第8話 ギャル含めての四角関係?②

 夕方から傘マークってことは、何とか天気は持ちそうだな


「傘はいらないか」

「お兄ちゃん。最近、土曜に外出そとでんの多くない? 」


 つい、出てしまった独り言に反応したのか、芽郁メイはファッション雑誌から俺に視線を移した


「そうか? 」

「前は土日は絶対に家から出なかったじゃん」


 さして興味もある訳じゃないのか、すぐに視線をファッション雑誌に戻す


 ソファで体育座りするようにして雑誌を捲っているが

 この妹に聞くのも恥ずかしい……俺のファッションどう?


 聞けねえぇぇぇ


 でも、一応は聞いておいた方が周りも恥ずかしくないだろうし

 俺と違って流行りもんとか詳しいし


 中3の芽郁は俺を反面教師にしたのか、陽キャだしファッションもギャルっぽく吉沢さんに似てる。

しかも色気付きやがって、先週から髪も茶色に染めてるし 


 俺が吉沢さんを本能で怖いと思うのは 芽郁と重なる部分もあるからなのか……



「め 芽郁、あのさ……」

「ん? 」


 相変わらず雑誌に視線をやったまま気怠げな返事をしやがる


「えっと、なんつーか」

「なに? ウザいんだけど、お金は貸さないよ」

「いや。お金は大丈夫なんだけど……」


 パンッ


 ファッション雑誌を勢いよく閉じる芽郁にビクッとしてしまった


「ウジウジウジウジ、ウジ虫君なの? 」

「……違うけど」

「ウジ虫に失礼だもんね」


 くっ 兄をウジ虫以下だと思ってやがる


「こ この服装って、どう……かな? 」


 あれ? 目をパチパチさせちゃってどうした?


「え? それ服だったの?? 」

「え? それ以外に何に見えるの? 」

「ゴミ」


 当たり前感がやべー



「勘違いしないでね。服は既製品だから、そこまで悪くない」

 

 俺がゴミって言いたいだけじゃねーか!


「じゃあ。俺に似合うのって何だよ? 」


 小首を傾げる芽郁 思い付いたのかニヤニヤしだした 


「濡れ衣」

「は? そんなの似合ってたまるか!! しかもお前が良く着せてくるもんじゃねーか! 」

「うっさいなぁ、分かったから。今回は芽郁ちゃんが恩を着せて上げましょう」



『付いてきな』と、ヤンキーが体育館裏に呼び出すような口調で芽郁は俺の部屋へと入ってく



「ホントに競馬のグッズしかないね」

「良いだろ、好きなんだから」

「クローゼットに変なもん入ってないよね? 」

「入ってねーよ! 」



 芽郁はクローゼットを開け、一通り眺めると、いくつかサッと手に取り俺に渡してきた


「これ、着てみて」

 

 とりあえず言われたまま着てみることにする


「これが人類の限界だね。さっきよりはマシでしょ」



 鏡に映る自分を見ると確かにさっきよりスッキリしてるし色味が春っぽい

 組み合わせだけでも印象って変わんだな


「白のニットセーターに黒のテーパードパンツ。シンプルだけどお兄ちゃんにちょうど良いんじゃない」

「ありがと、さっきより全然良い。昼には出掛けるからさ」

「そ、帰ってこなくて良いからね」


 なんつーことを言いやがる!


 芽郁は兄びいきを察し引いても可愛い部類だろう

 告白された、ラブレターを貰った。などを母親に言ってたのも一度や二度ではない。

 同じ血なのに謎だ……







颯太そうた。気合入ってんな! 」

「そうか? それより早くしないと電車行っちゃうぞ」


 駅でれんと合流するなり含み笑いをしてきた


『気合入ってんな』って、こっちのセリフなんだけど

 イケメンでスタイル良いから、シャツにジャケットにデニムってシンプルなのに、とても決まってらっしゃる


 チラチラと女の子の集団が見てくるくらいだ


「アウトレットで買い物して、観覧車乗って、そこが勝負だな」



 電車に乗り込み最終確認の様に話してくる蓮だけど

 このまま俺は野々宮さんに告れるのだろうか?

 そこまでの覚悟を持ってるのか??


「蓮さ……吉沢さんに断られたら帰りの雰囲気悪くならない? 」

「雰囲気悪くならないように振る舞うって」


 振られるの分かってて告るだけあって心の準備がしてあんのか

 でも、振られるか分かんないよな?


