第10.5話 四角関係 吉沢 愛梨の場合
今からって……月曜じゃダメな理由あんのか?
ピコンと音とともに吉沢さんからのメッセージは続く
【そっち行くよ】
【
早くにネックレス返せなかった俺が悪いんだけど、本当に来るつもり?
電話してみよ
『もしもし。
1コールが終わるまもなく吉沢さんは出た。
『本当に来るの? 』
『うん。用事あった? 』
『いや、ないけど』
吉沢さんのスマホから電車の到着アナウンスが聞こえてきた。
どっかの駅にいるっぽいけど、まだ家に着いてない? どっか寄ってたのか??
『吉沢さん。今、何処にいるの? 』
『アウトレットモールの駅だよ』
『何で!? ずっといたの?? 』
『帰ってる途中でネックレスないのに気付いて探してたから』
マジかよ……これは余計に断わりづらくなってしまった
『俺が渡しに行くよ』
『良いよ。アタシ行くから、そっちの方が早いし』
『じゃあ。長町駅で待ってて、ネックレス持っていくから』
『分かった。またね』
はぁ〜 シャワー浴びて落ち着こうとしてたのに また雨のなか出なきゃいかんのか
「ちょっと、コンビニ行ってくる」
リビングにいる
「ついでにポテチ買ってきて」
「覚えてたらな」
「じゃあ。覚えてろ」
もう 口も悪いし見た目もギャルなのかヤンキーなのか
野々宮さん成分を少しでも分けてほしい
濡れないようにネックレスを小袋に入れてポケットにしまう。
外に出ると雨は小振りになっていた。アスファルトから立ち込める独特な匂いが鼻につく。
ネックレスを渡すという明確な理由があるのに
『学校』って免罪符があれば気にもしないのに
後ろめたい気持ちが心の片隅で消えない。
駅に着くと吉沢さんはすぐに見付けられた。目立つから、こういうとき便利かも。
手を振りながら近付いてくる吉沢さん。
「さっきぶり。若生君」
「だね。ネックレスごめんね」
「こっちこそ、ありがとうだよ」
「大切なものなんだね」
『うん』と頷く吉沢さん
ネックレスを手渡そうとすると、両手をすくうように出して来た。
「あれ? こっちの薬指腫れてない?? 」
明らかに吉沢さんの右手薬指は赤く腫れていた。
「観覧車が風で揺れてバランス崩した時、やっちゃったぽい」
「痛くないの? 」
「触らなければそこそこ痛い。触るとまぁまぁ痛い」
でしょうね。骨折とかはしてないだろうけど、結構な腫れ具合だよ。
「すぐに湿布しないと。ドラッグストアは20時で終わってるし」
女の子だし指が太いままとか嫌でしょ。
家に湿布はあったはず。
タクシー使えばすぐ着くし、多少の出費は仕方ない
理由が理由だ。蓮も分かってくれるだろう
「俺ん家に湿布あるから来なよ」
「大丈夫だよ。そんな子ども扱いしなくても」
「子ども扱い。ってか、女の子扱いだけど」
目をパチクリさせたかと思うと吉沢さんは俯いてしまった。
「そ そういう事をたまにサラッと言ってくるよね」
ん? 良く分からんけど、何で照れてる感じなの??
「行こう吉沢さん」
タクシーで家に着く頃には、雨はすっかり上がっていた。
「残念な妹だけいるけど、気にしなくて良いからね」
「え? アタシの見た目変じゃない?? 大丈夫? 」
「全然、大丈夫だけど」
タクシーの窓に顔を向け、手ぐしで髪を整える吉沢さん
「イタっ! 」
突き指してるの忘れてた?
ってか、キャップしてるから別に髪とか良くない??
何故にリップを取り出す……急にソワソワしだしたな
「ただいま」
「お お邪魔します……」
あれ?
浴室からシャワーの音が聞こえてきた。
「妹。シャワー浴びてるみたい」
吉沢さんの顔は、どことなく安心しているように見えた。
リビングに案内し適当にソファーに座ってもらう。
薬箱から湿布を取り出し
「手、出して」
吉沢さんは手の甲を向けてくる。
どうしても尖ったネイルに目が行ってしまう。
「痛かったらゴメンね」
湿布を吉沢さんの薬指に巻きつける
「っん……」
ちょっと! そんな色っぽい声を出さないで
吉沢さんの唇を噛み締め、痛さに耐える顔は刺激が強い。
「これでオッケー」
「ありがと」
吉沢さんは湿布を貼られた薬指をしばらく見つめていた。
少しすると浴室から芽郁が上がってくる音が聞こえた。
「お兄ちゃん。帰ってきてたんだ…………
「メイメイちゃん!? 」
はて? さて?
