第27話 吉沢さんに伝えたい
「本当にこれってイケてんの? 」
「お兄ちゃん。男が思う格好良さと、女の子が求めてる格好良さは違うの」
期末テストも終わった放課後。
同年代でお洒落に自信がありそうな奴らがたくさんいるように思えた。
試着室で鏡に映る自分も、普段しない服装だからか落ち着かない。
白の無地Tシャツに黒のスキニー。足元には黒のドレスシューズ。
「シンプルイズベスト。ファッションは足し算ではなく引き算。特に夏はね」
「計算違いとかないか? 」
「ナッシング! 白と黒でシックだし、靴もキレイ目だし。お兄ちゃん最高だよ」
女子ウケ何か分からないから、今は芽郁のセンスを信じるしかない!
「じゃあ、これにするか。芽郁も付き合っくれた礼に、好きな服を買ってやるぞ」
「いよっ! さすがプレジデント! ラストエンペラー! 最後のサムライ!! 」
よいしょの癖が強い!! 全然嬉しくないんだが
褒めるの下手過ぎだろ
服も買ったし、あとはテスト休み明けに結果が返ってくるのを待つだけか。
自己採点では普段と変わらなかったし、今回も上位20番前後ってとこだろう
気になるのは吉沢さんがテスト前もテスト期間も眠そうにしていたことだ。
中間テストは皆で勉強した甲斐もあって、赤点はなかった吉沢さん。
期末テストはどうなんだろ? あの調子じゃ、何教科かは赤点ありそう。
「良いなぁ。お兄ちゃんは明日、
「デート言うな。遊びに行くだけだ」
「芽郁も行きたい! 蓮ちゃんとデートしたい!!」
芽郁が同じ学校に入学したら、蓮を取り合って野々宮さんとライバルになるのか
まず勝ち目は薄いだろうが、野々宮さんは最近、蓮とどうなんだろ?
「でも、男2人でアウトレットモールって珍しいね」
「なんか蓮が行きたいらしい。テスト休みで平日は空いてるだろうからって」
しかも、めちゃくちゃお洒落してこい! 言ってたし。
もしかして蓮は吉沢さんを諦めて、俺のことを……アホくさ。蓮と2人だけで遊ぶのも久しぶりだし楽しみなのは間違いない
「高校生は良いなぁ。テスト休みもあって、少し行けばもう夏休みじゃん」
そうなんだよな……夏休みは吉沢さんと色々行きたい。
海に花火に夏祭り!! 水着も浴衣も吉沢さんは似合うだろうなぁ
だからこそ終業式に告白することに決めたんだ!
今度こそ決めてやる。告白はゴールじゃなくスタートだ。
振られようが付き合えようが、その後が大事であって
俺は吉沢さんと対等な関係で彼氏彼女になりたい
待ち合わせの時間前にも関わらず、駅にはすでに蓮が待っていた。
「おぉ、良いじゃん。服」
「そっか? 俺には良く分かんね」
「芽郁ちゃんセレクトか。全然良いよ」
「サンキュ。ってか、待ち合わせ時間が17時って遅くない? 」
「それは悪い。ちょっと時間の都合がつかなくて……気温も低くなって良いっしょ」
確かに炎天下はキツイけど、最初は昼過ぎって言ってたのに。
明日は普通に学校だから、あんま遅くまで遊べないしな
「やっぱ、颯太もちゃんとした格好すればカッケーじゃん。後は自信持って背筋伸ばして胸を張れ」
お洒落な蓮に言われると俺も少しは自信が持てる。
芽郁よ、疑ってごめんな。
蓮と他愛もない話をしながら電車に乗ること数十分。
目的地のアウトレットモールに着いた。
周りを見渡すと蓮が少し嬉しそうに振り向く
「平日だから人が少なくて良いな」
「そうだけど、なんでアウトレットモール? 」
「前にさ4人で来たの覚えてるか? 」
「吉沢さんと野々宮さんと来たな。あれも中間テスト終わった後だったよな」
何が面白いのか「そうそう」と笑いながら、蓮は観覧車の方へと向かって行く
初っ端から観覧車に乗るつもり? 買い物しに来たんじゃねーのか??
「颯太、俺と吉沢さん。どっちかだけを選べ言われたら、どっち選ぶ? 」
「なんだよ、それ」
「例え話だよ。どっち? 」
どういう意味で聞いてるのかにもよるけど、吉沢さんと蓮。どっちかだけなんて無理だろ
大好きな吉沢さんに大事な蓮だ。選べる訳がない
吉沢さんの事で蓮に遠慮はしないが
「どっちも選ばない」
ピクッとすると蓮は歩みを遅めた。
「どっちも選んでやる。って、言わない所がお前らしいな」
「そりゃ。それが1番良いに決まってるけどな」
ホント観覧車に乗るつもり? チケット売り場から戻ってきた蓮は、やたらとニヤニヤしてるように見えた。
「空いてるから並ぶ必要はないな」
「ってか、前にも後ろにも客がいねーし」
「だな。ちょっと待っててくれ」
乗り場に着くと蓮は係員と話し始めた。
何を話してるのか分からないけど、眼の前をいくつもの
ホント乗ってる人少ないな。
もう少し遅い時間なら仕事帰りの人とかいそうだけど
「颯太、次のに乗るぞ」
「了解。ってか、何を話してたの? 」
「お前がどちらも選べない、お人好しだから無理矢理でも選ばせてやるよ」
「え? 蓮は?? 」
蓮は乗らないのかよ!
観覧車の扉が開くと背中を蓮にバンっと叩かれた。
「いって! 野々宮さん!? 」
なんで観覧車から野々宮さんが出てくるの?
