第15話 アタシって可愛い?

 妹の部屋に行くだけなのに、すこ〜しだけ。ほんのすこ〜しだけ怖がってる自分が嫌だ


 絶賛反抗期中なのか、ここ最近は当たりがやたらとキツイ

 昔は俺の後ろをちょこちょこ付いてきて、俺がいなくなれば泣きわめていたのに


 可愛らしいハート型のドアプレートには『ノックしてから入ること。お兄ちゃんのみ消臭してから! 』と、可愛くない事が書いてあった。


 ホントにコイツは前世で俺に恨みでもあったのか?


 トントンとノックをし


「俺だけど」

「オレオレ詐欺なら間に合ってます」

自分家じぶんちでやるかよ! 入るぞ」



 部屋に入るなり下着姿の芽郁めい 雑誌を読みながらベッドで寝そべっているが、なんてはしたない。清楚なルームウェアとかパジャマ来て優雅にティータイムしててほしい。そして『お兄さま』って呼んでくれる妹が良かった。

 用件だけ言って早く済まそう

 

「なに? 」

「明日って出掛ける言ってたよな? 何時に家出んの? 」

「10時くらいだけど」

「了解。邪魔して悪かったな」

「エッチな動画を誰にも邪魔されず大画面大音量で観たかったの? 」



 芽郁めいの言葉を無視して出てった。

 そんなんで出掛ける時間なんて聞かねーよ。

 大画面大音量は当たってるけど

 

 売り言葉に買い言葉ってやつか。明日の日曜日、競馬の祭典! 『日本ダービー』

 俺の家で吉沢さんと観る事になってしまった。


 吉沢さんがダービーは皐月賞馬の『テネブラエ』が勝って2冠って言うから……

 どう考えても『アウレウス』が勝つだろ 左周り巧者だし2400mは適正距離だろうし!! 

 皐月賞の3着は右周りだったのと、直線で前が壁になって脚を余しての3着だし。良く使うネットサイトの競馬民板スレッドにも、テネブラエ派の奴とレスバをしてしまったが……


 そこから吉沢さんとも、あーでもないこーでもない。と話してたらこの流れだ。

 吉沢さんにRINEだけしとこ

『明日10時過ぎならオッケー』


 誰かと競馬中継を観るなんて初めてかも。

 とりあえず明日は朝から掃除だな







 掃除を済ましタブレットでダービー情報でも観るかと思ったが、緊張して集中出来ない!


 この前は突き指してた吉沢さんに湿布しっぷを貼るという偶然からだったけど、今回は約束して家に来るわけだからな


 蓮に言おうと思っても言えなかったし

 ってか、言う必要があるのかも分からん。

 何処か引っ掛かるって事は言っておいた方が良いのかな。


 ピンポーン


 来た!! 鏡で念の為身だしなみチェックし吉沢さんを迎い入れた。



「おは! 絶好のダービー日和びよりだね」

「だね。パンパンの良馬場だし」



 吉沢さんは「お邪魔します」と丁寧に言ってから靴の向きを変えて上がってきた。

 この前もだし、今日も俺しかいないのに、こういうとこはしっかりしてるよな。


「これ。お土産」 

「気使わなくて良いのに。ありがとう」


 手渡されたコンビニ袋にはお菓子と飲み物が入ってるけど、こっちの紙袋はなんだ?


「ソファに座ってて。コップとか用意するから」

「うん。ありがと」


 紙袋をのぞくと本が何冊か入っていた。

 謎に吉沢さんがニヤニヤしだしたけど。


「入門編みたいなもんだから、若生君でも読めるよ」

「百合系のコミックか」

「そ。前に貸すよ言ったじゃん」

「興味なくはないから、読んでみるね」



 紙袋だけ部屋に置いとくか

 部屋に向かうなか、どんなもんか気になって1冊取り出し捲ってみた

 

 入門編だよね? 上級者向けじゃないよね??

 初っ端から女の子同士で『だいしゅきホールド』し合ってるんですが! どんなストーリーなら、初っ端から『だいしゅきホールド』になるの! 逆に気になる!!



 無駄にドキドキしてしまった。


 とりあえず吉沢さんが用意してくれたお菓子を皿に盛り付けて、コップを手渡した。


「若生君、何飲む? 」

「じゃ、ブラックコーヒー貰っていい? 」

「若生君ブラックコーヒー飲めるの? 」

「いや、まぁ」


 ブラックコーヒーは昔からドリップ式で入れる位には好きだし


「尊いなぁ。若生君」


 だから、ブラックコーヒー飲めると尊いの?

