第24話 ホントに姫か!?

 なんで俺が映ってんだよ!

 しかもご丁寧に動画で……誰だよ、こんな悪趣味なやつ

 唯一の救いは吉沢さんの顔は映ってない。って、ことだ

 キャップを深くかぶってるのと、角度的に俺に隠れてるから


 ただスタイルとか雰囲気で、吉沢さんと仲の良い人には分かりそうだけど

 動画撮ってる奴にはバレてるよな。この学校のやつだろうし



若生わこうで間違いないんだよな? 」


 疑問形なのに有無を言わせない圧を掛けて来やがる

 ここまで映ってたら開き直るしかない 誰にも迷惑は掛けてないし少し怒られるくらいなら



「はい」

「高校生が行くような場所じゃないのは分かるな? 」

「はい」

「バレてしまった以上は、ペナルティを与えねばならん」

「ペナルティですか? 」 

「お前は今まで問題行動はないし、成績も良いし反省文だけで終わらさせてやる」



 良かった。反省文くらいで済むならなんてことない

 読書感想文コンクールでも金賞を取った俺だ

 反省文を文学作品にまで昇華させてやる


「で、こっちは吉沢か? 」



 心臓が一気にバクバクしてきたが、狼狽うろたえるな! この動画だけじゃ確証までには至らないはず


「違いますけど。そこは個人情報なんで」

「こっちも変に詮索はしたくないが仕事だからな」



 真っ直ぐに俺の心を見透かすように見つめてくる

 ここで目を外したら負けだ。

 やましいことはしてない。自分の中でスーパー銭湯に行ったと言い聞かせる。

 実際に飯食って風呂入って、そんな感じだったけど



 岩田先生はフッと視線を外した。

 勝った! 圧に負けなかった俺を褒めてやりたい


「最近、松岡や吉沢と良く絡んでるらしいな」


 それが関係あるのか? って、誰に聞いたんだよ。岩田先生は俺らのクラス授業受け持ってないだろ



「松岡は幼馴染ですし、吉沢さんは隣の席ですから」

「お前もアイツらに感化されるんじゃないぞ」

「それは、どういう意味ですか? 」

「松岡は他校と何回も揉めた。1年時では中絶騒ぎを起こす問題児」


 それって全部、他校かられんに絡んで来ただけじゃん。

 中絶騒ぎだって、女の子の相手が蓮じゃなかったのは皆が知っている。


「吉沢は吉沢でパパ活やキャバクラで働き、半グレと付き合ってる問題児」



 噂に尾びれ付きすぎ! 何なら角や羽まで付いちゃったカオスな噂話になってない?


 吉沢さん。告られた時に徹底的に振るからなぁ

 逆恨みした男子生徒に裏サイトで、有る事無い事書かれてんだろうな


 蓮も吉沢さんも人気がある分、アンチもいるだろうし大変だな


「そういうのって本人からは聞いたんですか? 」

「聞かなくても普段の態度を見てれば分かる」


 なに言ってんだこの先生? 何も分かってないじゃん


「それ、全部噂話でなに1つ真実じゃないですよ」

「あのな。ホントかウソかはどっちでも良いんだよ。噂になる事自体が問題だ」

「なんですかそれ? ホントかウソかが、どっちでも良い訳ないじゃないですか? 」


 蓮も吉沢さんも言われのない事で傷付いたことだってあるはず

 それをどっちでも良いとかマジでムカつく!


