20 黄の昼

 晃麒と話していたら、昼食の時間になったとつるばみが知らせにきた。


「今日は宗主様もお昼におみえになりますよ」


「そう……」


 宗主はなにをしているのか知らないけど、意外と外出が多い。だからここ数日は晃麒とふたりで昼食を摂っていたんだけど、今日は宗主もいるという。


 あたしはちらりと晃麒の顔を盗み見る。特に気分を害した様子はない。蘇芳とは違って、宗主に思うところはないのかもしれない。


「今日はどんな献立かなー」


 ……それどころか、のんきにこんなことを言っている。やけに空気が険悪になることはなさそうだ。


 いつも食事が並ぶ部屋に移動する。あたしが真ん中、晃麒が下座に座って待っていると、宗主が入ってきた。


「昼食は久しぶりだね」


「……別に、朝と夜は一緒だし」


「それもそうか」


 宗主にかけられた言葉には、反射的にぶっきらぼうに返してしまう。でも彼は特に気にせず上座に座る。


 晃麒がひらひらと宗主に手を振った。


「宗主サマ、こんにちはー」


「今週は晃麒か」


「涼音おねーさんとは仲良くやってます」


「そうかなあ……」


「えー、そこは同調してほしかったよ、おねーさん」


 思わず口を挟んだら、晃麒が唇をとがらせる。宗主は小さく口角を上げた。


 そうこうしているうちに、昼食の膳が運ばれてくる。わあい、と晃麒が声を上げた。


「石焼き焼肉丼だ! おこげって苦いけど悪くないよねー」


「そうだね」


 おこげはあたしも嫌いじゃない。こういう、普通料亭とかで出てきそうな料理がほいほい出てくるのにも、いいかげん驚かなくなってきた。


 三人で手を合わせて挨拶をして、おのおの箸やれんげを手に取る。


 大きな口で焼肉丼を頬張った晃麒が、にこにこしながらそれを噛んでごくりと飲み込む。


「んー、相変わらずここで出る料理は最高の音がするよね」


「音?」


「あ。……クイズの正解は聴覚でしたー」


 しまったというような顔をした晃麒が苦笑して言う。あたしはさっきの能力の話がすぐに思い浮かんだ。


「ああ、そうだったんだ」


「クイズ?」


 宗主が尋ねると、晃麒は人懐こい笑顔を浮かべる。


「僕の能力がどんなのかーって話をしてたんです」


「そういうことか。理解を深めるのはいいことだね」


「でしょー」


 宗主は一口、お茶を口に含んだ。


「君は、相変わらず抜け目がないね」


「あっは、それほどでも?」


 ……なんとなく、場の空気が変わった、ような気がする。宗主の表情が読めないのと同じくらい、晃麒の笑顔も深い。


「蘇芳は彼女のことを心配していたようだけど、君は彼女のことをどう思う?」


「蘇芳にいはどうか知らないけど。僕は歳が近い美人のおねーさんとお近づきになれて嬉しいですよ。既婚者だけど、あっは!」


「……既婚者って、他の言い回しなかったの」


 ぴりっとした空気に耐えかねて口を挟むと、晃麒はくすくす笑った。


「だってそうでしょ? そんなにかりかりしないでよ、涼音おねーさん」


「かりかりは、してないけど」


「……晃麒がそう思っているというのは、信じておくことにしようか」


 宗主が言った言葉がなんだか意味深で、あたしはどうとらえていいのかわからないまま、昼食の残りの時間を過ごした。

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