第13話 しゅきぴ
目を瞑ってる分、ハサミのシャキシャキと言う音に意識が持っていかれる。
一定のリズムで聞こえる音に気分が
いつもの床屋なら、目を瞑ってひたすら終わるのを待つだけで無の境地なのに。
吉沢さんのお母さんは特に話し掛けては来なかった
それが俺には凄い助かっている。
根掘り葉掘り娘との関係や、俺のプライベートを聞かれても正直困ってしまう。
お母さんは俺が娘を振った事は知ってるのだろうか?
さすがに吉沢さんも話さないか。
「キミ。娘のこと振ったらしいわね」
美容師って人の心を読めるの?
ビクッてなってしまい、お母さんはハサミを一瞬だけ止めた。
「別に何かしてやろう。なんて思ってないわ」
また一定のリズムでハサミの音が聞こえてくる。
「娘は下のネイルサロンに行ってるみたいだし、心配しなくて良いわよ」
「そうですか。吉沢さん……娘さんから聞いたんですか? 」
「もちろん。あの子が振られた話なんて、初めて聞いたからね」
「すみません」
コツンと頭を小突かれた。
「簡単に謝らない。本当に悪いと思って謝罪した時も、軽くなってしまうわよ」
何か吉沢さんにも言われた気がする。言葉が持つ重みってやつを大事にしてるのかな?
それだと余計に告白された事に重みを感じてしまい申し訳なく思ってしまう。
「僕には勿体ないです」
「勿体ないかは知らないけど、娘って私に似てないのよ」
「え? 目とか鼻とか輪郭も似てませんか?? 」
「外見じゃなくて性格。あの子は父親に似ちゃったから」
吉沢さんのお父さんってフリーカメラマンだったよな。
「あの子も諦め悪いわよ」
耳元で囁かれるのでゾクゾクしてしまった。
「良く言えば一途。悪く言えば
「そうなんですね。臨機応変な感じしますけど」
「本当に譲れないものには頑固だし、マイルールみたいのがあって細かいわよ」
なんとなくそれは分かるかも
頑固と言うか押しが強いと言うか……
「こだわりがあるのは自分を持ってて良いことだと思いますけど」
「キミ。意外と大人なんだね。娘はまだまだお子さまだからさ」
お世辞で言ってくれたとしても、何処かこそばゆい。
「カットは終わったけど、軽くワックスでセットもしちゃおうか」
「お願いします」
ワックスで同じようにセット出来るかな?
やり方見てたほうが良いけど、目を開けるのも何か怖い。
「しばらくはキミも大変だと思うよ」
「どういうことですか? 」
「私も最初は旦那の告白を断っわてたから」
凄い気になる言い方!
断っわてたのに結婚してるんだから好きになったってことだよな。
「ハイ、完成。お疲れ様でした」
どうなってるか見るの怖いけど……
これが俺? マジかよ??
「素材は良かったってことね」
「……びっくりです」
「今までの髪がモサッとして重すぎたのよ。顔の雰囲気も暗くなってしまうし」
床屋でもお任せで切ってもらってだけだし だいいちオーダーの仕方も分からなった
「束感のあるマッシュで清潔感もあるし女子ウケ良いわよ」
女子ウケは知らんけど、髪型が変わるだけで心も軽くなった気がする!
蓮にはもちろん勝てないけど、前の俺よりは全然良い!!
「ただいま。どう、終わった? 」
「アイリ。目を瞑ったまま来てみて」
「ママ。真面目にやってくれた? 」
「美容師の良心に掛けて、真面目過ぎる程やったわよ」
吉沢さんに見られるの恥ずかしいんだけど
「どれどれ。どんな感じ?」と、楽しんでそうな吉沢さん。
「ハイ。目開けて良いわよ」
鏡越しに目が合ってしまい、どうしてるのが正解なのか分からず微笑んでしまった。
「あぁ。パーフェクトにダメなやつだこれ……どうしよう」
何かお気に召さなかった? 吉沢さんの好きな感じじゃなかった??
「若生君が微笑むから魔法に掛かったじゃん」
「はい? 」
「あ〜。もう、解けないよ恋の魔法」
お母様は、めちゃくちゃお腹抱えて笑い出してますが
俺はドン引きなんですが……吉沢さんが壊れた
「え? 待って!? ホント待って!! 似合いすぎてエグっ! しゅきが大渋滞起こしてるって!! 」
「よ 吉沢さんのお母さんのおかげだよ」
「かっこかわいい!! だいしゅきホールドしてゴロゴロしたい! 」
「だい……ほーるど? 」
なにそれ?? もう、訳が分からなすぎて褒められてるのかバカにされてるのか分からないんだけど
「前からでも後ろからでも、だいしゅきホールドさせて! 」
「ちょっと、アイリ。性的な意味で言ってないでしょうね」
たしなめる感じで吉沢さんのお母さんは言ってるけど
性的な意味ってなに? 言葉の重みが行方不明ですけど
「ほら、アンタのしゅきぴがドン引きしてるわよ」
コホンと軽い咳払いをすると吉沢さんは
「若生君。今のは忘れて、ヘッドマッサージをしましょう」
凄い顔を真っ赤にしてるけど、性的な意味で。ってのが、やはり男子高校生には気になるのですが。
「吉沢さんはネイル行ってたの? 」
「うん。突き指して出来なかったから、スティックジェル買ってきた」
スティックジェルも分からないけど、俺って競馬や百合好き。ってこと位しか吉沢さんのこと知らないんだ。
「私は帰るわよ」
「ありがとうママ! さすがママだよ」
「こんなに素敵にして頂いて、ありがとう御座いました」
吉沢さんのお母さんは帰り際、俺の耳に手を添えてきた
(2人っきりになっちゃうけど、キスまでなら許すわ)
「し しませんよ! 」
「よけい魔法に掛かりそうね」
吉沢さんに鍵の締め方を教えて出ていったけど
最後にあんな事言うから、俺も意識して緊張してきたじゃん!
「よ〜し。今度はアタシの番だよ。椅子倒すね」
横になる感じだから寝ちゃってても良いのかな?
目を開けてるのも何か違うよね?
「力の加減とかツボとか、まだ良く分からないから、不快だったら遠慮なく言ってね」
「了解。お願い……します」
これは目を瞑ってた方が良いな
吉沢さんの胸が、すぐ上にあるんだもん。
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