第3話 ギャルと金髪タトゥー野郎
「あいりん。明日は予定ある? なかったら買い物行こうよ、あいりんに服、見立ててほしくて」
「あぁ……ごめん。ちょっと」
「そっかぁ。あいりん、いっつも土日は遊んでくれないよね」
「まぁ……色々と、こみこみで? 月曜の放課後なら良いよ!」
「こみこみで? 言われても……OK、月曜付き合ってね」
隣の席では吉沢さんが、両手を合わせ頭を下げていた。
土日に吉沢さんが遊べない理由を俺は知っている。
さてと、俺も帰るかな。
席を立ち上がると、ギャル友の横からひょこっと顔だけ吉沢さんは出して来た。
「また月曜日ね、
「あ。あぁ、また」
相変わらず爪が長いしテカテカしてらっしゃる、それにしてもギャル友の不思議そうな顔よ。
そりゃそうなるよね 吉沢さんとモブキャだと思われてる俺が当たり前の様に挨拶してんだから
挨拶は大事だよ挨拶は……まともに俺も出来てないけれども
金曜日の放課後は自然と心が軽くなる。駅への帰り道、周りを歩く他の生徒もウキウキしてる気がするのは、気のせいではないだろう。
学校が休みな事はもちろん、土日は思いっきり競馬を観て楽しめる!
それは吉沢さんも同じで、土日は競馬があるから余程の事じゃないと出掛けない。って事だ、とくに日曜は!
その代わりなのか分からないけど、平日は毎日のように友だちと遊んでるらしい。バイトもしてる言ってたし、人付き合いも大変だ
少しずつ吉沢さんとやり取りをして分かったことがある。
昔に競馬の話を友だちにした所、話が止まらなくなり、吉沢さんの熱量に圧倒された友だちは困ったり、呆れ顔をしていたらしい。
それが原因で今の友だちの前では自重してること。好きな事で共感はしたいが強要はしたくない。と吉沢さんは言っていた。だから俺も学校では競馬の話題は口にしなかった。
SNSを通してのやり取りは結構やったけど、学校では少ししか話さない関係。
吉沢さんへの怖さは、だいぶ薄まっていたけど、俺と必要以上に話して、『吉沢
それに何か秘密を共有してるみたいで少しはドキドキしてきた
その秘密がロマンスの欠片もない『競馬』なんだが
あくまでも吉沢さんとは共犯者みたいなノリだ
俺が視線で追ってしまうのは、いつも野々宮さんだから
って、野々宮さんが前を歩いてらっしゃる!
後ろ姿でも分かる神々しい黒髪。綺麗に着こなしたホコリ1つなさそうな制服
まさに歩く清楚! 小柄で華奢ってのもあるけど、野々宮さんを守ってあげたい。って思ってる男子は非常に多いだろう。
そのまま駅の本屋へと入っていく野々宮さん。
うむ、俺もちょうど本屋に寄るとこだった……はず
本屋に入ると野々宮さんは新作小説の棚へと向かって行った。
いくつかの小説を手に取りパラパラと捲っては、気に入ったのがなかったのか元に戻していた。
何かこれって後を付けてる感じだよな?
ストーカーみたいで気分良くないし辞めよう。
せっかくだから血統の本でも買って帰ろ
レジで生産を終えると後ろから声を掛けられた
「若生君も本屋寄ってたんですね」
「の のの野々宮さん」
「私、そんなに『の』付きませんよ。若生君、松岡君と一緒で電車ですよね。改札まで一緒に帰りましょう」
クスッと微笑む天使降臨!!
野々宮さんから声を掛けられ誘われるなんて、何たる望外の僥倖! って、蓮の名前が出てくんだよ。
「ごめん。の 野々宮さんもいたんだね」
「えぇ。何か新作小説で面白い作品あるかなって」
「そっか。何か良いのあった」
「1冊だけですね。新作じゃないし恋愛小説ですけど」
改札口へと歩きながら少し照れくさそうに口にする野々宮さん
「来月に映画も公開するみたいですから、原作も読読んでみようと思いました」
「へぇ……」
恋愛映画かぁ
野々宮さんと観れたら映画に集中出来ねぇ……な
って、 吉沢さん?
野々宮さんは気付いてないみたいだけど、駅中の券売機の前で吉沢さんと男がいる
何か吉沢さんの顔が怒ってない?
男の方は制服で、どこ高校か分かるが県下一のヤンキー高校じゃねぇかよ!
どうしよう……見た感じ吉沢さんが絡まれてる感じだよな??
ナンパかな? 助けた方が良い気もするけど、ヤンキー高校怖いし関わらない方が……
「どうしました、若生君? 」
「な 何でもないよ」
もう少しで改札に入っちゃうし、どうする俺!
鼓動が早くなる、さっさと決めないと
そもそも、俺なんかが行って助けられるのだろうか?
逆に吉沢さん1人の方が何とか出来るよな……大丈夫だろ
「改札来ちゃいましたね。私、こっちですから、また月曜日ですね。若生君」
「あ。うん、気を付けて、また月曜日」
……結局、改札を抜けてしまった。 見なければこんなに考える事も嫌な気分になる事もなかったのに
吉沢さんなら
あれ? そうだ、吉沢さんって男嫌いだったよな!?
やっぱり行った方が、でも、行ったところで俺みたいのに助けられても迷惑じゃない?
だいいちあんな怖そうなヤンキーに
俺、張り合えるか??