「今は若生の話をしている」

「え? 俺の話は反省文だけで終わりじゃないですか」

「反抗的な態度を取るなら謹慎にする」

「ますます意味が分かりません。意見をしてる事が反抗的になるんですか? 」



 学年主任にどれだけ権力があるのか知らないけど、勝手に謹慎や停学なんて出来るはずない


「まずな、噂を立てられる奴が悪い」


 いやいやいや、それなら貴方だって外見から『年齢=彼女いない歴』だの、汗かいたら臭うから『毒裁者』って裏で生徒に呼ばれてますよ

 それは……貴方が悪いのかも


「それって、イジメられる側にも問題がある。って、言ってるのと同じですよね」

「そうは言ってない。松岡も吉沢もチャラチャラした格好で」


「『校風は生徒の自主性を重んじる』髪を染めようが化粧をしようが、私服で来ようが校則違反ではないです」

「常識ってのがあるだろ」

「じゃあ校則に『常識(個人の主観)の範囲内』って書いたらどうですか? 」


 ダメだ蓮と吉沢さんの事を言われてるからか、ボーダーラインを超えそうだ


「もう良い、今日は自宅謹慎だ。職員会議をして処分決定後に親御さんに連絡する」

「……分かりました。失礼します」



 反省文の所で終わってれば良かった。とか思わねーぞ

 あんな糞みたいな噂を大人が信じてるのかどーか知らねーけど

 ネットリテラシーないんだから、突っ込んで来るんじゃねーよ。



 カバンを取るため教室に戻るなり、一斉に皆の視線を浴びてしまった。


 なになになに? もう、なんなのよ こんなに注目された事ないから、席に行くまで緊張して歩き方おかしくなる


「大丈夫か? 」


 蓮と野々宮さんが机の周りまで来てくれた


「とりあえず自宅謹慎だって」

「そっか……」


 蓮が吉沢さんの空いてる席を見つめるから、クラスメイトが勘繰ってる?


「昨日、愛梨ちゃんと出掛けましたが、今日は風邪でお休みするって連絡来ました」

「夏風邪かな」 

「まだ、夏には早いですが流行を先取りする愛梨ちゃんですから」


 男子生徒をウットリさせるほどの笑顔を見せる野々宮さん

 わざと吉沢さんと自分が昨日、出掛けた事をアピールしてくれてるみたいだ


 クラスメイトに聞かせてるのか、野々宮さんにしてはいつもより声が大きいし

 クラスメイトが信じれば、俺と一緒にいた昨日の相手は吉沢さん以外って事になる



「じゃ。帰ってゲームでもすっかな」

「良いなそれ」

「だろ。じゃ、またな」


 ゲームなんて強がりでしか言ってない

 反省文でも初めてだったのに謹慎なんて親が悲しむ 後悔はしてないが、なんて説明しよう。

 いっそ芽郁と入ったってことに……兄妹でラブホとか、なんてラノベだよ



 廊下に出ると野々宮さんが小走りにやってきた


「昇降口まで見送ります」

「珍しく優しい」

「褒めてあげようと」

「なんで? 」


 小柄な野々宮さんは俺の顔を覗き込むように見てくるとクスッと笑った


「私でも、告白してラブホに行くとは思わないじゃないですか」

「あぁ……それな」

「やれば出来るじゃないですか若生君。本当なら映ってるの『愛梨あいり』ちゃんですよ。言いたかったですが」


「吉沢さんの事も考えてくれたんだ」

「と、言いますか。私にとっては松岡君だけですから」



 なるほど。野々宮さんにとっては、俺と吉沢さんがラブホに入ったという事実

 それを蓮さえ知っていれば良いって事ね。

 だから、クラスメイトには嘘を付いたのか。


「愛梨ちゃんと燃え上がりましたか? 」

「なにそれ、凄い下世話なセリフ」 

「少しは興味ありますから」 


「燃え上がってるのは、むしろ今だけど」

「それは安心してください」

「安心って」

「動画見ましたが、いくらでも編集出来そうだったので、今日にでも編集しますから」


 良く分からないけど野々宮さんが言ってるなら大丈夫なのかな?


「お二人が付き合ったお祝いに、若生君の謹慎もなしにしてあげましょう」

「期待してます」


 どうしよう! まだ付き合ってない!! なんなら告白もまだ出来てないよ!

