第40話 じゃ じゃあ……う……うち来…… る? 

 おいおい イケオジ布団をだいしゅきホールドしてるじゃねぇか。


 さすがアイリのお父さんだ。

 いい年した格好良いオッサンが、丸まってる姿が何か可愛らしい



「若生くん。この人イジケてんのよ、娘を取られて」


 お母さんは呆れたように言うし、アイリに目をやると苦笑いだった。 

 俺の親父も芽郁めいには甘いし、アイリは一人娘だもんな。


「いつまでも抱き合ってんじゃねーよ。暑っ苦しい」


 お父さんがガバッと上半身だけ起こすので驚いてしまった。

 

 ここはしっかり挨拶しないと行けない場面だ

 アイリと離れてから、お父さんに頭を下げる。



「アイリさんとお付き合いさせて」

「あーあーあー。聞こえませ〜ん」


 耳を両手で塞いでるけどガキか?  

 もっとダンディな感じかと思ってた。



「あなたも私を口説いてきたときは強引だ」

「ぜんっぜん。聞こえませ〜ん」

「お小遣い減らすわね」

「すみませんでした 」



 ベッドの上で土下座しだしたよ! なんだよこの人?


「パパ。颯太は心配して気てくれたんだよ」

「頼んでねぇよ」



 3人のやりとりを聞いた感じ大体のことは分かった。


 花火大会に車で行くも、うしろの車に少し追突されただけだった。


 アイリが男と花火大会に行くと知ってたお父さんは、ここぞとばかり大袈裟なRINEをアイリに送ってたらしい。


「考えてみたら、大怪我してるのにRINEなんか出来ないもんね」


 こんなことで騙されるのはアイリくらいだろう

 大切な両親の事でパニクっただけかもしれんが


「ちょうど良かったわね。愛梨の彼氏が見られて」

「し 知らねぇよ」

「娘の彼氏が見たい目的もあって花火大会に向かってたのよ」

「え? そうなのパパ?? 」


 お父さんはまた布団をだいしゅきホールドして眠ろうとしていた。



「私たちは大丈夫だから花火見てきなさい」

「ママは? 」

「今日だけ付き添いで泊まる事になってるから。愛梨も戸締まりしなさいね」

「うん。ってか、いまから間に合うかなぁ……」


 さすがに無理だろ。あと30分位で終わるし、今から急いでも今日の交通状況だと間に合わない


「そっか! 別に近くに行かなくても大丈夫じゃん!! 」


 アイリに手を握られるけど、なんか思いついたのか?


「急ぐよ颯太! パパとママも大人しく寝てなよ。特にパパ! 」


 お父さんの肩がピクッとだけ動いた。


「し 失礼します」

「颯太君。愛梨を宜しくね」


 名前呼びに変わってる!? なんか、ちゃんと認められたみたいで嬉しい。

 こちらを見てくれないお父さんは仕方ないとして、お母さんにだけ挨拶を済ませた。












「ここアウトレットモールだよな」


 病院から近くのアウトレットモールへとやってきた。

 時間も時間だから人は少ないし、遠くから花火の音が聞こえてくる。



「あそから見ちゃおうよ」


 アイリが指さしたのは観覧車だった。

 なるほど! たしかに観覧車なら花火も見えそうじゃん!


