第21話「冒険者ギルド②、先駆者たちへの報復」

 ただ、戦闘はあっという間に肩が付いた。


 というのも、俺とユミは何にもしていない。瞬く間に終わったのだ。


 システナさんが鉄剣の取手を掴む。


 その瞬間にゲスチルが動いた。


 降りかかってきたゲスチルの大剣を緩やかに交わし、横から斧を振り回してきたブタ顔のベイブーの攻撃を捻り交わし、背後から俺たちを攻撃しようと忍び込んできた四本腕の魔石をはめ込んだ男、グルーギの爆裂パンチを受け流して――挙句の果てには鞘に入れたままの鉄剣を奴らのみぞおちに一発。



 まさにシェフの早業。

 これにはお客さんもちんまりだ。


 

 みぞおちに突きを入れられた三人は見るも無残、可哀想な表情で許しを請い、挙句の果てにはシステナさんに持ち金全部渡して蜘蛛の子散らすように逃げていった。


「あんたすげぇな‼‼」


「お姉さん、化け物かよぉ!!」


「あのゲスチル一味をやってくれるとは!!」


「あいつらほんとにウザいからねっ‼ ありがとぉ!!」



 そんな戦いの一部始終を見ていたギャラリーは俺たちを囲むように集まってきて、歓声が飛び交い、一躍有名人に!!


 とは言ったが、事情が故に目立ちすぎるわけにもいかないため。俺たちは捲き上げた金の半分をその場でばら撒き、気を逸らしたところを逃げ出すことにした。




「いやぁ……凄かったねぇ」


 逃げ出してきてすぐ、システナさんは額の汗を拭きとりながらそう言った。


 何が凄かったのか。あまり目立ってしまったらだめだよと言っていた本人が一瞬のうちに有名人になってしまった。


 まぁ、名前を出さなかっただけ良かったかもしれない。


 ただシステナさんもミリアさん同様、変なところでぼろが出るから心配だ。


「確かにすごかったですけど、さすがに俺たちまで巻き込まないでくださいよっ」


「っはは、すまんすまん」


「ユミを見てくださいよ、びっくりして喘息みたいになってますって」


「……ん、あれま。すまんな。今、回復魔法掛けてあげるからな」


『癒しの神、癒しの精霊、我らに生命の権化を与えたまえ。理を捻じ曲げ、光を照らし、全ての命に意味を与えたまえ。回復ヒールっ』


 システナさんがその場で詠唱し、ユミの体の周りを埋め尽くしていく緑色の光。ファーっと黒い髪が舞い上がり、一瞬にしてユミの表情が明るくなっていった。


 というか、久々に詠唱を見たな。


「ほ、ほんとにですっ……カイトに引っ張られなかったら置いて行かれましたよ、もう」


 むぅっと頬を膨らませて起こる彼女は今日も今日とて可愛かったが、システナさんにはもっと考えてもらいたい。忘れがちだがユミは足が悪いんだからな。


「ごめんごめんっ」


「テヘペロじゃないですよ」


「あれ、最近のブームじゃないの?」


「それは昔のっ……いや、何でもないです」


「ん?」


 ふざけているのか、そう思ったがこの世界のブームは昔の日本に続いている部分もあるのだろうか。まぁ、どうでもいいだろう。


「とにかく、行くんじゃないんですか? ギルド?」


「ん、あぁ、そうだなっ。行くとするか」


「——っちょ、ちょっと待ってくださいっ!!」


 またしても、ユミを置いていきそうになったシステナさんの背中を追っていく俺たち二人。


「ほら、手」


「——う、うんっ」


 さりげなくユミの手を掴んで、我らが教官の背中を追うことになった。



 とはいえ。


 システナさんが一蹴していくれたのは俺の武器がバレないためって言うのもあるかもしれないし、そこまで攻めたくはないな。


 俺も馬鹿じゃないから別にどうってことでもないけど、システナさんなりの優しさと受け止めておこう。



「ね、ねぇ……」


「何?」


「私たちっているのかな」


「え?」


「いや、さっきの。すっごく強かったし」


 言われてみれば確かにそうだった。システナさんの剣技と身のこなしは冒険者が付いてこられるものではなく、一瞬だった。


 考えてみれば、俺たちなんていらないだろうに。ユミが思うのも一理ある。


 ただ、メリットがないわけではない。命の危険を入れなければ実践と言うの名の経験が手に入るのだ。


「まぁ、俺たちはついて行くしかないんじゃないか」


「……そ、そうね」


 若干腑に落ちていなかったが俺はユミの手を引っ張った。







 路地を出て、西側にある冒険者ギルドを目指す俺たち。


 冒険者ギルドと言うのは万国共通でどこの国に行ったとしても機能やクエストの募集方法など、全てが同じらしい。


 実際のところ、場所によって緩い規則や報酬の金額が違ったりもするらしいのだが


 エランゲルの中央都市を歩いていると気が付いたことがあった。


 確か、最初にこの街に入った時に思ったんだがなぜかこの街は亜人が多い。


 正直、綺麗なお姉さんばかりで別に気にしていなかった。ただ、よくよく考えてみれば明らかにおかしい。盲点、灯台下暗しとはこのことだった。


 まえをあるくシステナさんに訊ねてみることにした。


「教官、そう言えばなんですけど」


「ん?」


「なんでこの国、いやこの街には亜人が多いんですか?」


「亜人? あぁ、多種族の事か。そうだな、あんまり意味があるとかそう言うわけではないと思うけど——強いて言えば差別的なものもあるかもしれない」


「差別?」


「あぁ、人間族と他種族の間にはけっこう亀裂があってだな。今は少なくなってきてるけど、昔からの根強くこびり付くのもあるんだ」


「はぁ。でも、どうしてこの街が多くなるんですか?」


「一応、歴史的には私たちの国の初代帝王が東側に来たのが発端だったんだよ。人間族の先祖は皆西側の大陸で栄えていたんだけど、第一次世界大戦によって多種族間での戦いが始まってから西も東も入り混じってしまったんだ。そこで、初代帝王が東のエルフやドワーフと同盟を結んで国を築き、東の大陸で領土を増やしていったんだ。その過程で、追いやられていった他の亜人や難民がエランゲルを作り、今の戦争状態を作ったと言われているんだ」


「そ、そうなんですか……」


 初代帝王と言えば、めちゃくちゃいい大学を出ているエリートで、それでいて「神の御業」魔法まで使える魔法士だった。話ではものすごく脚色されていた気がしていたが、こういう裏があったとは思わなかった。


 どこの世界でも戦争は絶えないんだな。そう思うと悲しくなってくる。


「まぁ、だからと言って——あんなことしちゃいけないけどね」


「戦争は怖いですね」


「あぁ、私もどうすることもできないし、こういう世界だから仕方ないかな」


「……そう言えば、今の西側の大陸には人間族っているんですか?」


「ん? あぁ、私も行ったことがないからよく分からないが……噂では他の種族が多数を占めているらしいぞ? 種族間の戦争と、人間同士の争いもあって人間自体の数が減っているわけだし、実際のところ人間の難民が築いたのがクロスベリア大帝国だからな」


「そ、それは……入り組んでますね」


「あぁ、ほんとだな」


 少し勉強になったが、この世界の歴史ももっと学んでいかないとなと思った。




「————よし、そんなこんなで冒険者ギルド、見えてきたぞ!」







☆ステータス☆


名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:13歳

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル3

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り、性欲

魔法属性:無し

魔法レベル:1→闇魔法(煙幕、収納)



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:12歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル2

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り、探知

魔法属性:光、火(中級すべて)

魔法レベル:3


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