第9話 ギャル含めての四角関係③

 観覧車乗り場に近付くに連れ、人混みになり観覧車がでっかく見えてきた。


「少し順番待ちしそうですね」

「だね」


 最後尾に並ぶもカップルだらけじゃねーか

 それに野々宮さんから観覧車に誘ってくるなんて意外だ

 2人きりで密室な空間な訳だし


 少しは俺のことを信頼してくれたのかも知れない

 属に言う友だちポジションってやつか


 はぁ〜 何度目の失恋なのか。

 またもやれんに持っていかれた。そりゃそうだよな。俺が女でも蓮を選ぶ

 イケメンでコミュ力高くて、優しくて


 会わなかった時期や遊ばなかった時期があっても

 久しぶりに遊べば、その隙間をすぐに埋められる。


 俺の大事な幼馴染


 もしも蓮の事で野々宮さんから恋愛相談とか受けたらどうしよう……

 野々宮さんは蓮が好きな訳で、その蓮は吉沢さんが好きな訳で……吉沢さんは?


「次、私たちの番ですよ」

「もう? 意外と早かったな」


 野々宮さんに促され次に来る観覧車を待った



「風が出てきましので、揺れるかも知れませんが安全ですのでご安心下さい」


 怖がらせない為か

 観覧車を待つ俺たちに、係の人はにこやかな笑顔をしてきた。


 確かにさっきから風が強くなってきた気がする 

 夕方過ぎからは雨予報だったし、何となくいやな感じがする


「若生君、来ましたよ」


 係の人が観覧車のドアを開け、前の客を降ろす


「蓮! 吉沢さん? 」


 観覧車から降りた蓮が片手だけを上げ去っていく。

 吉沢さんは俯いたままだった。



 観覧車に乗っててスマホに出られなかったのか?


「どうぞ、お入りください」 



「野々宮さん。入ろ」


 俺たちが乗り込むと係の人はドアをしめた。


 あの2人が観覧車に乗ってたって事は告白したのか? 

 返事は……蓮の顔を見れば分かる。吉沢さんに振られたな



「あの、お二人も観覧車に乗ってたんですね」

「みたいだね」



 思ったより野々宮さん。ショック受けてないっぽいな


「松岡君。告白とかしちゃったんですかね」

「どうだろ。分からん」


「もし、松岡君が愛梨ちゃんに告白しても愛梨ちゃんはOKしませんよ」

「どうして? 」

「女の勘です」



 野々宮さんは意味有りげに微笑むと窓に視線を移した


 覚悟を決めた人は強い。

 さっきまでの野々宮さんなら、2人が観覧車に乗ってるのを見たら動揺してただろうに。


「海が綺麗ですね」


 夕日が海を赤く染めていく。

 こんな景色を見たのはいつぶりだろうか

 子どもの頃に公園で遊んだ帰り道、蓮と一緒にいつも夕焼けを見てた。


 しりとりしながら、空き缶を蹴飛ばしながら、1番盛り上がったのは好きな子の話をしながら……


 俺も蓮も振られたんだ

 あれ? 少し泣きなくなってきたかも


「若生君。こっち来た方が良くみえますよ」


 夕日に照らされ振り返る野々宮さんは、とても綺麗だった。


 ガタン  


 突風で観覧車が揺れ小さい悲鳴を野々宮さんは上げた 


「大丈夫、野々宮さん」

「はい。少し驚いてしまいましたが」


 カツンと真下から音が聞こえ、床を見ると何かが光っていた。

 不思議に思い拾ってみる


 ネックレスか?

 この蹄の形って吉沢さんが着けてたのじゃん 

 さっきまで蓮と乗ってたけど、そんときに落ちたのか?


