第43話 お互いの『好き』を

 カシャ カシャカシャカシャ 


 ん? なんか変な音が聞こえてくる。


「お お母さん!? 」


 目を開けるとソファーで寝転ぶ俺たちを見下ろすアイリのお母さん。


「おはよ。颯太そうた君は目覚めたのに、まだ眠り姫みたいよ」


 すっごい、ニコニコ顔のお母さんだけど怒ってはないみたいだ。

 ってか、上半身裸だしめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど


 腕の中でスヤスヤ可愛らしい寝息を立てているアイリが邪魔で起きられない。



「眠り姫にすることと言ったら?」


 アイリにキスしろってこと?

 お母さんの見てる前で??

 出来るわけねーだろ!


「アイリ! 起きてくれ!! 」


 頬をペシペシ叩くと一瞬だけ眉間にシワを寄せるも、起きる気配がしない


 アイリの寝顔を撮りながらクスクス笑うお母さん。


「その姫は、起きないときは、なかなか起きないからね」


 2人きりなら何万回もキスするけど人前ってか、お母さんの前では出来ねぇよ!


 ここは一つ、俺たちが互いをリスペクトし、惚れた要因でもある競馬ネタを


 アイリの耳元で囁いてみた


(世界のホースマンよ。見てくれ これが日本近代競馬の)


 アホらし、こんなんで起きるか


「結晶だ!! 」


 うわあぁ 突然、飛ぶように「起きた!? 」

 まさしくディープインパクト!!!



「あれ? ママ?? 」

「もう。何で起きるのよアイリ。せっかくキスシーンが観られると思ったのに」

「キスシーン? 」


 お母さんに言われると、アイリは見つめてくる。


 ッチュ


 うはっ さっそくアイリに唇奪われちゃった

 相変わらずプルンとしてて吸い付くような唇だったぜ!


「はい。おはようのキス」 


 目を丸くするお母さん。

 

「起きたての口内環境は、ばい菌凄いのよ。良くそんな事出来るわね」



 いやいやいや。自分から、けしかけといて、そんな夢もないこと言わないで欲しい


「それはそうと、颯太君」

「はい」

「うちのバカからの言付け『競馬で勝負して勝ったらアイリと付き合っても良い権利をやるか考えてやる』だとさ」

「余裕だよ。パパ、穴馬ばかり狙うし予想下手だもん」


 今のお母さんの言い方だと、予想に勝っても『権利をやるか考えてやる』だから、『付き合って良い』とは言ってねーじゃん。


「颯太、勝てるよね? 」

「絶対に勝つ! 」


 競馬で負けたくないし、アイリと付き合ってることを、しっかりと認めて欲しい。



「じゃあ。お母さんも帰ってきたことだし、俺も帰るわ」

「下まで送るよ」

「颯太君。いつでも遊びに来なさいね。美容院にも」



 優しく微笑むお母さんに頭を下げた。

 どんどん表情が優しくなってる気がするのは、気のせいじゃないだろう。

 アイリのお母さんとは上手くやっていけそう





 2人で着替え下のエントランスへと降りた。


「少しだけ話す? 」

「だな」


 前にも座ったベンチ。

 あのときは、ぶっちゃけアイリと最後までしたい。思ってたんだ


 リアルに最後までしたら、もっとアイリを好きになった。


 優しくて面白くて、後先考えない危うさも、一緒にいるとハラハラして飽きない。

 どこまでも真っ直ぐなアイリ。少し不器用なアイリ

 全部が好きだ。



 お互いに黙ったまま、言葉を探していた。

 場を繋ぎたくてスマホで蓮のRINEを見た。


『お前、すげーの持ってんな』

『頭が沸騰したのは初めてだ』

『もう。あおいしかいらねぇわ』



 へっ? だいしゅきホールドか!? まさか野々宮さんと、だいしゅきホールドしあったのか!?

 人のを妄想するのは無粋だから辞めとくが……清楚系ビッチさんやったやん!!

 あの蓮が完落ちした! これは明後日の二学期が楽しみだ。


 野々宮さんからのRINEには


『雰囲気は大事ですからね』

『良い雰囲気の時にコンビニにダッシュとかなしですよ』

『まぁ そうならないように愛梨ちゃんに……』


なに、この『……』は? あれ?? ベッドの下にゴムあったのって、清楚系ビッチさんの入れ知恵?


 ふと、小指にくすぐったい感覚を覚える。アイリが小指を絡ませてきた。


「昨日から、ずっと。夏の想い出ってやつだね」

「俺の記憶に一生残る」

「アタシもだよ」

「これから、もっともっと作っていこうな」

「だね」



 お互いの『好き』を共有し合いたい。

 お互いの『好き』を受け止め合いたい。

 お互いの『好き』を大切にして生きたい。


『好き』な気持ちは数字にも形にも表せられない。

 だから行動や言葉にして伝えるんだ。


「改めて、これからも末永く宜しくお願いします」

「こちらこそ、ふつつか者ですがお願いします」

「なんかプロボーズの返事みたいだな」

「プロボーズみたいだったもん」



 今は真似事かもしれないけど、何年後か本当にしたいなぁ。ってか、するぞ!


 2人の幸せな笑い声がエントランスに響いた。

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