12 縹悟
大広間には座布団がふたつと4つ向かい合わせに並んでいて、あたしはふたつあるうちの左側に座るらしかった。
蘇芳はあたしから見て右端、鳶雄は左端に座って、間に晃麒と練がいる。待ち時間も正座なんて、足がしびれないんだろうか。
そして、本当に宗主は5分前に大広間にやってきた。あたしたちが全員いるのを見てふちなし眼鏡の奥の目を細める。
「そろっているね」
4人は無言で
宗主はそんなことには気付かないように悠々と歩いてきて、あたしの右隣にある座布団に座った。
「今日集まってもらった君たちには、彼女がこの里に馴染めるよう、疑問の解決や話し相手としての役目を期待している」
「はい」
4人の声が無機質にそろう。不気味な空間だ。
「赤道家の者から順に自己紹介を」
「はい」
ここでやっと蘇芳の声に少し不満げな色が混ざった。名前と年齢を、さっきも聞いたけどもう一度繰り返す。
全員分聞いて、宗主はあたしに意外にも穏やかな視線を向けてきた。
「君も、自己紹介を」
「……涼音、です。歳は18になったばかり。よろしくお願いします」
4人があたしに向かって頭を垂れる。もうなんだか異質すぎて怖気づいてしまいそうだ。
「どのように彼女と関わっていくかは君たちに一任する。未来のこの里を作る者どうし、親睦を深めてくれ」
「承りました」
練が代表して答えて、4人は深々と宗主に対して頭を下げる。
頭を下げるって礼を尽くしているように見えて、顔が見えない。それがなんだか怖いな、と思う。
「では、今日はひとまず顔合わせだけということで、解散でいいよ」
宗主が言うと、少しだけ場の空気が緩んだ。それぞれ、失礼します、と挨拶をして大広間から出ていった。
あたしは気圧されて動けずにいた。これが宗主の権力?
「彼らとは仲良くできそうかな」
宗主は相変わらずのんきなことばかりあたしに訊いてくる。あたしは目をそらして小さく頷いた。
「会って話した感じ、悪い人だとは思わなかった」
「……そう、か」
少しの間が気になって、あたしは思わず宗主の顔を見る。ふちなし眼鏡の奥の瞳は底が深い。
「この制度は私の意志とは反するものでね。各家の当主からの要請に応じただけだ。彼らにもなにか思惑があるのだろう」
「…………」
「彼らを無条件に信じると、痛い目を見るかもしれないね」
「……あたしをどうしたいの」
宗主は小さく口角を上げた。
「私はただ、君にその身を捧げてほしいと、そう思っているだけさ」
すうっと背筋が冷える。あたしはそれを押し隠して、宗主を見つめ返した。
「あたしは、積極的に一族のなんとかに口を出す気はないから」
「うん、それでいいよ。今はまだ……ね」
さて、我々も戻ろうか、と宗主は立ち上がる。差し伸べられた手をはねのけて、しびれかけた足でどうにか立ち上がった。
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