「どうしました? 」

「いや、なんでもない」


 後で渡せば良いか

 とりあえずポケットに閉まっとこう




「もう、着いてしまいますね」

「だね。頂上過ぎちゃうと、何か悲しくなっちゃうよね」


「それ、凄い分ります。終わりがあるって分かってるから、それまでを楽しみたいのかも知れませんね」



 野々宮さんへの恋は……想いは、この観覧車に置いて行こう

 観覧車を降りたら友だちになるんだ。


 恋愛相談も乗ろう、蓮についてのノロケ話も聞こう、野々宮さんの事だから、照れて上手く話せないかも知れない

 俺が蓮の良いところも、野々宮さんの知らない昔話もしてあげよう


 この観覧車を降りたら



 1年の時に一目惚れから始まった恋だった

 最近になって野々宮さんの内面を知って、もっと好きになった。

 蓮を好きだと言う、今日の野々宮さんが今までで1番可愛くて綺麗だった。



「残念ですが、終わってしまいますね」

「……だね。今度、蓮の好きな食べ物とか好きな映画とか色々教えるね」 

「ホントですか? 凄い助かります。私からは聞けませんので。若生君ありがとうございます。」



 俺こそありがとう野々宮さん。めちゃくちゃ好きでした。


「あっ。でも、私から少しずつ知って行きたい気持ちもありますからね」

「自分から知って行きたいけど、簡単には聞けない。って感じね」


人差し指をちょんと前に出しては「それです」と、言いながら無邪気そうに笑う野々宮さん。


初めて見る笑顔だけど、こんな風にも笑えるんだ。。

 蓮に恋してるからだろうな


  やっぱ、可愛いわ……



 観覧車から降りると蓮と吉沢さんが待ってくれていた。


「おかえり。風大丈夫だったか? 」

「ただいま。少し揺れたけど大丈夫」


 明るく振る舞う蓮だけど、空元気にしか見えない。

 お前まで道化役にならなくて良いのに



「吉沢さんと話したんだけど、雨も降ってきそうだし解散しよ」

「ですね。今日は楽しかったです」


「吉沢さんも野々宮さんも俺たちとは路線違うから、帰り気を付けてね」

「松岡君たちも気を付けて下さいね。また、月曜日」



 駅へと帰る蓮の後ろ姿を野々宮さんは追ってるけど、金曜日が1番嫌いで月曜日が1番好きなんだもんね。


 何か4人の中で1番スッキリした顔してるのって野々宮さんだよな。

 吉沢さんも笑顔でいるけど、明らかに作り笑いでしょ



「吉沢さん。バイバイ」

「バイバイ」



 なんつー顔をしてるんだよ。

 ギャルならギャルらしく、うぇ〜い! って感じで帰ってほしい


 って、ギャルも悩むし凹むよな


 吉沢さんに近付き耳元で囁いた

(明日のオークスは『アイラブエイル』しか勝たん)


「ちゃんと観てなよ! バイバイ」

「絶対観るし! バイバイ若生君」








 地元の駅に着く頃にはポツリポツリと雨は降り出していた


「蓮。急いで帰っぞ」

「何も聞かないんだな」


 話したきゃ蓮から話すだろ。それとも話したいけど話せない事でもあんのか?  

 俺も振られてんだよ!


「蓮さ、昔みたいに好きな女の子の話しでもしながら帰るか」

「なついな。それ」

「だろ? 」



 2人で速歩きになりながら、野々宮さんと吉沢さんの好きな所を交互に言っていく


 雨は思ったより早く本降りになってきた。



「お洒落なところ」

「清楚なところ」

「スタイルが良い」

「言葉遣いが綺麗」 

「見た目との……ギャップが萌える……」

「蓮? 」


 途中から涙声になっていった蓮を見ると

 上を向きながら両腕で顔を隠していた


颯太そうた。雨がヤベーな」


 コイツが俺の前で泣くなんて、いつぶりだよ!?

 そこまで吉沢さんに本気だっのか?

 女を取っ替え引っ替えしたり、同時に何人も付き合ったりしてた蓮が??


「雨、強すぎだろ……」


 蓮の涙声は嗚咽混じりになっていった。


「だな! 俺も顔も服もグチャグチャだ!! 俺ん家の方が近いから寄ってけ」



 いまさら同じかも知れないが少しでも早く身体を拭いて、あったかいもんでも食わしてやりたい


「蓮! 俺ん家までダッシュ勝負な!! 」




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