第23話 ここラブホじゃん

 サーフショップに近付くに連れて違和感しかない

 Wi-Fi完全完備? モーニング無料?? 夏季限定メニュー追加しました???

 サーフショップに関係ない文字が書いてあるし、真っ白な壁は高く、小さい西洋のお城みたいな外観……


若生わこう君、これサーフショップじゃなくない? 」

「た……ぶん」


 休憩3200円〜 宿泊6800円〜とか書いてあるけど


「ここラブホじゃん」

「あの看板、紛らわしいな。どっかに服屋あれば良いけど」



 サーフショップじゃなかったのかよ! 近くまで来たらすぐにラブホって分かる。


 戻ろうとすると吉沢さんに袖を掴まれた


「髪も体もベトベトだし、お腹空いた」

「え、うん、だな」

「シャワー浴びたい……入ろ」

「え? ここに?? 」


「うん。若生君はベタベタして気持ち悪くないの? 」

「それはするけど」

「この濡れたまま、歩くのは嫌だし」



 車で駐車場へと入っていく人や、出てくる人たちからジロジロ見られてる……

 何か入り口らへんで『入る入らない』で揉めてると思われてそうで恥ずかしい


 シャワー浴びて飯食うだけだよな? でも、ラブホだよ?? ドキドキが止まらん! そんな雰囲気になったらなったで頑張れ俺!!



「若生君。何か、他の人に見られてそうで気分悪いし」

「だな。入ろう」



 ラブホの中に入ると、部屋が紹介されている大きいタッチパネルがあった。


「適当で良いっしょ。どの部屋も似た感じっぽいし」



 吉沢さんがタッチパネルを押してからエレベーターへと向う。


「501だって」

「え? 鍵とかないの?? 」

「オートロックでしょ?」


 そうなんだ。吉沢さんこういうとこ来たことあるのかな?

 何か慣れてそうな気がしないでもない

 ラブホ初体験だから居心地が悪い……高校生って入っちゃダメだよね?


「あったあった。ラッキー、同じ料金なのに角部屋っぽい」


 本当にオートロックだった。吉沢さんの後に続いて部屋へと入る。


「何気にオシャレじゃん! 」


 吉沢さん、少しテンション上がってない?


 ってかこれがラブホか! 赤い壁に白いベッドとテーブルに黒いソファ

 赤と白と黒色しかない。何かラブホにいると思うと興奮してくるな!!


「若生君。ジェットバスだよ! 」


 浴室から吉沢さんの声が聞こえたので向かうと、吉沢さんはお湯を溜め始めていた。


「シャワーだけじゃないの? 」

「3時間までなら料金一緒だし、せっかくだからさ。服も乾かしたいし……着替えるから向うに行ってて……」

「え!? あ。うん……」


 ソファに座り待っていると、浴室から戻ってきた吉沢さんはバスローブ姿だった。

 

 思いっきり目のやり場に困るんだけど! 


「若生君は着替えなくて良いの? 」

「う うん。大丈夫」


 バスローブに着替えたら下半身が暴れてるのバレそうだし……

 バスタオルで髪を拭きながら「ごっはん、ごっはん」とメロディ付きで鼻歌を唄う、ご機嫌な様子の吉沢さん。

 

 「お湯溜めてる間に、ご飯食べちゃおう」

 

 そのまま隣に座りテーブルに置いてあるメニュー表を見始めた。のは良いが……前かがみになると胸の谷間がくっきりと見えてしまう

 

 逆らえない引力を持ってやがる、視線が誘導されて釘付けになる。


「ごめん。メニュー表見にくいよね? 若生君はなに食べたい?? 」


 くっ! 手に持ったメニュー表を俺に見せようとしてくるので、余計に近いし谷間はムニュってしちゃったし。視線はメニュー表に向かず、目乳めにゅうになってるのですが!!



「これ、美味しそう。アタシはオムライスとバニラアイス」


 メニュー表に何があるのが知らんが、外ののぼりに『冷やし中華始めました』書いてあったし


 「俺は、冷やし中華にしよっかな」


 オッケーと言いながらリモコンを手に取る吉沢さん。フロントかどっかに電話して注文するんじゃないの?


 テレビを付けるとリモコン操作で色々と注文が出来た。

 明らかに来たことあるでしょ? ラブホのシステム詳しすぎ!


「ん? どったの若生君?? 」

「いや、べつに……」


 野々宮さんは吉沢さんを純情系ギャル。みたい に言ってたけど、ギャルはギャルだ。

 そりゃ吉沢さんだもんな、ラブホにだって来たことあるよな……


「最近ってか、高校入ってから友だちと女子会するんだけどさぁ」

 

 横並びで座っているソファには、あえて体1つ分を空けておいた。

 なのに、吉沢さんはピタッとくっついてくる。


「ラブホって、カラオケもあるし、映像配信や動画配信も大画面で見れるし」 


 吉沢さんがリモコンを操作するとYou Tuboに変わった

 凄いな! 映画もアニメも普通に何でも観れる!!


