自販機あるだろうから買えば良いかな。って」


 見渡しても自販機ないじゃん。


「俺の上げるよ」

「それは悪いって。一緒ので飲もうよ」   

 

 間接チューごときでドキドキしてたら格好がつかん!

 ここは、さらっとスマートにやるべきだろ


「じゃあ。吉沢さんが最初に飲んでいいよ」 


 しかも紳士的にキャップまではずし……プシュッ


「冷たっ! 」


 よく見ずに手に取ったけど、炭酸水かよ!! 歩いてる途中にめちゃくちゃ振っちゃってたよ。ヤバい、吉沢さんに掛かっちゃった


「ごめん。拭くものがウェットティッシュしかないや」

「若生君わざとじゃないよね? 」

「んなわけ……ブルー、水色?」


 あわわわ白Tシャツだから、濡れてブラが透けちゃってる


「水に濡れてるし、白Tの下にあるから水色に見えるけど、ブルーに近いかな。って、オイ」 

「大丈夫! ほら、ブルー。青色はさ、初恋相手のブエナビスタが、オークス勝った時の4枠と同じ色だし」


 自分でも何を言ってるのか分からないけど、何か言わなくちゃ


「そ それに俺も今日ブルーのボクサーパンツだし。お揃いだよ」

「ブルーのボクサーパンツ……」


 俺は青ざめた顔をしてるかもしれんのに、吉沢さんは少し顔を赤くしてらっしゃる


「吉沢さん? 」

「な なんでもない」

 

 前を向けばオーシャンビュー 横向けばおっぱいビュー 透けブラだけど、最高のロケーションじゃねーか

 突然、ペットボトルを持ち男らしくグビッと飲む吉沢さん


 ゴホッ ゴホゴホッ! 炭酸水を俺にリバースし、すぐに咳き込んだけど、シュワシュワな炭酸水を一気飲みしたらそうなるよ

 しかも強炭酸水だったし


「大丈夫? 最初は浅く息を吸って」


 背中をさすっていると少しずつ落ち着いていった。


「し 死ぬかと思ったぁ〜。若生君にも掛かったよね、ごめん」


 ご褒美だと思ってるから大丈夫なんだけど


「元は俺が悪いんだし」

「ってか、ウチら上半身ビショビショじゃん」

「だな。ここのベンチ日当たり良いいし、少しいれば乾くよ」



 ううぅぅん。さっきまで透明感あるような青春をしてた気もするが、お互いに黙ってしまうと気まずい!!

 炭酸水がベタつきはじめてるし


「最近さ。あおいちゃん、若生君の話を良くしてくるんだよ」

「俺の話? 」

「そ。髪型変えてから女子の間で話題になってますよね。とか、少しずつ人気出てますよね。とか」



 マジで!? 美容師さんってか、吉沢さんのママ、カリスマやん!


「何か。やたらと若生君を褒めたりしてくるし」

「そうなんだ。照れるね」

「だから、葵ちゃんも若生君に気があるんだよ」


 それはない! 俺が悲しいことに1番知ってるから!!


「そりゃそうだよね、若生君。優しいし面白いし、かっこかわいいし」


 もう褒めるの辞めてくれ。褒めなれてないから体がムズムズする。

 野々宮さんは、俺と吉沢さんをくっつけようとして、俺の良いところを過剰アピールしてるだけだろ!


 野々宮さんの作戦も裏目に出ちゃってるじゃん!


 吉沢さんの中では、美少女と名高い深窓の令嬢と学校内でも可愛くて有名なギャルから惚れられてる、ラノベ主人公な俺になってる!!



 ってか、野々宮さんも吉沢さんも恋に関しては俺レベルで低いだろ! 恋に慣れてる4人なら、どの組み合わせになるか知らねーけど、1ペアは出来て付き合ってそうだもん!



 吉沢さんも拗らせて来たんだろーな 俺と同じで鈍感なのかも。

 モテる分、モテないやつの気持とか分からなそうだし。

 俺を好きになる時点で相当の変わり者だろうし 

 


 野々宮さんは蓮と上手くやってるかな?

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