 野々宮さんの中では、俺と吉沢さんは付き合ってる事になってる

 ここで否定したら謹慎を解くのもやってくれなさそうだし、前回以上の罵詈雑言が……



「では、お気を付けて」

「あ、うん。ありがとう」


 野々宮さんと昇降口で別れる。

 珍しく最後まで俺に笑顔だったな。蓮が吉沢さんを諦めると思ってんだろうな。


 実際に蓮は吉沢さんを諦めるだろう。幼馴染なんだから蓮の性格くらい分かる。

 俺の嫌がる事はしないし、俺を不幸にしてまで、自分が幸せになろうと思わないのが蓮だ。


 ただ、吉沢さんを諦めたからと言って蓮が野々宮さんを好きになるか。言われたらまた別問題だろ


 蓮が好きになる、付き合う女の子は決まって見た目が派手でギャルっぽい女の子だ

 野々宮さんは間違いなく美少女で人気もあるけど蓮が惚れるとは思えない

 って、人は外見だけじゃない。ってのを学んだばかりなのに



 吉沢さんにも一応はRINEしとくか。今日のことを又聞きするより、俺から話した方が良さそうだ。


『風邪は大丈夫? 』


 少しして既読になり返信がある


『大丈夫。ヤバい』


 どっち!?

 1行で矛盾させてくるとか天才かよ。

 お母さんとか誰か看病する人いないのか??


『何か欲しいものある? 』


『風邪移すかもだから、嬉しい』


 だからどっち!?


 もう、訳分からんが行ってみて大丈夫そうなら安心だし、すぐ帰ればいいだけだから

 ここは行ってみるしかない




 ゼリーにスポドリに栄養剤、熱冷ますシートでしょ。

 他に何かあったかな?


 吉沢さんのマンションに着くと見覚えのある姿が出てきた


「あれ、若生君じゃない? 学校はどうしたの?」


 吉沢さんのお母さんだ。相変わらずスタイリッシュな感じだな


「まぁ 色々とありまして」

「ふ〜ん。大人しそうな可愛い顔して、やることはやってるのね」


 凄いニヤついてるけど、吉沢さんはお母さんに何か言ってる?


「ウチの姫は、風邪らしく休んでるからさ」

「俺の責任でもあるので」

「じゃ、王子様に責任取ってもらおうかな。私、仕事あるから、看病お願いね」


 姫と王子様はスルーだな。何にでも突っ込みを入れると思うなよ


 そのまま吉沢さんのお母さんはオートロックを開けてくれたけど、月曜日って経営してる美容院は休みじゃなかったけ?


「風邪、移されないように今日密着は辞めたほうが良いわよ」

「今日何もしませんよ」



 なんかバカにされてる気しかしないが「頼んだわよ」と言い残し、颯爽と駐車場へと向かう吉沢さんのお母さん。

 う〜ん 俺の母親とは全然違うなぁ スタイリッシュオブ・ザ・イヤーがあれば毎年受賞してそうだ。



 最上階の吉沢さん家のインターホンを押して待つこと数十秒


「ママ……忘れもの? 」


 うわぁ 凄い辛そうに出てきた。ゾンビかと思って打っちゃうレベル


「吉沢さん、辛そうだね」

「若生……君? 」

「ゼリーとスポドリ、どっちが良い? 」

「マジで若生君、弱酸性オーガニック」



 俺を招き入れる吉沢さんだけど、そんなに人にも地球にも俺は優しくないよ


 ズサズサとゾンビみたいに歩いては「ホント神」と言いながら、十字を切る吉沢さん。


 アメリカのゾンビ映画でありそうだな

 とりあえず寝かしといてる間に適当に帰ろ


「若生君。ゼリー食べたい」

「オッケー。スプーンは……台所借りるね」

 


 スプーンを取って戻ってくると、吉沢さんはベッドから上体だけを起こしていてた

 相変わらずR18も多い百合に囲まれた部屋で何か落ち着かない


「持ってきた……よ」


 すでに雛のように口を開けている吉沢さん

 俺に食べさせろって事ね

 ホントに姫か!?

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