どうゆうこと??
「若生君の妹さんって。メイメイちゃんだったの? 」
「そうなんですよ。もう、恥ずかしくって」
お前の方が恥ずかしいわ!
下着姿で人さまの前に出てくんな!
「芽郁! 良く分かんねーけど着替えてこい」
芽郁も自分の姿に気付いたのか、吉沢さんにペコっと頭を下げてから部屋へと向かった。
「妹と吉沢さん知り合いなの? 」
「バイト先の美容院のお客様だよ」
興奮してるのか吉沢さんの声は上ずっていた。
「アタシ。レセプションしてるから」
「れせぷしょん? 」
「受付だよ。電話やネットからの予約対応とか、お客様を案内したりお見送りしたり」
なるほど。そこの美容院に芽郁が通ってるのね。
「愛梨さん。どうしてウチにいるんですか? 」
『紅茶です』と言いながら吉沢さんにカップを差し出す。ポテチも買うの忘れたけど何も言ってこないし、ホント外面はいいやつだ!
とりあえず芽郁に
「学校で吉沢さんのネックレスを拾ったんだよ」
「え? でも、それなら学校で渡せば……愛梨さん。お兄ちゃんと同じ学校なんだ」
「明日、どうしてもこのネックレス着けて、出掛けたかったってさ」
「そうなんですね。デートですか? 」
強引だが、何とか切り抜けられたか?
「愛梨さん。言ってましたもんね」
「ちょっと、メイメイちゃん」
「『好きな人が出来たんだよ』って。付き合えたんですね! さすがです」
「メイメイちゃん? 」
「何か趣味が同じって言ってましたよね? 」
「メイメイちゃん?? 」
「それに同じ学校でしたよね? 」
「メイメイちゃん!」
「しかも、同じクラス」
「メイメイちゃん!!!! 」
どんどん目が泳いでいってる吉沢さんだけど、百合好きな男子って貴重な気もする。
しかも、同じクラスだったとは、蓮も大変だな……
「あれ? ってことは、愛梨さんの彼氏って、お兄ちゃんも知ってる人なんじゃ」
「メイメイちゃーーん!」
知ってる人…………何人かの人気あるクラスメイトの顔を思い浮かべるも、人付き合い少ないから全く分からない!
「わ 若生君。課題で分からない事あるから、教えてもらえる? 」
「良いけど、突然どした? 」
「あ! あと、愛梨さん」
何かを思い出したのか、芽郁はパンっと両手を叩いた
「好きになった切っ掛けが、ナンパされっ」
「若生君! 若生君の部屋で課題しましょ。早く!! 」
「分かったって! 」
急かされるように自分の部屋へと向かう。
めちゃくちゃ焦ってたけど、俺に聞かれちゃマズイ事でもあんのかよ?
蓮の援護射撃出来る情報かも知れないのに
でも、そしたら野々宮さんがなぁ……
全員が上手くいくってホント難しい。
俺の部屋に入るなり吉沢さんはペタンと座り込んだ
「つ 疲れたぁ〜。もう、メイメイちゃん」
良く分からないけど、ウチの妹がさーせん。
落ち着きを取り戻したのか、吉沢さんはグルっと部屋を見渡した。
「凄い! 本当に競馬だらけ」
吉沢さんに負けず劣らず、ぬいぐるみから、ポスターから、本や血統辞典まで、何から何まで競馬に関するもので埋め尽くされているからな
「アタシと趣味同じだよね。若生君」
「競馬仲間だな」
これって、さっきの芽郁が言ってた……
「アタシと同じ学校だよね」
「そ そうだけど、どうした? 」
一気にバクバクと鼓動が早く大きくなる
「アタシと同じクラスだよね」
「同じクラスだな」
何だよ……マジでか? 辞めてくれ。続きを聞きたいような聞きたくないような
「ナンパだとカン違いして助けてくれた事あったよね? 」
「……あった」
学校1のギャルだよ?
可愛くてお洒落で人気の
「若生君が好きです」
たまたま蓮と幼馴染だから、少しはクラスでも話せるようになってきたけど
モブキャラだぞ
「アタシと付き合って下さい」
嘘だろ?
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