14 道壱一族の仕事
説明が終わって蘇芳と練が帰っていくと、あっという間に昼食の時間になった。
あたしは小紋姿のまま食事をする部屋に向かう。宗主が先に上座に座っていて、あたしはその向かいに座った。
つるばみが知らせに行くとすぐに昼食の膳が運ばれてくる。あたしたちはどちらからともなく手を合わせた。
「いただきます」
「……いただきます」
箸を取って料理を口に運ぶ。食べたことないような料理や食材も並ぶから物珍しくはあるけれど、ふたりきりで食事をする窮屈さはぬぐえない。
「蘇芳と練だったかな、説明はどうだった?」
宗主が訊ねてきたので、あたしは噛んでいた野菜を渋々飲み下す。
「だいたいは、わかった。共感覚の一族だって」
「そうだね。私に関して言えば、視覚と触覚の共感覚だ」
「……へえ」
わからないなりにちょっと不気味で返事が遅れた。見るだけで触ったような感覚がするっていうのは、いったいどんな感じなんだろう。
たとえばこうやって目の前で食事をしているあたしを見ているだけで……。
いや、これは、考えないほうがよさそうだ。
「午後は晃麒と鳶雄か。疲れない程度に聞くといいよ」
「言われなくても、そうする」
「そうか」
宗主はあたしに興味があるのかないのか、もともと寡黙なのか、あまり会話はない。
あたしが宗主に話したいことが特にないっていうのもあるとは思うけど。
最初に少し話しただけですぐ会話はなくなって、黙々と昼食の時間が過ぎていった。
昼食が終わって部屋で待っていたらつるばみが呼びに来てくれて、あたしはまた午前と同じ客間に向かった。
ホワイトボードはさすがに片付いているけど、晃麒と鳶雄が座布団に座って待っていた。
「お、涼音おねーさんの登場だ」
「こんにちは、涼音さん」
ひらひらと手を振る晃麒、会釈をする鳶雄。あたしも会釈を返してふたりの向かいにある座布団に座った。
「蘇芳と練さんが能力の話をしたというから、オレたちはこの里がどう回っているのか説明しようと思うよ」
「おいしいとこもってったよねあのふたりー」
「里が、どう回っているのか?」
あたしは鳶雄の言葉をおうむ返しに訊ねる。鳶雄は頷いた。
「言ってしまえば金銭関係の話だね。キミもたぶん見ただろうけど、この里には『里』と呼ぶには規模の大きい施設が多数ある」
「学校とか、病院とか?」
「そうだね。どちらもこの里のためにある施設だ」
「能力がうまく使えない子が病院に行ったりもするよね。医者もみんなうちの一族の人だし」
「…………」
晃麒がなにげなく挟んだ言葉に、思わず目を伏せた。その調子だと学校の先生も道壱一族の人間がやっているのだろうか。
規模が壮大すぎる。そして、あまりにも閉鎖的だ。
「そんな大きな資金をどこから調達しているのかというと、まあ、一族ならではの能力を活かした仕事をしていると考えるのが自然だね」
「そうだね」
鳶雄はあたしの相槌にこくりと頷き返す。
「『道壱一族』というのはたとえば鑑定、毒見、あとは嘘を見破ったり、そういう場面で非常に役に立つ一族として、政治家や富豪の間で『知る人ぞ知る』ブランドになっている」
「そんでもって、実際に役に立つもんだからお金はもらえるしいろいろ便宜をはかってもらえるわけ。役に立てるように小さい頃から教育もされるしね」
「……意外と、大変なんだ」
晃麒はあたしの言葉に肩をすくめた。
「もう生まれた瞬間からそういうもんだから、大変もなにもないよ。涼音おねーさんがもし仕事するってなったら大変そうだけど」
「あたし、そんな能力ないから無理だよ」
晃麒はあ、そうだ、と身を乗り出した。
「具体的に仕事の話が聞きたかったら、練にいに聞けばいいよ。練にいはもう能力使ってバリバリ働いてるから」
「そうなの?」
「……この里では高校を卒業したら働き始める人が多いからね。オレは無理言って大学に行ってるけど。あ、今は休学中だよ」
鳶雄が補足した言葉に、あたしは驚く。やっぱりこの一族はいろいろとなにかを始めるのが早い。
あたしが18歳の誕生日のその日に誘拐されたのも理解できてしまう。納得はしてないけど。
「まあ、涼音さんのしばらくの仕事は、この里に慣れることじゃないかな。オレたちもそのためにいるんだしね」
鳶雄の言葉に、あたしは返事をなくす。どうあがいたって、あたしはこの里に、この一族に、馴染んでいかないといけないのだ……。
今日一日だけで、常識外れすぎることをたくさん聞いた。その中に放り込まれて無事でいられる自信なんて、これっぽっちもなかった。
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