第2話 放課後にギャルと二人きり

 ホームルームでの自己紹介もほとんど耳に入って来なかった。


 れんがベテラン芸人の様に、さらっと笑いを取っていた事は覚えている。

 当たり障りのない事しか言ってないけど俺が同じ事を言ったとしても

微妙な空気が流れ滑ってたに違いない。


 あとは一番最後に吉沢さんが趣味は『百合好き』って事を堂々と言ってた事に衝撃を覚えた。



『放課後……用事あるから残ってよ』


 吉沢さんのスラリとした美しくセクシーな太ももと自己主張が激しい胸が頭から離れ……ちがう。

 吉沢さんの言葉が頭から離れない。


 残る理由に心当たりがない。怒ってる感じでもないし、もちろん告白されると思うほど自惚れてもいない。


 ここでは成績は良い方だけど平均的な体型に平均的な見た目。

 特に突出してるものもなければ、話術やコミュ力があるわけでもない。


 それにギャルより清楚な子が好きだ……『野々宮ののみや あおい』斜め前に姿勢良く座っている。長い綺麗な黒髪に自然と目が行く。


 1年の頃も同じクラスだったのに、ほとんど話した事はない。ってか、誰とも親しげに話した記憶もないが。


 言われたのが野々宮さんなら、喜んで残るのに吉沢さんだと得体えたいが知れなくて怖い。




 ホームルームが終わりギャル友に囲まれた吉沢さんは『先に帰って良いよ』とだけ伝えていた



颯太そうたは帰らないのか? 」

「あ あぁ。ちょっとな」

「何だよ? 久し振りに一緒に帰ろうと思ったのによ」

「また、今度にしてくれると助かる」


 怪訝けげんそうな表情をしてる蓮だったが、すぐにイケメンフルスロットルした笑顔を吉沢さんに向けた。


「じゃあね。アイリちゃん、また明日」

「アタシ『吉沢』だから」


 こちらに目も向けず、すぐさま冷たく言い放つ吉沢さん


「え!? あぁ、ごめん。また明日、吉沢さん」

「バイバイ。松岡君」


 あっ。さっきまでの吉沢さんに戻った。


 それにしても突然名前で呼ぶ蓮も蓮だが、明らかに冷たく言い放つ吉沢さんも吉沢さんだ

 良く笑顔を崩さずに言い直せるもんだ。と、素直に幼馴染に関心してしまった。


 吉沢さんの男嫌いが出たのかな?



「アタシ、最初っから距離感近い男って嫌いなんだよね」


 吉沢さんも最初っから近いからね! 本人に自覚ないの??


「蓮がごめんね。悪気はないんだけど」

若生わこう君と松岡君って仲良いんだ。意外だね」

「幼稚園からの幼馴染だから」



『そっか』とだけ呟き吉沢さんは手に持っていたスマホに視線を落とした


 もう、何なんだよ!? 俺に何の用なの? 

 帰って行くクラスメイトたちの視線が耐えられない


 何で吉沢さんと俺が残ってんだろ? って顔に思いっきり書いてあるもん!

 耐えきれず口を開いた


「あの、吉沢さん? 」

「ん? 」

「用事って」

「ってか、鼻はもう大丈夫そ? 」

「え、うん」

「そっか。良かった……」



 教室を見回すと俺の方に顔を向けた



「アタシが今から、いくつか質問してくから若生君は質問に答えてね」

「はい? なにそれ?? 」


 何を考えてんのかまったく分からん。質問される理由ってなんだ?


「昨日の桜花賞で1番人気『アイラブエイル』が4着になったけど敗因は? 」

「吉沢さん、競馬好きなの?? 」


 どういうこと? 全くの予想外なんですが


「若生君は質問に答える」

「えっと。大外枠と差し脚質が響いたと思う」

「どうして? 」

「トラックバイアス考えたら、内枠有利の前残りだったから。当日の芝のレースはことごとく、内側の逃げ・先行馬が勝ってたし」


 吉沢さんの口元が一瞬緩んだように見えた。


「なるほどね。桜花賞も3着までに来た馬が5枠より内側だっもんね。オークスではどうなると思う? 」

「別路線組との力関係がまだ分からないけど『アイラブエイル』の逆転もあると思うよ」

「それはどうして? 」


 なんで俺は放課後の教室で、周りから可愛いと言われているギャルと競馬について語ってるの?

