第10話 ギャル含めての四角関係④

「着いた! 俺の勝ち」


 れんに学力以外で勝てるもんなんかねーし、最初から勝負は分かってたっつーの


颯太そうた、大丈夫か? 肩、貸すぞ」


 ゼェゼェ言ってる俺を心配してくれる蓮

 こんなイケメンで良い奴なのに、振られるのか……


「……俺、まだ……本気。うぇっ……出して……ねーし」

「お おう」

 

 ヤバッ すこしえづいちゃった


 蓮の少し目にかかるパーマがかった茶髪の毛先から、濡れた水が滴り出し頬を伝い下へと落ちていく。


 涙か汗か雨か。

 全部が混じってそうだけど、水も滴るイイ男とは良く言ったもんだ。


 蓮の肩を借りながらドアを開けた。


「ただいま」


 リビングからこちらへ向かってくる芽郁の足跡が聞こえてくる


「何で帰ってきちゃったの?……蓮ちゃん! 」


 蓮を見るなり去っていく芽郁


芽郁めいちゃん。茶髪になってるじゃん」

「不良妹だよ。ってか、何処行ったんだアイツ! 」


 ドタドタと音を立てながら芽郁は戻ってきた


「蓮ちゃん。風邪引いちゃうよ」


 慌てたようにバスタオルを蓮の頭に掛ける芽郁。


「サンキュ。芽郁ちゃん」


 またコイツは強がって無理やり笑顔作らなくても良いのに

 で、俺には?


 雑巾でテキパキと濡れた床を拭く芽郁。

 うむ、蓮の前では良く出来た妹を演じてやがる

 で、俺には??


「芽郁? 」

「……いたんだ」


 床を拭きながら上目遣いに見てくるが、とても冷めた目をしてらっしゃる


「俺にバスタオルはないの? 寒くて風邪引いちゃうよ? 」

「ハイ」


 床を拭いたばかりのボロッボロの雑巾渡されたんだけど


「これは何かな? 」


『それは『濡れ衣』お兄ちゃんに合うなって」



「『合うなって』手編みのマフラーとかじゃねぇぞ、似合ってたまるか! それにだ、幼少の頃からお前のせいで『濡れ衣』着まくってたんだよ、濡れ衣の重ね着させる気か!! 」


 あれ? 午前にこんなやり取りしてたような


「良いじゃん、お兄ちゃん。今日は洒落がきいてる」

「なに、今日は『お洒落で良いね』みたいな言い方! 濡れ衣を重ね着したところで『あったかい』ってなるかよってんだ! 」


「そちらのボロ雑巾ですが、何と今なら……定価2300円が」

「2300円が? 」


「今だけ! 2800円!! 」

「あっ たかい」


 ……雑巾を床に思いっきり投げつけた


「やってられるか!! 」

「もう。ワガママなお兄ちゃんで、芽郁は大変だよぉ」


 なにコイツため息付きながら雑巾拾っちゃてんの?

 こっちの方がため息つきたいんだけど


「蓮ちゃん、拭くだけじゃ風邪引いちゃうからシャワー浴びてきなよ」

 

 なんなの 俺と蓮に対する、この落差は?


「相変わらずの若生兄弟だな。って、シャワーいいのか? 」


 俺の許可とかいまさらいらねぇだろ


「ついでだから浴びて来いよ」

「何か悪ぃな」

「服はお兄ちゃんの用意しとくね」


 芽郁の頭をポンポンとする蓮


「芽郁ちゃん、茶髪も似合ってるね。モデルさんみたい」


 昔から芽郁は蓮のコレに弱い

 今も薄気味悪い笑みを浮かべてるし

 あのポンポンも芽郁の事を『お子ちゃま』として扱ってるだけだろうな




 蓮に貸す服を芽郁に渡してから、部屋で着替え始める。


 なんか、ポケットに違和感を感じるが

 まさぐってみれば見覚えのあるネックレスが出てきた


 ヤベッ。完全にやっちまった……吉沢さんのネックレス

 拾ったのに渡すのを忘れてた


 慌ててRINEでネックレスを拾った事と月曜日に渡すことを伝えた。


 本当なら解散する時に渡すはずだったのに、申し訳ない吉沢さん。


「お兄ちゃ〜ん。蓮ちゃん上がったよ」

「了解! 俺もすぐ入るわ」



 雨に打たれた後のシャワーは気持ちが良い

 このまま野々宮さんに振られた事も、洗い流されて行けば良いのに


 まっ 野々宮さんがどう思ったかは置いといて、人生初の告白だったんだ

 思い出の1つとして刻んでおこう



 シャワーを浴び終え、リビングに向かうとシチューの良い匂いが漂っていた。


「颯太。先に食べてた」

「あぁ。別に良いけど」


 俺の服って八分袖だった?

 蓮が着ると明らかに小さくてムカつく


「芽郁ちゃんのシチュー。めちゃくちゃ美味い」

「やった! 沢山あるから、おかわりも良いよ」

「俺には? 」

「自分の分は自分でよそいなよ」



 てすよね。いつもそうしてましたもんね。 

 蓮は特別なんですね。

 


 シチューを食べ終えた蓮の顔はいつもと同じだった

 少しは元気が出たみたいだな


「めっちゃ満足した! 本当ありがとう、芽郁ちゃん」

「蓮ちゃん。大げさだって」

「全然。この借りは絶対に返す」

「余計に大げさなんだけど! 」



 何も知らない芽郁の無邪気な明るさが、イマの蓮には響いたのかも知れない


「そろそろ帰るけど、この服どうすればいい? 」

「蓮ちゃんの服、紙袋に入れてるから、そのまま帰ったら」


「じゃ。芽郁ちゃんのお言葉に甘えて」

「お言葉だけじゃなくても蓮ちゃんなら良いよ」


「調子のんな」

「いたっ! 」


 俺にデコピンされ、両手でオデコを抑える芽郁


「芽郁ちゃんも。何か困り事とかあったら言ってな」

「リアタイで、お兄ちゃんのパワハラに困ってます」

「だから、調子乗んな」


 もう一発デコピンしたった!

 けっ 蓮の前では良い妹気取りしやがって

 

 今日は助けられたけどな!



 玄関まで芽郁と一緒に見送ろうとすると、蓮が何か言いたそうに目配せしてきた。


「傘、持ってけよ」

「サンキュ。月曜返すわ」


 外に蓮と出たは良いが雨は強さを増していた


「土砂降りだな。気を付けて帰れよ」

「ありがとな」


 面と向かって真面目な顔で言われると照れる


「何だよ、いまさら」

「お前が幼馴染で…いい奴で良かった」

「訳、分かんね」

「気持ちの整理がついて話せるようになったら、ちゃんと颯太に話す」


 吉沢さんとのことだよな


「分かった。じゃ、俺もそん時に話すわ」

「だな。振られた事には変わりねぇが、こうなるって分ってたからな」

「だからお前は泣くの早かったんだって」

「バーカ。泣いてねーよ」


 そういうことにしといてやろう、今は


 傘を差して帰って行く蓮を少し見届けてから家に戻る




「蓮ちゃん。何かあったの? 」

「男には超えなきゃいけねぇ、壁があんだよ」

「お兄ちゃんは壁を超えられず、壁に沿ってずっと歩いてそうだよね」



 なんなのコイツ? 俺に対して、いちいちグサッと来る事を言わないといけない呪いにでも掛かってんの??


 部屋に戻るとスマホが点滅していた。


 吉沢さんからRINEの返信来てるじゃん


『今から取りに行きたい』



 え? こんな大雨のなか??


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