第26話 人を好きになる
良かったですね。なんの取り柄もない、存在価値を見い出せないような貴方にも個性がありまして
チャンスをピンチに変えられるのも1つの能力と言いますか、立派な個性だと思いますよ
これは決して貴方を責めている訳ではありません。
むしろ褒めているのです。
私の理解の
貴方の
その結果、たったの1日で謹慎は解除されました。
なんの
途中から意識を飛ばしたので、その後に続く言葉は分からないが、俺を抹殺しにかかっていることは分かる。
吉沢さんと付き合ってるどころか、冷戦状態なのだから当たり前か。
野々宮さんは、いつものように文庫本を読んではいるが、タイトルをこれみよがしに見せてくる
『人間失格』
鈴がなるような声で、神話の出来事の様に言葉を次から次に
それはもう一語一句がエクスタシー……の訳もなくエクスカリバーだった。
放課後の図書室で文学系美少女と、ほぼ2人きりなのに
淡々とエクスカリバーで刻まれる感覚は、甘酸っぱさも何もなく、恐怖を通り越して無になってしまう
「どうするのですか? 」
いてっ 野々宮さんに手の甲を抓られた
「どうするって言われても」
「図書委員の仕事も今日で、ひとまず終わりです」
あとは期末テスト準備期間に入り、期末テストが終われば夏休みか
「愛梨ちゃんと話すらしてないですよね」
「あっちが話す気なさそうだし」
なんなら机もけっこう離されてるし 常に窓側に顔向けてるし、あれは地味に辛すぎる。
最近は吉沢さんの後ろ髪しか見ていない。
ギャル友が吉沢さんの机に集ってくると、俺を邪魔者扱いするかのように、チラチラ俺を見てくるし精神衛生上悪すぎる
「私としては、あの動画を編集し直して、退学にまで持っていきたい気分です」
本当に出来そうだから怖い。
野々宮さんは俺の謹慎を解くために動画を編集してくれた。
企業秘密だからと教えてくれなかったけど、裏サイトからは俺の動画は消えていた。
変わりに岩田先生が登録してた、マッチングアプリのプロフィールがデカデカと載っていた。
「野々宮さんって『カースト』についてどう思う? 」
「カーストによる職業分業は共同体を安定させるための知恵だと思いますが……」
「あの、『スクールカースト』の方ですが」
すっごい汚物を見てるような目をしてくるんですが
「もしかしてですが、愛梨ちゃんとは不釣り合いだと思ってるのですか? 」
「そりゃ まぁ……」
「不釣り合いかどうか第三者の意見より、若生君と愛梨ちゃん。2人のお気持ちが大事では? 」
「それは分かるよ」
「愛梨ちゃんが、人生に血迷って貴方が良いと言ってるのだから、ありがたく受け止めなさい」
「そうしようと思ったけど、簡単に出来れば苦労しないっつーの」
告白しようとして出来なかった。
もし、吉沢さんがスマホを手に取らなかったら……もし、そのまま告白していたなら
吉沢さんと付き合えただろう。
付き合えたけど、いま思えばすぐにダメになりそうな気がする
上手く言えないけど……そんな気がしてならない
俺は告白がゴールだと思ってたんだ
「若生君。『人を好きになる』って『自分を好きになる』って事だと思いませんか?」
「どういうこと? 」
「自分のことが嫌いなら、他人のことを好きになれない。と、思います」
野々宮さんは「少なくとも私は」と、言うとスマホを見せてきた
「誰、これ? 」
「私」
「マジで!? 」
「入学式前の私。高校に入るときの春休みですね」
スマホには眼鏡を掛けて三編みにした女の子が自信なさげに
ってことは、貧血で倒れて蓮に助けられる前か
「松岡君に助けられて、松岡君を好きになりましたが、私はこんなんだったし」
「そっから自分を少しずつ変えていって自信が付いた。とか」
「それに、アウトレットのカフェで若生君が言ってくれたことも自信になりました」
野々宮さんは成績優秀の美少女だ。その素質や才能が元からあっただけ。そしてそれに気づいただけ。俺とは違う
「因みに私が、こんな感じだったのは初めて知ったんですよね? 」
「もちろん」
「愛梨ちゃんと同じ中学なのは知ってますよね? 」
「前に聞いたけど」
「愛梨ちゃんは中学の時も、今みたいに接してくれていました」
「吉沢さんならそうだろうね」
「高校になって変わった私を、変に揶揄してくる同じ中学の人もいましたが」
珍しく柔らかな笑顔を見せる野々宮さん
「愛梨ちゃんは、そういう人だから。若生君が愛梨ちゃんとどうなりたいか? それが分かれば答えは出ます」
「どうなりたいか……」
吉沢さんの色んな表情が頭ん中に湧いてくる
他の人の表情はこんなにポンポンと出て来ないのに
吉沢さんの喜んでる顔、怒った顔、悲しんでる顔、笑った顔……
「期末テストが終わるまでに、若生君も答え出しましょう。全ては若生君次第です」
期末テストは10日後でテスト期間は4日間。
2週間あれば答えは出るか。
「ありがと野々宮さん」
「べ 別に若生君の為じゃないです」
平成すっ飛ばして昭和みたいなツンデレじゃねーか。昭和を知らんけど
野々宮さんからしたら、さっさと俺と吉沢さんをくっつけたいはずたもんな
家に帰ると芽郁の髪色が変わっていた
「お前、黒色に戻したのか? 」
「お受験もあるし」
「なるほど。お前にしては賢明な判断だな」
「愛梨さんと同じ高校行けば、髪も服装も自由だし。半年我慢すれば良いだけ」
俺と同じ高校に行こうとしてる?
気まずい想い出がよみがえる。
明るく可愛い。と、好評だった妹
暗く冴えない。と、悪評だった兄
学校では、いっさい話し掛けるな。と、芽郁に言われる始末
「なんか愛梨さん。お兄ちゃんの事が分からない。言ってたよ」
「分からない? 」
「当たり前じゃんね。愛梨さんとお兄ちゃんだもん。住む世界が違うよ」
そうだよな。ピクニックの時も海の時も同じだった。
2人っきりになると周りからどう見られてるか気にしてしまう。
自分に自信がないから
自信ってどうやってつくんだよ
吉沢さんと釣り合うようになるには?
「芽郁。2週間後、期末テスト終わったら付き合ってくれ」
「どこにか知らないけど、やだよ」
「好きな服買ってやる」
「付き合います! お兄ちゃん大好き!! 」
チョロい……コイツの将来が心配だ
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