52 ひとりの孤独をいやして

 翌朝。あたしは朝食を摂る気にもならなくて、縁側の向こうの庭に集まっている鳥たちの声をぼんやりと聞きながら考えにふけっていた。


 考えるのは、もちろん縹悟のことだ。昨日あんなことを言って、きっと縹悟は戸惑っているに違いない。


 母さんをずっと好きで、母さんだけを追い求めて、面影を探してあたしを連れてきた、縹悟。


 その途方もなく長い時間をかけてきた想いに、あたしが入り込む余地なんて、きっとない。


 でも、あたしはたぶん、縹悟のことを好きになり始めてる。少なくとも、一緒にいて大切にしたいと、そう思えるようになった。


 このままじゃ、気持ちがすれ違って、辛いばかりだ。でも、どうしたらいいのか、わからない。


 縹悟を変えようとするのは、違う。それはあたしがやることじゃなくて、縹悟自身が決めることだ。


 あたしが、心を殺せばいいのだろうか。なにも思わない、なにも感じない、愛玩人形になって、縹悟の腕の中で。


 そんなことが、できるのだろうか。あたしは縹悟が少し笑っただけでもほっとして、こんなにも心を動かされているのに。


 でも、あたしを見ているようで見ていない、あの素通りするような瞳を、もう見たくない。


 堂々巡りだ。あたしはため息を吐いて、ゆるゆると頭を振った。


 憂鬱な方向にばかり考えが向いてしまう。かといって、気分転換に出る元気も、きっと今日も誰か来ているであろう客間に行く元気も、ない。


「あたし、どうすればいいんだろう……」


 思わず独り言がもれる。


 だって、あの言葉はあたしの本音だし、でも縹悟はそれに困るに違いないのだ。なんて謝ったらいいかだって、わからない。


 このままじゃ、縹悟とまともに顔も合わせられない。


 何度目かわからないため息を吐いたところで、廊下からこちらに向かってくる縹悟の足音が聞こえて、あたしの心臓は跳ね上がった。

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