17 赤の昼

 蘇芳は午後もあたしと話をするというので、宗主とあたしと蘇芳の三人で昼食をとることになった。


 宗主とふたりきりじゃなくなったのは少しほっとするけど、宗主が来るのを待つ蘇芳の顔がこころなしか硬い。


 顔合わせのときもあまりいい態度とはいえなかったし、蘇芳は宗主に思うところでもあるんだろうか。


 そうこうしているうちに、宗主が部屋に入ってくる。


「ふうん、蘇芳も一緒か」


「こんにちは」


 蘇芳はぶっきらぼうに挨拶をする。宗主はなにも意に介していないように自分の席に着いた。


 いつものように、到着を見計らって膳が運ばれてくる。あたしたちは手を合わせておのおの挨拶をし、箸を手に取った。


 蘇芳がおもむろに茶色い見たことのない具材を箸で持ち上げた。


「涼音、この細長くてうねうねした山菜、なんだと思う?」


「知らない」


「ぜんまいって言うんだ。春に採って来て、ゆでて、もみながら天日干しして保存しとくの。手がかかってるんだぜ」


「へえ」


 あたしに対する蘇芳の態度はさっきと一緒だ。やはり蘇芳は宗主のことが嫌いか、苦手なのだろう。


「仲良くなったようだね」


 宗主はあたしたちの様子を見て静かにそう言う。相変わらず、表情からも声音からも、あまり感情が読み取れない。


「そりゃあ歳も近いですし。な、涼音」


「そう……かも」


 宗主より蘇芳のほうがとっつきやすいのは事実だけど、歳が近いからなのかは疑問だ。そもそもの性格の問題のような気がする。言わないけど。


「友人、というにはまだ早いようだ」


「まだ、少ししか話してないから」


 宗主と目を合わせる気にならなくて、ご飯茶碗を見つめながら返す。


 蘇芳が、友人といえば、と硬い声を出した。


「宗主様には涼音を高校に通わせる気はおありなんですか」


「…………」


 宗主は口に運びかけていた箸を下ろして黙る。少しして、首を横に振った。


「この里の高校は特別カリキュラムだ。彼女には合わないから通わせる気はないよ」


 蘇芳は体の向きを宗主に向ける。


「……そんなこと言って、涼音を孤立させたいんじゃないですか」


「……じゃあ、君は高校に行きたいのかな」


 蘇芳の鋭い視線を完全に受け流して、宗主はあたしに顔を向ける。


 思わず顔を上げたあたしの目に映る彼の瞳は、眼鏡に色味を吸い取られてしまっているかのように淡白だ。


 あたしは不気味さを押し隠してその目を見つめ返した。


「特別カリキュラムっていうのは?」


「一族の能力を活かすための教育が行われているんだよ。君はまだ能力が開花していないだろう?」


「…………」


 まだ、ということは、そのうち能力が現れる可能性があるということなんだろうか。


 そんなのはごめんこうむりたくて、目を伏せた。


「そういうことなら……あたしは、高校に行かなくてもいい」


「涼音」


 蘇芳が心配そうな声をあげたけれど、あたしは首を横に振った。


「友達も……必要以上にほしいとは思わないし」


「…………」


 蘇芳はそれきり黙ってしまって、黙々と自分の膳に向かう。あたしも宗主も、それについてなにも言わなかった。

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