 こんなシチュエーションなら、普通はもっと甘酸っぱい感じになるんじゃないの??



「東京の広いコースは合ってるし血統的にも」

「だよね。父親がサンデー系で母父がノーザンダンサー系だもん。オークス向きの血統でしょ」

「吉沢さん! 血統も詳しいの? 」

「詳しいかは分からないけど血統表とか眺めてるの好きかな」  


 めっちゃ分かる!! 分かりみが深いってやつ?


「そっかぁ。吉沢さんもなんだ。血統表面白いよね! 5代血統表見て、どんな感じの馬か想像したり」

「そうそう。若生君分かってるね! わかりみがマリアナ海溝だよ! 」


 そんなに深い? 世界で一番深いとこまで来ちゃったの??



「アタシ9代血統表見て、何のクロスが何本入ってるか?とか数えるの好きなんだよね」



 深ーーい!! 思った以上に深いぞ………いや、ちょっと待て! 9代血統表だと? 5代血統表はTVゲームや、競馬予想でも一般的に使われているが、9代血統表何て専門家しか使わないだろ! 俺でもそこまで見ないぞ



「何かさ○○の4✕3。18.75%の血量は奇跡の血量言われるじゃん。その血を持ってる名馬ってたくさんいる訳だし」

「あ あぁ。名馬が産まれやすい。って言われてるよね。現代日本競馬ならサンデーサイレンスの3✕4持ちがけっこういるし」

「だよね。無敗で牝馬三冠を達成した『デアリングタクト』とか年度代表馬にもなった『エフフォーリア』とか」

「サンデーサイレンス何てノーザンダンサー系1色だった日本競馬の血統をガラッと塗り替えた大種牡馬だもんね」



 吉沢さんは突然『アハハ』っと笑い出した


「イヤホン取ったときに『桜花賞』のレースが聴こえてきたから、まさかとは思ったけど。良いね若生君、マジそれは虹」



 14時? もう16時過ぎなんですが。何故か吉沢さんに気に入られたらしい。俺の肩をパシパシと叩いてくる吉沢さんに何て言って良いか分からず

『エヘヘ、あざっす』みたいな小悪党の様な返しになってしまった。



「アタシ思いっきり競馬の話が出来る人いなくてストレスだったんだよね」

「まぁ。同じ女子高生だと見付けるの大変かもね」

「でしょ? だから、これだけ話せたのが嬉しくて、何かバイブスブチ上がってきた! 」


 吉沢さんはスマホを手慣れた様子でイジりだした

 長いネイルのせいか、勢い良くタップする度にカチカチと音が教室に響く


 やっばギャルなんだよなぁ

 野々宮さんなら、物静かに丁寧に扱いそうなのに 



「ハイ。これ、アタシの連絡先」


 スマホを手渡されてしまった。


「登録しておいてよ」

「あ。うん」


 初めて女の子から連絡先を渡された、しかもめっちゃ有名なギャルに

 嬉しいしドキドキしてるけど何か違うんだよなぁ


「若生君も競馬の情報とかあったら教えて」


 俺は情報屋か! これが何か違う理由なんだろうな

 全然甘酸っぱくない


 とりあえず登録だけして吉沢さんにスマホを返す


 蓮にこのことを伝えたら『連絡先教えろ』とか、言われても困るし誰にも言えねぇな



「もうそろそ、帰ろっか。若生君」


 結局、俺の競馬知識を試されただけじゃねぇかよ。 

 腑に落ちない気持ちはあれど、吉沢さんの笑顔に免じて何も言わないで置こう

 やっぱ抗議したら怖いし



 校門まで初めて女の子と一緒に帰った

 競走馬しりとりをしながら……






※1話と2話で出てきた競馬用語解説

分からない用語あれば、是非ご活用下さい。もちろん読み飛ばして頂いても大丈夫です!

https://kakuyomu.jp/works/16816927863066443213/episodes/16816927863066458178

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る