第31話 可愛いギャルの笑顔付き!

 レース観戦もそこそこにタブレットとにらめっこをしていた。

 そのおかげで完璧なシュミレーションを立てられたけど緊張してしまう。


 イタリアンマフィアなお爺さまって何の仕事してんだ?

 個人馬主になるには馬主会に所属してないとなれないし、なるための条件も厳しいはず


 収入が1700万円以上で、保有資産が7500万以上だっけ?

 将来なるかもしれないから興味本位で調べたけど、たっか!って思った記憶がある。


「この次の第5レースが『ラブマジックアイリ』だよ」


 吉沢さんに言われ、ターフに目をやると、第4レースで走る競走馬たちが返し馬をしていた。



「あっ お爺さま」

「少し、小僧を借りるぞ」

「お爺さま。小僧ではなく『若生わこう 颯太そうた』くんです」



 小馬鹿にしたように「ふんっ」と言う、お爺さまの眉間には深〜いシワが出来ていた。


「小僧、付いてこい」


 あからさまに『小僧』のとこだけ力強く言ってくるし

 俺だけ? 吉沢さんは一緒じゃないの??


 困ったような笑顔の吉沢さんに見送られ、お爺さまに付いていく


 2階までエレベーターで降りて、そのままパドックまで連れてこられた。


「小僧は競走馬が好きか? 」

「もちろん好きです」


 パドックには第5レースに出走する馬たちが周り始めた。



「好きな馬はいるのか? 」

「セントライト。あとはシラオキからつらなる牝系ですね。岩手の小岩井農場で生産されてますし」

「ほぉ、そんな昔の馬をか。『ラブマジックアイリ』も6代前の母はシラオキじゃぞ」


 さっきタブレットで調べたから知ってるわ!

 お爺さまの出身が岩手県だと言うことも


 お爺さまは厩務員さんに引っ張られてパドックを周回する『ラブマジックアイリ』に視線を移した。


 人目を引く栗毛キンパツと鼻筋にスーッと伸びる流星。

 間違いなくグッドルッキングホースだ。あまりの綺麗な馬体に見惚みとれてしまう。


 栗毛キンパツだし顔も流星があって目立つし、人間なら吉沢さんみたいに派手なギャルっぽい


「競走馬としても繁殖牝馬としても期待出来ますね」 

「それにじゃ『ラブマジックアイリ』の父はショウナンカンプじゃぞ」


「サクラバクシンオー、サクラユタカオーと3代遡さかのぼれる、数少ない内国産種牡馬ですね」

「あぁ、出来得る限り内国産の血をやしたくはない」

「素敵な事だし、ロマンだと思います」



『ラブマジックアイリ』の血統表を見ても、見事なまでに日本競馬の血が濃い。

 現代競馬に合わなくなって来てるけど、この血統は守りたいだろうな。


 その後も色々と血統の話や生産牧場の話をされたが、なんとかお爺さまの機嫌をそこなわない回答は出来たようだ。


「して、小僧は結婚する気はあるんじゃろうな? 」

「はい? 結婚って吉沢さんとですか? 」


「『吉沢さんとですか?』って、他にいるのか?? 」

「いないですけど、結婚なんてまだ考えてもないですよ」



 まだ、付き合ったばかりなんだけど……しかも初めての彼女だし


「大事な一人孫娘じゃ。泣かすことは許さんぞ」

「嬉し泣きでもですか? 」

「小僧が良く言うわ」



 初めて優しい笑顔を見せてきたけど、これは一応は認めてくれたのかな?


 パドックでお爺さまと別れて吉沢さんの席へと戻った。

 


「おかえり、ここから見えてたよ」

「なんか血統の話を色々とされた」

「お爺さまらしい。アタシも延々と聞かされてた事あるし」



 そりゃ 血統にも吉沢さん詳しくなるわ


「もう、レース始まっちゃうよ。新馬戦だから無事に走り切るだけで良いよね」

「まぁ。申し訳ないけど、人気的にも掲示板、5着までに入ればオッケーって感じだしね」



 『ラブマジックアイリ』は14頭立ての8番人気だった。

 競走馬は毎年8000頭ほど産まれ、そのうち1勝出来るのは1300頭ほどしかいない。

 大体の馬は1勝すら出来ず、引退することになる厳しい世界だ


 レースが始まった。『ラブマジックアイリ』のデビュー戦



 最初こそ普通に観てられたが、レースも最終直線になると自然と声に力が入ってしまう

 ラブマジックアイリは、後方から追い込んでいた。


「ラブマジックアイリ行け! 差せる差せる! ラブマジックアイリ!! 」


 ってか、馬名が長いし言いづらい。


「アイリ頑張れ! もうちょいだアイリ!! 届けアイリ! 」


 直線残り100で先頭に並んだ!!


「スゲっ! アイリいけ!! 突き抜けちゃえアイリ! アイリ頑張れ、頑張れアイリ、アイリ!! アイリ!! アイリィィィ」


 あぁ 最後は半馬身ほど突き放されてしまったか……


 地下馬道へと帰っていくラブマジックアイリに拍手を俺は送った。


「アイリお疲れ様! 良く頑張ったねアイリ!! 」


 新馬戦ながらタイムも良いし、8番人気で2着は立派だろ


「惜しかったね、吉沢さん……え? 吉沢さん!? 」


 耳まで凄い真っ赤になってるけど、そんなに興奮して応援してたのか?


「わ 若生君……な 名前」

「名前? 」

「アタシの名前、連呼しすぎ……です」



 あっ……ラブマジックアイリの『アイリ』って、吉沢愛梨の『愛梨』だった。

 ってことは、呼び捨てで絶叫してたってことかよ!


「ごめん。吉沢さん、馬名略しちゃって呼んでたら」


 吉沢さんは『ち 違うの』と、言いながら首を横に振った。


「そっちの方が良い……です」


 相変わらず顔が赤いままだし、何故に『です、ます』口調?


「そっちって、名前? 」


 吉沢さんはコクンと小さく頷いた。


「前からアタシ思ってたんだ。『吉沢』ってクラスに2人いるなぁ。って」

「でも、男だから『吉沢君』と『吉沢さん』で区別出来るよ」


 俺の答えがお気に召さなかったらしく、吉沢さんは頬をプクッと膨らます。

 やべっ 怒らせちゃう ここは吉沢さんに言うとおりにしとこう


「じゃ じゃあ。これからは名前で呼ぶよ」


 満面の笑みで頷く吉沢さん。

 ほんとに表情がコロコロと変わるなぁ


「いま、呼んでほしいな」

「え? 別に良いけど」


 さっきも普通に言ってたしな


「あ……アィリ……」


 あれ? めちゃくちゃ恥ずかしい!! さっきまで確かに大声で連呼してたのに


「聞こえない……かな」

「ァイリ」

「もう少し頑張れ! 」



愛梨アイリ

「ハイ! 」 



 なんだこれ? 凄い恥ずかしい……妹の芽郁めいくらいしか、女の子の名前呼びしたことなかった


「もう1回」


 両手を合わせて、おねだりしてくる吉沢さん……アイリ。心のなかでもアイリって呼んで慣れていかないと


アイリ、アイリ、アイリ、アイリ、アイリ


よし! 踏み切ってぇ〜


「愛梨」


「なに、颯太そうた! 」



 ブワッ 何か泣きそう。女の子に名前呼びされたのも記憶にないし……

 しかも、こんな可愛いギャルの笑顔付き!

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