 なんなら、大人だなぁ。とか言われるの期待しちゃったけど



 ソファに2人横並びだから意識してしまう

 なんだかソワソワしてしまうソファだけに……

 落ち着け俺! タブレット触って平常心を取り戻そう。ダービーの出馬表を観て集中するんだ。



「ねぇ。若生君」

「なに? 」

「アタシって可愛いかな? 」

「大丈夫。口は裂けてないと思うけど」


「口裂け女的に聞いた訳じゃないし」

「突然、どうしたの? 」


 わざわざ俺の方に向き直る吉沢さん。

 

「アタシって、可愛いかなって?  若生君はギャル嫌い? 」


 何か面倒くさい彼女みたいなセリフなんですが

 可愛いって逆に言いづらい。


「ホントにどうしたの?  」

「前に美容院に来てたメイメイちゃんと、恋バナしてたら言われた」


「妹に? 何て?? 」

「『うちのお兄ちゃんは清楚系好きみたいですよ』って」

「芽郁が俺の何を知ってんだ? っつーの」


 当たってるけど!

 ってか、芽郁が吉沢さんと俺の関係を知らずに話してた内容なんて気にしなくて良いのに


「若生君のホクロの数と位置も教えてくれた。『ウチのお兄ちゃんは、お尻の真ん中にもあるんですよ』って」

「俺ですら把握しきれてねーよ! 」


 やだ 怖い。。あいつが小3くらいまでは一緒にお風呂入ってやってたけど


「それより。吉沢さんのダービーの予想は? 」

「大丈夫 。3年連続で当ててるから」

「さすが吉沢さん。当てたのって単勝? 」


 去年と一昨年は人気馬が買ったから当てられるだろうけど

 3年前は12番人気が1着だったのに、それを当てるとは侮れん。


 動揺を隠すためにコーヒーを口に含む。


「全部3連単」


 ぶつっっっっ

 ヤベッ タブレットにコーヒー掛かったじゃん!

 慌ててティッシュを取りタブレットを拭く。


「あぁね。若生君は魔術で予想するタイプ?  」

「現代日本の高校生が魔術で競馬予想する為、出馬表にコーヒーなんか吹き出さないよ! 驚いてるんだよ!! 」

「アタシの可愛さに? 」

「その話、終わってなかったの!? 3年連続3連単で当ててるのに驚いてるんですが! 」


 プク顔になる吉沢さんだけど、そんなに可愛い。って言われたいのかな? それよりも3連単だと!? 3年前の3連単は約20万馬券だったはず


 嫉妬してしまう。俺ですら3年前のダービーは外れたと言うのに!!


「若生君って、見た目が良くてバカな女の方が好きなんじゃないの? 」

「俺はチャラいナンパ師か! 」


 ってか、吉沢さん。自分自身の事をそう思ってるの? 

 確かに見た目は良くて学力は低いけど、ホントのバカは3連単をそんな簡単に何度も当てられない

 地頭は良いのだろう



「い 一緒にいて楽しい人が良い」

「それが若生君の好きなタイプ? 」


 昔の俺なら顔でしか好きにならなかった。正確に言えば好きになれなかった。

 だって、女の子と仲良く遊んだり話したりしてないから、中身なんて知らねーし

 顔だけが評価基準だったから。


 モブキャだろうが恋はする、一方通行だけど

 顔がタイプな女の子に恋をして、勝手に性格をはめ込んで、妄想恋愛を楽しんでいた。


「ね。今は楽しいの? 」

「た 楽しい」 


 競馬の話をしてるんだから楽しいに決まってる

 誰かと好きな事を共有して、一緒に楽しめるなんて最高すぎる


「そっか。若生君は今、楽しいんだ」


 フフンと鼻歌まじりニッコニコな吉沢さん。 

 可愛いって言えなくてごめんなさい。


 今、心では何回も言ってるから許してください。


「あれ? 若生君が観てるサイト。アタシも良く観るんだけど」

「競馬民なら観てる人、多いんじゃない? 」

「だよね。昨日も『テネブラエ』か『アウレウス』か。で、レスバしちゃったよ。『アウレウスが皐月賞で負けたのは右周りだったから』とか」


 拭き終わったタブレットを覗き込みながら話し続ける吉沢さんだけど……

「『前が壁になって直線で脚を余したから』とか、言ってたけどアウレウスは2枠3番だったから、内枠の奇数番はゲート入れが先だし、テンション高いアウレウスには死番だっただけじゃんね。ゲート内で暴れてたし、少し出遅れもあったし」


 ん?…………昨日のスレッドで俺がレスバしてた相手って吉沢さんかよ!? やたら詳しかったし説得力あるレスだったけど


 ここは面倒くさくなりそうだから黙っておこう。そして二度とスレッドで見掛けても、レスバ仕掛けないようにしよう!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る