 もしかしたら吉沢さんからOK貰えるかもしれんし

 もしも2人が付き合ったら、俺は吉沢さんとは…… 


「男嫌いだから、まずは告って振られて友だちとして付き合えれば、他の男よりもアドバンテージだろ」

「用意周到だな」 

「どんなにヒドイ言葉言われようと、受け止めて友だちからなってもらう」  


 蓮にRINEで『やっぱ男、大嫌いらしいぞ』送ったの訂正出来なかった……

 今からでも訂正出来るのに、言い出せない俺がいる


「お前も野々宮さんと仲良くなれる様に頑張れよ」

「あぁ」

「こんなチャンス中々ねーぞ」

「分かってるって」



 なぜか心が重い

 本当なら野々宮さんと休みに遊べるなんて めちゃくちゃ嬉しい事なのに

 霧がかったみたいにモヤモヤが消えない


「付いたぞ。颯太」


 改札を出ると同じようにアウトレットモールに行く人たちで混んでいた

 見回しても見つけるのに苦労しそうだからスマホを手にした



「若生君、松岡君。こっちこっち」



 声の方を振り向くと


 ファッション雑誌から そのまま出てきた様な吉沢さんが手を振っていた

 思わず漏れたのか蓮から『ヤバッ』って声が聞こえた


 吉沢さん目立つなぁ ショートパンツにパーカーにキャップ 

 スポーティな感じだけど蓮が好きなファッションじゃん


「吉沢さん。似合っててめっちゃ可愛い」

「ありがと。でも、テスト期間中動いてないから、ぽよっててさ」


 サラッと言える蓮はさすがだし、サラッと返す言われなれてる吉沢さんもさすがだ


 全然ぽよってる様に見えませんが



「こんにちは。私が最後だったんですか? 」


 野々宮さん! 私服の野々宮さん初めてみた!!


あおいちゃん。白ワンピ可愛い」


 俺もなにか言わなきゃ! その首もとのリボン可愛いとか


「野々宮さんの首もとのリボン可愛いね。上品で甘めな女の子って感じ」

「あ ありがとう……松岡君」


 くっそ! 先を越された!! 見た目だけ褒めてもダメだって聞いたことあるし あとは……


「の 野々宮さん。髪からめっちゃ良い匂いするね」



 ………………なに? この終末感溢れる空気は??   

 他の人たちは楽しそうに颯爽とアウトレットモールに入っていってるけど

 俺たちだけモノクロになってない!?  


「お前、それは気持ち悪いよ」

「だ 大丈夫ですよ。ありがと若生君」


 何かやらかした!? どこを失敗したかも分からないのですが!!


 ちょっと野々宮さん、俺から少しずつ距離取ってない??

 俺は危険人物なのか!? 取り扱い注意なのか?


「まぁ、若生君だし。仕方ないよ、アタシらも行こ」

「だな。颯太だしな」

「ですね。若生君ですから」



 3人で歩き出しちゃったけど、今度はめちゃくちゃ笑い出してるじゃないか!

 良く分かんないけど皆が笑ってくれるなら、もはや道化ピエロでも構わんよ 今日は道化ピエロになっちゃうよ俺。



「若生君。テスト勉強ありがとね」


 3人のうしろを歩いていた俺に吉沢さんが並んでくる

 野々宮さんと話しながらも蓮がチラッとこっちを見てきた


「俺はそんなに役立ってないでしょ。野々宮さんがほとんど教えてたし」

「葵ちゃんにも言ったよ。若生君には言ってなかったなって」



 テスト勉強中もあまり吉沢さんと話せてなかったからな


「何か若生君。オークスとダービーの事、考えてそうだよね」

「そりゃ。明日と来週だからね、競馬民にとっての祭典! フェスティバル!! 」


 少し大げさに両手を広げると吉沢さんは笑ってくれた 

 最近、元気なかったし少しでも楽しんで来れると良いけど


「なになに? 何の話? 」


 楽しく吉沢さんと話してるのが気に食わったのか、蓮が目配りしてくる


 明らかに野々宮さんと話せ。って言ってる

 目は口ほどに物を言う。まさしく今の蓮だ  


 交換するように野々宮さんの隣を並んで歩く


 どうしよう? 吉沢さんとは上手く話せるようになったけど

 野々宮さんとは緊張して素の自分が出せない

 野々宮さんの前だと道化役になれない


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