別に彼女でも友だちでもないし 知り合ったばっかのクラスメイトってだけだ。
よし帰ろ……
帰ったは良いが気になる…… あぁぁ! もう、なんかすげー気分わりー!! 金曜日なのに、ぜんっぜん楽しくない、野々宮さんと偶然会えて初めて声を掛けられたのに嬉しい気持ちが
何なんだよ!
月曜日、学校に着くなり吉沢さんは笑顔だった
「おは。若生君」
「お おはよ」
金曜日の後ろめたさから吉沢さんの顔が見れない。
「言った通りだったでしょ」
「何が? 」
(レベチだったよねテネブラエしか勝たん)
囁いてくる吉沢さん
「あぁ。吉沢さん皐月賞は『テネブラエ』が勝つって言ってたもんね」
吉沢さんは、しー。と人差し指を鼻の近くに持っていった。
「ごめん」
「若生君、何かあった? いつもと違う気するけど」
「え? 別に」
「そ。なら、良いけど……」
心配そうな目を向けてくる吉沢さんの顔を見ると、めちゃくちゃ罪悪感が襲ってくるんだけど
情けねぇな俺は
休憩時間にギャル友と吉沢さんの話から察するに、やっぱり金曜日のはナンパだった。
いつもなら冷たく断ればさっさと諦めるのに、諦めが悪い男にナンパされた。と、ギャル友に話す吉沢さんは非常にご立腹していた。
はぁ〜気分おもっ 蓮との帰る約束もなしにしてもらったけど
俺が蓮だったら普通に吉沢さんを助けられたんだろうな
放課後トボトボ駅まで歩いていると、駅前のPARTO入口らへんで吉沢さんを見付けてしまった。
って、また男に絡まれてない?
あんだけ可愛くて目立てば声を掛けてくる男も多そうだけど
男の見た目は大学生っぽい
細いし小柄に見えるし俺でも助けられそうだけど、金髪に首にもバリバリにタトゥーが出ちゃってますが……ヤンキー高校生よりヤバいじゃんか
吉沢さんの肩とか髪触ってない?
あの金髪タトゥー野郎……もう、何でこんな場面に何回もエンカすんだよ
恐怖心と金曜日に感じた罪悪感を天秤に掛けてもグラグラとして決まらねぇ!! ってか、むしろ恐怖心が勝ってるんですけど
殴られるかな? 助けに行ったらボコボコにされるかな??
迷ってても仕方ないのは分かるけど……
ふと、今朝のことを思い出した。いつもと違う。と、言ってくれて心配そうに見てくる吉沢さんの顔
良し! 決まった!!
自分の頬を両手でひっぱたき、大きく息を吐いてから吉沢さん目掛け、おもいっきりダッシュした
「吉沢さん! ごめん。待たせっちゃったよね、行こう!! 」
「え? ちょっ。若生君? 」
吉沢さんの手を掴んで引っ張り、速歩きでその場を抜け出す
早く遠くまで行かないと、早く、早く……
「若生君! ちょっと、若生君ってば」
うしろは見ない、うしろは見ない。頼むから追ってきませんように!
「若生君、ストッッップ! 」
吉沢さんの声にハッとして歩くのを辞めた。
俺も吉沢さんも息が切れていた
「はぁ……はぁ……わ 若生君、もしかして勘違いしてる? 」
「へ!? か 勘違い……」
「あの人、バイト先の美容師さんで女の子だよ」
「女の子……」
「ウン。女の子」
「女の子って事は男の子じゃないってこと? 」
「ウン。そりゃね」
なんなんだよ〜 一気に身体の力が抜けてしまった
って、ことは?
「今日、
「あ〜。何か金曜日に、そんな話も聞こえてきたような」
「優奈が服を見立ててほしいって」
もう〜 俺の勘違いなんかよ!
ヤバい位に恥ずかしさが込み上げて来た!
「手はどうしよっか? 」
「手? ああっ! ごめん。気付かなかった」
手を引っ張ったままだから吉沢さんと繋いじゃってるじゃん
「あとで、美容師さんにも伝えとくけど、それだけ必死だったんだ」
あ〜あ 笑われちゃってるよ
笑いたきゃ笑うが良い 勘違いも
ギュッ
「え? 」
俺が離そうとしたのに逆に手を力強く握られてしまった
思わず吉沢さんに目を向けると、またギュッと握られ不思議と手の震えは止まった。
凄い見つめられてるけど、なにこの近距離?
鼻息すら掛かりそうで息を止めてるんですが
「ありがとっ! 」
ップハ……満面の笑みは不意打ちすぎる。
てっきり嫌がられるのかと思った
吉沢さん。こんな感じでも笑えるんだ 大人っぽくてクールなイメージだったけど
「ありがと。じゃ、言い足りないな。かたじけパーリナイ! 」
「え? なにそれ?? 」
横ピースされながら言われても……かたじけ?
「逆にアタシがハズいんだけど」
「何かごめん」
「別に良いけど。ってか、謝らなくていいよ」
「そっか。ごめん」
「ほら。また! 優奈も待ってる事だし戻ろっか」
皆から可愛いと言われているギャルと手を繋いだままPARTO前まで来てしまった
吉沢さんの手は柔らかくて温かくて……
意識が繋いだ手に持っていかれる。心臓と手が一緒になったみたいにドキドキしてるのが分かる。
恥ずかしくて一言も喋られなかった。
「じゃ、優奈とこ戻るね」
「うん。また、明日」
「また明日、若生君……」
少し歩いてうしろを振り向くと 周りの目も気にしてないのか、吉沢さんは笑顔でブンブンと大きく手を振ってくれていた
凄い月曜日から疲れたけど心地良い疲れだった。
帰り道、吉沢さんに握られた手を何度も見てしまう自分がいた。
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