第8.5話 四角関係 野々宮 葵の場合

 みんなと土曜にブラブラと買い物したり 併設されてるゲーセンで遊んだり 去年までの俺には考えられなかった


 たまたま2年になってれんが同じグラスになり 

 偶然に野々宮さんと図書委員になり

 隣の席が吉沢さんになった事で世界が変わった気がする


 他人の事であれこれ考えたり悩んだりした事なかったし

 野々宮さんにしても、こんなに近付けると思ってなかったからなぁ



 いつの間にか蓮と吉沢さんはいなくなったから余計にプレッシャーがハンパないけれども!

 しかも、ここお洒落なカフェで完全にアウェーだよ!!



「あの2人お似合い……ですよね」


 言い終わるとストローを軽く口で挟む野々宮さん

 アイスティーを上品に飲む姿に見惚れてしまう


 つい野々宮さんの口元に視線が止まる


「蓮も吉沢さんもビジュアル高いし派手だからね」

「モデルのカップルみたい」

「もしくは、人気配信者カップルだね」


 クスッと野々宮さんは微笑むと、ストローで氷を突っつき始めた。

 その仕草が何かにイラついてるように見えて野々宮さんっぽくない。


「若生君。土日以外で1番好きな曜日ってなんですか? 」

「曜日? 金曜だけど、普通はみんなそうなんじゃないの?? 」

「私は金曜日が1番嫌いです」



 顔を曇らせてるけど金曜が1番嫌いとか珍しくない?


「なんで? 」

「……土日は好きな人に会えない。だから……だから今日は凄い楽しみで嬉しかったのに」


 ストローを突っつくの辞をめて顔を上げた野々宮さんは泣きそうになっていた


 頭を思いっきりブン殴られたように脳が揺れる 

 知らなかった……野々宮さんは蓮が好きなんだ


 息苦しい 脳は酸素を欲しがってるのに上手く行き届かない


「ごめん」


 謝ることしか出来ない

 蓮と一緒にいたかったんだよね

 俺なんかじゃなくて


 野々宮さんは弱々しく首を横に振った


「若生君が謝ることじゃないです」


 次の言葉が出てこない


「入学式前に説明会あったの覚えてますか? 」


 黙って頷いた


「私、貧血になって倒れそうになったんですよ。床にぶつかる!と、思ったら優しく受け止めてくれたのが松岡君だったんです」


 そんなこと蓮から聞いてないし、その時から好きだったってこと?


「私は意識なくしてて後から知ったのですが、松岡君が保健室まで運んでくれました」


 懐かしむように話す野々宮さんは少し嬉しそうに見えた


「入学式の翌日、お礼を言いたくて、松岡君のクラスに行きました」


 入学したてで知り合いもいないクラスに行くのは、凄い勇気が必要だった。と、言う野々宮さんの気持ちが分かる。

 それだけ蓮にお礼を伝えたかったんだろう  


「お礼を伝えたら、その日の昼休みに松岡君がやってきて『これ、やるよ』って、両手一杯に鉄分入った、ブルーベリーのパックジュースを持って来てくれました」


 少しずつ野々宮さんの顔が明るくなってきた


 初めて聞く事だらけだった。


 蓮に下心があったのかも知れない

 普通に心配してたのかも知れない

 気まぐれでやっただけかも知れない


 分からないけれど、ただ1つ言えるのは野々宮さんが蓮に惚れて、そして今も蓮の事が好きなんだ。って事実だ。


 いつしか野々宮さんは涙を零していた


「どうしよう若生君。愛梨ちゃんに勝てる訳ないけど」


 微笑みながら泣く女の子をリアルで初めて見た。


「松岡君の事が好き」

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