第6話 ギャルと百合とマナーモード
なんだここ? 女の子同士がイチャついてるタペストリーやら美少女フィギュアやらコミックやらが凄い置いてある!!
けっこう露出と言うか行為と言うか
「R18もあるけど気にしないで」
でしょうね!
抱きまくら何かほぼ全裸の女の子じゃん!!
何の恥じらいもなく言っちゃってるけど 俺が目のやり場に困るんだけど
「す 凄いね……」
「コツコツ集めてたら、こんなになっちゃた」
「でも、今日は特別に
え? なになに?? どことなく吉沢さんの瞳が潤んでらっしゃるけど
「本当のアタシを若生君になら見せられるから……」
吉沢さんがベッドをトントンと叩いてるけど
俺、しっかり行間読んでたーー!?
親バレしないから何か起こっちゃう??
やっぱり、そういうこと?
ど どうしよう
こんなに百合百合しい部屋で可愛いギャルにベッドに誘われてるんですけど!
二次元美少女に優しく見守られながら三次元ギャルと濃厚な時間かぁ
しかし俺には野々宮さんと言う、一目惚れした相手がいるわけで
でも、吉沢さんの顔も火照ってるのか、うっすら赤くなってるし
凄い恥ずかしそうにベッドの下をまさぐってるけど…………
「え!? スゴっ! それ、歴代ダービー馬の限定ぬいぐるみだよね?? 」
ベッドの下に付いてる引き出しをスライドさせると、大量の馬のぬいぐるみとキーホルダーが出てきた。希少品のものも多い!
コクンと頷くと
今度は美少女同士がキスしてるタペストリーをめくった
「こ ここも見てほしいな。こんなとこ、学校の友だちにも見せた事ないよ」
「うぉ! 98年世代のスターホース勢ぞろいじゃん!! かなりレアだよ!! 」
タペストリーの裏にタペストリーがあるとは!
しかも今だに最強世代、黄金世代と名高い大人気の98世代!!
「こ こっちもアタシ凄いんだ」
言い方と表情が何かイヤらしいけれど
吉沢さんは非常に百合百合しいポスターが貼ってあるドレッサーを開けた。
あぎやぁぁぁぁぁぁ
「サイン入りゼッケンに、サイン入りパネル!! 」
ドレッサーの中は所狭しと、騎手のサインが入ったゼッケンに
競走馬のパネルが飾られていた
名だたる名馬にトップジョッキーだらけ!
「凄い! 初めて見た!! 」
「ゼッケンはもちろんレプリカのが多いけどね」
百合だらけの部屋だと思ってたら、裏にはこんなにも競馬グッズがあるとは……吉沢さん恐るべし
「若生君……おーい若生君」
ハッ あまりの情報過多に脳がフリーズしてしまった
「とりま座っちゃいなよ」
「ぬいぐるみとかは分かるけど、こんなにサインあるの凄いね」
クッションを渡されたので、吉沢さんとテーブルを挟んで向かい合うように座ってみた。
「パパが競馬関係のカメラマンやってるから」
「え? 凄い! 吉沢さんが競馬にハマった理由ってお父さんからだったんだ」
「ウン。小さい頃から競馬場につれて貰ってたり、昔の競走馬の話を聞かされてたからね」
「良いなぁ。俺もそんな親が欲しいよ」
うちは競馬に興味あるの俺だけだもんな
「でもさ。テストの成績が悪かったから有料チャンネル観られなくなっちゃったんだよ、ぴえん」
「そ、そうなんだ。だから、今日も観てないの? 」
図書館で遠い目をしてたのは、この事だったのかな
「ウン。リアタイでは追えないけど、SNSで結果調べてる」
「SNSだとタイムラグあるし、盛り上がらないよね」
深いため息を吐く吉沢さん。
「それな……今度の中間テストで赤点が1教科もなければ、また観て良い。言われてるけど」
中間テストまであと2週間か、POG本借りる事だし
「俺で良ければテスト勉強手伝うよ」
「ホントに? 若生君頭良いし、めっちゃ助かる」
「図書委員の権限フル活用すれば、時間外とか休館日でも勉強出来るし」
「何か、めっちゃ頑張れそうだよアタシ。あと、POG本忘れてた」
吉沢さんからPOG本を受け取るも、俺が持ち帰る事に正解だと思った。さすがに5冊の重量感は凄い
「あれ?
「あぁ、アタシが注目してる馬に貼っただけだから気にしないで」
パラパラと捲ってみたものの
「これだけ色んな馬がいると迷うな」
「そりゃね。アタシの場合は、ほとんど『クラブ馬主』の馬から決めちゃうけど」
「『クラブ馬主』からかぁ」
「良血多いからね。この馬とか」
向かいから指を雑誌に置く吉沢さん。
ついつい刺されたら痛そうなネイルに目が行ってしまう
「反対からだと観にくいなぁ」
え? えぇ?? 近い近い近い!
吉沢さんは俺のすぐ隣にクッションを置いて座ると、いつものグレープフルーツの良い匂いが近くから漂ってきた
「このお馬さんとかも両親合わせてG1.10勝の超良血だよ」
「あ あぁ、良さそうだね」
テーブルに置いた雑誌を吉沢さんが指差すと
肩と肩が当たって雑誌どころじゃない!