「今は『女子会プラン』とかあって、スウィーツ食べ放題とかブランドコスメ無料とか。だから、たまに使うんだよ。このホテルは初めてだけど」

「そんなのもあるんだ! 女の子からしたら魅力的だ」

「でしょ。だから……」



 俺の小指と吉沢さんの小指がぶつかる 一気に小指に神経を集中させてしまう


「若生君が思ってるような事じゃないよ」

「別に思ってないよ」

「良いって。そう思われたり言われたりするの、慣れてるっちゃ慣れてるし」


「……ごめん」

「アタシの見た目が見た目だし『男嫌い』って噂を知らない人たちから見たら……」


 自虐にも程がある言葉を呟くと視線を落とす吉沢さん。

 お互いの反応を確かめるみたいに小指と小指が絡まる。



「見た目で、ある程度判断されるのは仕方ないよ」 

「そうかもだけどムカつくじゃん」

「だって、中身知らなかったら判断出来るの外見だけだから」



 今までの俺がそうだったけどな。野々宮さんに対しても吉沢さんに対しても

 小指から薬指、中指、人差し指と、全部の指を吉沢さんと繋ぎ合わせる



「でも、外見から中身を知ったらギャップだったりで、その人の事を」


 ピンポーン


 うぉ! びっくりしたあぁぁ!!


「やった! お昼ご飯来たよ!! 」


 すぐさま握ってた手を離され、ニコニコ顔でドアへと向かって行く吉沢さん。

 さっきまで暗そうな顔してたのに……


 部屋にいる人の顔が見られないようになのか、ドアの横に付いていた小窓から手渡されていた。


 冷やし中華も美味かったし、吉沢さんから一口貰ったオムライスも美味かった

 その上大きい浴室に大画面のテレビとはラブホテル恐るべし!

 マジで慣れてくると居心地良いかも!!


「アタシお風呂入ってくる」

「あっ うん」


 この後ってどうなんの? 俺もシャワーは浴びるでしょ?? 

 そしたら残りは1時間くらいか。

 あれってどの位の時間を掛けてやるもんなの??


 こうなる前に蓮から色々と聞けばよかった

 いや、蓮から聞いたら俺が吉沢さんと、そういう関係になったんだ。って思って

 でも、蓮は『俺の事は気にするな』言ってたし……ダメだな。さすがに蓮には聞けないか


 ってか、吉沢さん。今、風呂入ってんだよなぁ

 いかんいかん。吉沢さんの胸や脚がチラついてしまう

 色々と頭ん中がグルグルとまわる。



 テレビ観て気でも紛らわそう…………なんで?


 つけたらつけたで男女がエッチしてる!

 さっきの吉沢さんはメニュー画面になってたけど、なんで?

 電源つけただけだよね?


 でも目が離せないし音小さくして吉沢さん上がるまで、観ちゃおうと





「めちゃくちゃ気持良くて長風呂になっちゃった……若生君? 」

「あ あぁ。俺も入るわ」

「何かやたらと落ち着いてない? 悟りきってないない? 」


 ホントすみませんホントすみません。賢者モードってやつです!!


 だって吉沢さんの風呂が長いんだもん!

 完全に俺が10分くらいでシャワー浴びなきゃ間に合わんし、あんなムラムラした状態で風呂上がりの吉沢さんと一緒にいたら、何するか分かんないよ俺……


 未経験だから、本当の意味で何して良いか分からんけど!



 シャワーを浴びて部屋に戻ると、吉沢さんは普通にテレビを観ていた。


「何してんの? 早く準備して帰ろう」

「え? あ、うん……」

「もう、服は多少濡れてても仕方ないや。さっきよりはマシだし」

「……そうだね」



 急いで吉沢さんとホテルを出ると「っくしゅ」っと可愛らしいくしゃみを吉沢さんはしてきた。


「お風呂入って温まったのに少し寒いかも」

「マジ? 海に濡れてから時間あったし吉沢さんが風邪引いても嫌だから、家まで送るよ」


 しかも今も微妙に濡れてる服を着てる訳だし


「こっからタクシーでも、吉沢さん家ならそんなに掛かんないよね? 」

「15分くらいかな」


 タクシーを拾って吉沢さんを自宅まで送り届け海デートはまたも告白出来ず終わった。






 月曜日、朝起きると吉沢さんから、風邪で学校を休むとRINEが入っていた。

 俺のせいでもあるよな……放課後、迷惑じゃなければ見舞いに行こう


 学校に着くなり異様な違和感を感じた。

 しかも、俺を見て何かザワザワとしてない?



「若生」

「なに? 」


 学級委員長の川田君が朝イチから俺に用なんてあるのか?


「登校したら生徒指導室まで来るように。って岩田先生が」

「え? 岩田先生って学年主任の? 」

「あぁ。行かなかったら俺が怒られるから頼むぞ」

「分かった」



 学年主任に生徒指導室? なんで俺が??


 初めて来た生徒指導室のドアをノックする


「2年1組、若生です」

「入ってこい」


 こわっ! 学年主任の岩田先生って絡んだことないけど、高圧的だし生徒からの評判悪いよな

 思いっきり深呼吸をしてから入った


「失礼します」

「座れ」


 椅子に座るなり、机に置いてあったノートパソコンを俺に向けてくる


「学校のぞくに言われる裏サイトってやつだ。お前も知ってるだろ? 」

「まぁ。正直観たことないですが、あるのは知ってます」


 ってか、教師にもバレてたら裏も何もねーだろ。

 しかも誰かが『タバコを吸ってた』、誰と誰が隠れて『付き合ってる』とかどうでも良いような………まさか!



「これは、若生で間違いないな? 」



 パソコン画面にはラブホに入ろうかどうか、話し合っていた俺が映っていた

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