蓮に背中を押され野々宮さんとすれ違う。
「さっさと決めなさい。あと、私のRINE見てくださいね」
なんのことか全く分からない。
そのまま野々宮さんと入れ替わるように観覧車に乗った。
「吉沢さん!? 」
「若生君!? 」
なんだこれ? 観覧車には吉沢さんが乗っていた
「あ〜 もう。アタシ、若生君と冷戦中だったのに」
とりあえず向かい合うように座ったは良いが、これはハメられた? 俺と吉沢さんを2人にさせるとか、蓮の方がお人好し過ぎんだろ!!
ってか、吉沢さん今日も可愛いなぁ
「若生君! アタシたち冷戦中だったよね? 」
「ま まぁ。そうなのかな」
「もう辞めよ……ってか、若生君カッコ可愛過ぎなんですけど」
「あ あざっす」
芽郁!!!! お兄ちゃん。久しぶりにお前を見直したよ!
大好きなプリンたくさん買って帰るからな!!
「マジヤバい! 若生君しか勝たん!! 」
「ハハハ……」
「眩しくて直視出来ないよ」
俺の後ろから後光か何か差してる? どうしよう!! 何を話したら良い?
そう言えばRINE見ろって野々宮さん言ってたな
吉沢さんが両手で顔を覆ってる間にスマホ見ちゃえ
『テスト勉強を凄い頑張った愛梨ちゃんにご褒美上げてくださいね』
え? そうなの?? 全然気付かなかったけど
「吉沢さん。テストはどうだったの? 」
覆ってた両手をどけると吉沢さんは満面の笑みだった。
ピースサインまでつけてくる
「
もしかして、それで眠そうな感じだったの? 遅くまでテスト勉強してて
「葵ちゃんと自己採点したら、何と最高得点だったよ。赤点もなし! 」
「凄いよ! 頑張ったんだね吉沢さん」
「若生君が頭良いから、アタシも少しでも追いつかないと。って」
「眠そうにしてたから、俺はダメだと思ってた」
「眠かったのはホントだけど、目の下にくまが出来たりで恥ずかしかったから、若生君の方見られなかったもん」
照れくさそうに言う吉沢さん。
なんだよそれ……ずっと窓向いてたのそういうことだったの? めちゃくちゃキュンとしちゃうんですが
って、俺も吉沢さんと少しでも釣り合い取れるように。って、ファッションとか勉強して妹にも頭下げたからな
一緒じゃないか。俺も吉沢さんも対等な関係でいたいんだ。
ってか、いつの間にか観覧車終わりそうじゃん!
乗り場に到着するも係員はドアを開けて来なかった
下で待ってる蓮と野々宮さんを見ると、お互いに人差し指を立てていた
もう1周ってこと? 最初からチケット多めに係員に渡してたの??
「もっと褒めて良いよ。若生君! 」
少し前かがみに頭を寄せてくる吉沢さん
俺の大好きなグレープフルーツの匂い……吉沢さんの匂いだ
「偉い! 頑張った吉沢さん凄い!! 」
頭を撫でると吉沢さんは、すぐ隣に座り直した。
「もうちょい褒めてみよっ! 」
「吉沢さんは面白いし、優しいし、可愛い! 」
隣に座る吉沢さんの髪を優しく撫でる
思えば5月に野々宮さんに告ろうと思って出来なかった想い。
この観覧車に置いてったんだ。
「吉沢さんといると凄い楽しいし、元気になるし……ドキドキする」
「若生君? 」
俺を見る吉沢さんの目に吸い込まれそうになる
置いてった想いは何倍にもなってるけど吉沢さんに伝えたい
俺が恋してるのは
俺が大好きなのは
「吉沢さんが大好きです。吉沢さんと付き合いたいです。俺と付き合ってくれませんか? 」
グレープフルーツの匂いがより近くに感じる
ギュッと吉沢さんに抱き締められた
「……ハイ。こちらこそお願いします」
耳元で囁かれる言葉に嬉しさのあまり吉沢さんを抱きしめ返す
人は本当に嬉しいときに言葉が出てこない事を知った
「ってか、待たせすぎなんですけど」
「す すみません」
「若生君」
見詰め合うとどちらからともなく
顔を近付け合った
髪を耳にかける吉沢さんの仕草に見惚れてしまう
「アタシも大好きだよ」
ゆっくりと唇がぎこちなく重なり合う
初めてキスをした
「キスは待たせなかったね」
もう一度、唇が重なる
柔らかくて気持ちが良くて
心の奥から温かくなっていく
吉沢さんが大好きだ
上手く息が出来なくて唇が離れるたび
塞いでしまうし塞がれる
何回目のキスか覚えてないけど吉沢さんが照れくさそうに言ってくる。
「前に『甘えん坊になったのね』言われて、驚いたんだ」
「吉沢さんが風邪を引いたときか」
「うん。アタシ小さい頃から両親が忙しくしてたから、ワガママ言っちゃいけない。って我慢してた」
「そっか。それも寂しいよね」
「初めて甘えん坊って言われたし……でも、それが凄い嬉しかった」
そんな事を言う吉沢さんがたまらなく愛しく感じた。
「観覧車終わっちゃうね」
同じ観覧車なのに野々宮さんの時は終わりしか見えてなかった。
「違うよ。今から始まるんだよ」
「確かに。アタシと若生君は今からだし」
ニコッと微笑む吉沢さんがマジで可愛い過ぎてヤバい通り越して、だいしゅきホールドしたい!
怒られるかな?
「最後にもう一回しよ」
すり寄ってくる吉沢さん。
頬を染める
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