肩の部分だけ熱がこもる
「若生君、スマホ鳴ってない? 」
「本当だ、ちょっとごめん」
蓮からRINEが来てただけかよ
一応、開いてみるか
『吉沢って本当に男嫌いだと思う? 』
は? どのタイミングで送って来てんだよ! 俺が吉沢さんの家に行くって、蓮は知らないし偶然だよな?
『知らん』って返して終わろう
俺に聞いてくんなっつーの
「電話、大丈夫なの? 」
「あ、うん。大丈夫」
男嫌いか……クラスの男子とは普通に騒いだり話してるよな
それに男嫌いなら、こうして俺を呼んだりしないと思うけど
確かに気にはなる
「吉沢さんって男嫌いって噂あるけど本当? 」
ゴホッ
やべ、吉沢さん紅茶飲んでる所に唐突だったかも
「ごめん。大丈夫? 」
「だ 大丈夫。それな……若生君は気になるの? 」
「まぁ 少しは」
「少しかよ」
「いたっ」
手の甲に爪を立てられた
「別に嫌いじゃないよ」
「じゃあ、男好きなんだ」
「ちょ、その言い方もどうかと思うよ」
紅茶を飲むと吉沢さんは雑誌に刺さりそうな、鋭利なため息を『ふっ』と吐き出した
「アタシ高校入る前にストーカー被害に合ってさ」
「うわっ。最悪だね」
「それも同じクラスメイトだった奴から」
「最悪の重ね掛けだ」
吉沢さんは自嘲気味に『きまぜっと』と、良く分からん言葉を呟くと静かに口を開いた
「アタシ可愛いからモテるじゃん」
「あっ はい……」
否定は出来ない事実だけれど、あっさり言えちゃう自信が凄い
「だから、昔から告られたりしてたんだけど、傷付けない様に断ってたんだよね」
「なんとな〜く。分かった気がする」
「で、ストーカーになった奴にも、優しく断ったら何を勘違いしたのか諦めて貰えず。みたいな」
良く聞く話だけど、それが噂で男嫌いになった理由?
「で、それからは告られても徹底的に、断ってたのね」
「逆恨みとかされなきゃ良いけど」
「少し位の逆恨みは良いよ。ストーカーにならなきゃ」
「なるほど。そこに百合好き、ってのも重なって『男嫌い』って噂が出たと」
「そういうこと。でも、噂のお陰で告って来る人も減ったし良かったよ」
どんな人生歩んだら、告られなくなるのが良かった。って言えんだよ!
…………ストーカー被害に合ったからか
蓮に送っとこうかな 別に男嫌いじゃないらしい。って
何でお前が知ってんだ。って、話になるのも嫌だけど
「若生君、もう18時だけど」
「ヤベッ 今日のご飯当番って俺だ! 」
もう そんな時間!? 競馬のDVDとか観てたら、あっと言う間じゃん!
ってか、ずっと同じ体勢だったから脚が痺れてきてんな……
「え? 自分で作ってるの? 」
「親が共働きだから、俺と妹で当番制」
「偉いね。下まで見送るよ」
スマホを前ポッケに閉まってと
あれ? ヤバい! 脚が痺れて上手く立ち上がれない!!
「キャッ」
先に立ち上がった吉沢さんに捕まる様に倒れてしまったが
何とか俺が下になったみたいだな
危うく吉沢さんを床に叩きつけてしまうところだった……
って、ここベッドの上なんですが!!
これ、狙ったみたいになってない!?
吉沢さん俺の上に馬乗りみたいになってるじゃん!
太ももが柔らかい……じゃなくて下半身にお尻と言うか吉沢さんの重みが……
「あの、これは脚がもつれて……吉沢さん? 」
あれ、吉沢さんの生体反応が消えただと!?
「よ 吉沢さん。ねぇ、吉沢さん」
脚の痺れは落ち着いて来たものの、吉沢さんが退いてくれないと動けない
ブーブーブー
「ふにゃん!! 」
のけぞる様にして生体反応を吉沢さんは取り戻したけれど……
最悪だあぁぁぁぁ 前ポッケに突っ込んだスマホが最悪なタイミングでバイブってるうぅぅ!
犯罪的な位置でバイブってんじゃねーよ! マナーモードにするんじゃなかった。
ちょうど吉沢さんの……吉沢さんの……
「ごめっ! 吉沢さん。退いて! 退いてくれないとスマホ止めれない」
ものっすごい顔を真っ赤にしながら吉沢さんは退けてくれたけど
「じゃ じゃあ、ぼく帰りますね。お邪魔しました〜」
相変わらず赤い顔のままペタンとベッドで座る吉沢さん。
くっ これで本当の男嫌いになったら俺のせいだ!!
拾ったPOG本で前を隠し、前屈みなりながら吉沢さんの家を後にした
スマホを取り出すと蓮からだった
『男嫌いじゃなかったら、ガチで吉沢さん狙うわ』
『やっぱ。男大嫌いらしいぞ!』
くそっ 最悪な男だと思われたらどうすんだよ……真っ赤な顔した吉沢さんは可愛かったけどな!
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