「おぉ! 良いね!! 少ししか味わえなさそうだけど」

「少しでも良いじゃん」


 この観覧車には想い出も想い入れもたくさん詰まってる。

 また1つ増えちゃうけど


「ここでも屋台は出てるんだね」

「まぁ。花火大会の規模がデカいし便乗だろ」

「あとでなんか買おうっと」


 すっぴんでカラコンもしてないから、いつもより子どもっポイ。

 そんなアイリが夏祭りではしゃいでるのを見ると、ほっこりしてしまう。



「きょう、すっぴんだから、なんか雰囲気違うよね」


 一瞬だけ固まったアイリは、握っていた手を離すと、シュバババっとダッシュで掛けていった。


 少しして戻ってくると


「なにそれ? 」

「今からこれで過ごす」


 魔法少女のお面をかぶったアイリ


「わざわざ買ってきたの? 」

「すっぴん。カラコンなし。ダメ」


 なぜにカタコト? しかもお面のせいで聞きづらい


「別に俺は気にしないけど。すっぴん可愛いし」

「ち 違うの。颯太に見られるのは恥ずかしいけど良い」


 アイリが風邪をひいたときに見ちゃったしな。


「他の人に見られのが嫌なの? 」


 コクンと頷くアイリだけど、女の子にとっては嫌なのかもな


「じゃ、それ付けていこう。夏祭りだし! 」


 今度は大きく頷くアイリに手を差し出した

 ギュッと握ってくるアイリの手を握り返す

 勝手に手を離されたときは寂しかったから、少しだけ力強く握った。



 観覧車にもあまり人は乗ってなかった。

 考えによっちゃ絶好の隠れポイントのような気もするが


「前みたいに2周しちゃおうか? 」

「颯太がアタシに告白してくれたときだね」

「そ。初めてキスしたときだな」


 会話のやり取りがこそばゆい……こそばゆいし、夏の夜空と花火って雰囲気に気分は高まってしまう。



 観覧車に乗ると、お面をオデコにずらしたアイリが隣に座ってくる。



「ホントは浴衣着てくるつもりだったのになぁ」

「それ、めちゃくちゃ見たいかも」

「秋祭りまで、おあずけだね」



 少しずつ観覧車が周りだす。じょじょに町並みが小さく見えてきた。



「颯太、うしろ見て! 花火が凄い近くに見える!! キレイ……」

「すげっ! 同じ高さくらいじゃん」


 アイリと椅子に膝立ちになり、窓に手を置いた。


 花火大会はクライマックスを迎えているからか、次々に連発で打ち上がってくる


 夜空いっぱいに彩る光と音。

 お腹にも響くし心にも響いてくる。

 花火の光に照らされるアイリの横顔が可愛すぎる。

 この光景は一生忘れなさそうだ。


 花火もだし、逆を向けば星が綺麗に見えるし「ここって特等席じゃん」思わず呟いた。

「アタシやっぱり1番好きだなぁ」


 俺に寄りかかるよう、そっと体を預けてくるアイリ。


「観覧車が? 」

「バカ。颯太の隣が」


 初めての告白も初めてのキスもこの観覧車だった。

 もはや俺とアイリのパワースポットと言っていいだろう


 気づけば観覧車は頂上になっていた。


 目を閉じるアイリに、そっと唇を重ねる。



 花火の光に照らされた夜空、鳴り響く轟音。荒々しい外とは違って観覧車の中はとても静かで……世界の終末に世界の片隅で世界に2人しかいないような錯覚に陥る。

 

 

「っぷ」


 ダメだ目を開けると笑ってしまう。


「何で笑うのよ? 」

「いや。なんかアイリが子どもみたいで」


 すっぴんだと童顔なんだよな。メイクしてるとクールな美人って感じなのに、ギャップが面白くて


 むくれたアイリは魔法少女のお面をかぶった。


「ずっとこうしてるもん! 」

「じゃあ。魔法少女とキスしよう」


 お面にキスすると手の甲を抓られた。


「いってぇな! 」

「やっぱ。お面は辞め」

「だな。こっちの方がぜんぜん良い」


 もう一度お面を外したアイリにキスをした


「颯太。会わなかったのって3週間だけじゃん」

「だな。どうした? 」

「その間にあったこと、たくさん颯太に話したい」

「俺もたくさんアイリの話ききたいよ」



 椅子に座り直すと2人の小指が絡まる。

 もう片方の膝に置かれたアイリの手は握りこぶしを作っていた。



「じゃ じゃあ……う……うち来……る? 」


 俯きながら恥ずかしそうに呟くアイリ。



 この流れこの雰囲気でのお誘いってことは


 俺の心んなかでドデカイ花火が打ち上がった!!

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