第17話「アサルトライフルは強し」


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼‼‼‼‼」


 真ん中にいるリーダーのような一匹の黒い狼が吠え、緊張感を与える。テントを囲むようにしながらゆっくりと歩んでくる奴らへ俺たちを睨みを返していたが……状況は悲惨だった。


「これはやばいな……」


「うんっ」


「こいつでもしっかりと歯が立つか……やってみなきゃわからんけど、こえぇ」


「それに、あの冒険者の人たちっ」


「あぁ、この森を通ることが許されているB以上の冒険者だろうがやられてるのを考えてみると……相手は中級以上だな」


「こいつら、黒狼よ」


「……黒狼?」


「このモンスターの名前よ。誠剣の伝説見たなら分かるでしょっ」


「え……」


 考えてみれば確かにそうだった。


 俺が昔に読んだ『誠剣の伝説』の本に出てくるモンスターだ。あんまり出番がなくて覚えていなったがそれにしても実在するとは思ってもいなかった。


 それに、こいつが出てくるときには主人公は強くなってて一太刀で薙ぎ払ったと書いていたし覚えていないのは仕方ないが……こうして間近に見ると素人が何とかできるような相手には見えないな。


 なによりもこいつらの特性は単体で動くことにはない。群れを為して、頭を使い襲ってくるからだ。


 こんな砂漠のど真ん中では遮蔽物もないので正面衝突になる。俺たちも思考をしていきたいが、砂の他に何もないので底をついて狙ってきたのだろう。


 ほんと、不運だ。さすが俺たち、孤児というものはいつまでも不運らしい。


 まさかこんなところでこいつらに会うとは思っていなかったのか。皆驚いているようだった。


 そんな風に肩を並べながら状況を見回す俺たちから血の付いた鉄剣を片手に向こう側から走ってくるシステナさん。彼女の固有スキル「神速」によって突き飛ばされた黒狼は唸り声をあげて吹っ飛んでいく。


「——二人とも、無事か!」


「はいっ」

「えぇっ」


「うん、それならオーケーだ! とにかく状況を見たら分かる通りだが冒険者が全くと言っていいほど役に立っていない! 二人とも手を貸してほしいっ。それに、私だけでは人手が足りなくて死者が増えるっ。いいか、私は反対側を殲滅せんめつする、二人はこっち側をっ——冒険者の方を守ってくれ!」


「うん!」

「はいっ!」


 そう言ってすぐに持ち場に戻る彼女に俺たちは拒否する理由などなかった。


 ――頷き、戦闘態勢に入る。


 いつも通り、システナさんと戦う時のように腰を低く保ち瞬間的に動けように準備する。ユミの方は身体支援魔法の「光翼」や「俊足」を掛けて木の杖を構えた。


「よしっ」


「うんっ」


「一掃するぞ!!!」


 俺が声をあげ、ユミは空高く上がり目の前に広がっている黒狼の群れに向かい、魔法を放つ。


光矢ライトアロー!!!!』


 初手は初級魔法。無詠唱で次々と繰り出し、光輝く短い矢がヒュンっと風を切り裂いて奴らの脳天をぶち抜いていく。


 ギャアアアアアアアアアア‼‼


 と獣らしい咆哮をあげて痛がる奴らに、俺はとどめを決め込む。


「そんなもんかぁ!!」


 引き金を引き、30連発。


 その瞬間、AK-47が火を吹いた。


 マズルフラッシュが銃口そばから上がり、凄まじい銃撃音が辺りに響く。リコイルに肩をやられそうになりながら俺は踏ん張って最後まで撃ち続ける。


 なくなったら、次弾装填。マガジンを変えて、ガチャリ。

 ボルトハンドルを引いて、再び引き金を引く。


 初めての武器を見て逃げ出そうとする黒狼たちの脳天、胴体、そして手足。凄まじい速さで吹っ飛んでいく鉛弾が奴らの息の根を止めるべく蹂躙していく。


「だああああああああああああああああああ‼‼‼‼」


「たあああああああああああああああああ‼‼‼」


 ユミが上から怪我を狙い、俺は下からとどめを刺す。


 弾を入れて、無くなったら交換してボルトハンドルを引いて撃つ。


 あとはその繰り返し。


「ユミ!!」


「えぇ!!」


 弾が無くなる度、逐一伝えて次弾装填。


 だんだんと流れが掴めるようになってきて、横から襲い掛かる奴らにもシステナさんに学んだ回避技術で身体をくねらせて退き、喉元に腰から取り出したボトルナイフを突き刺す。


「っとぉ……案外頭いいな、こいつらっ」


「カイト、後ろ!!」


「っ——」


 すぐさま構えたAK47の引き金を引き、飛び込んでくる黒狼に10発程度撃ち込み、鳴く間のなく地面に横たわっていく。


「しっかりしてよね!!」


「ありがとよ‼」


「ほら、次来るわよ!!」


 俺たちの方も徐々に連携が取れていき、この攻撃に慣れてくる奴らもあの手この手を使って俺たちを追い詰めんばかりに近づいてくる。


 しかし、こちらにはほぼ無限の弾丸。そしてユミが治癒魔法で何度か回復させてくれるおかげで肩への負担も何とかしてくれる。


 ――決着は時間の問題だった。


 キヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!


 ――と最後の一匹がへし折れた脚を踏ん張りながら飛び込んでくる。


「おらぁ‼‼‼」


 はめ込んだマガジン、その中の弾をすべて撃ち抜き、飛び込んできた黒狼は息の根を止めた。


「っふぅ……」


「やったわねっ」


「……その、ようだな」


 そうして、僅か数分。

 死体の山を前に俺たちは中級モンスターの初討伐を終えたのだった。





 俺たちが奴らを倒して、そのすぐ後。システナさんが折れた鉄剣を持ちながら俺たちの方に走っていき、目の前に広がる光景に度肝を抜いていた。


「……教官?」


「大丈夫ですか?」


 血だらけの顔で口をポカンと開けたままこちらを見つめるシステナさん。やりましたよ! と笑顔で言いたいところだったが、何も発さないので肩をトントンと叩いた。


「っ——あぁ、ごめん! す、すごいな!」


「え」


「いや、ちょっと驚いた……全員倒したところだったから、すぐさま加勢をときたんだが……見るも無残に一掃してくれたようだな」


 どうやら彼女は驚いていたらしい。


「ま、まぁ……所々危なかったですけどね」


 ユミがたははと笑みを浮かべているが、彼女の頭を撫でるように触って——


「いやぁ、全然凄い。五体満足だし、ここまで頼りになるとは……私も嬉しいよ」


「えへへ……」


 いつもは見せない嬉しそうな顔を見せるユミ。


「頑張ったな」


「はいっ」


 それを見つめる俺にもシステナさんが頭を撫でてきて、嬉しく感じる。いやはや、初陣とは名ばかりだったがここまでできるとは……自分でも思っていなかったし、この成果は少しばかり称えるべきだろう。


 もしかして、俺って最強か!


「ただ、まだまだ不安なところも残るからなっ」


「え」

「っ」


 俺とユミが満足そうな表情をした瞬間。

 システナさんは折れた方の剣の先をビュンと投げて、生き残っていたのか唸り続けていた黒狼の額に突き刺さった。


「うぉ……」


「び、びっくりしたぁ……」


「二人とも、油断は禁物だぞ?」


「っ……そ、そうですね」


 昼言った言葉がそっくりそのまま帰ってきて、俺たちは無事「二度目のフラグ」を回収した。


「よし、それじゃあ遺体を埋めて、着替えて寝るとしようか」


「「はいっ」」


 





 そして、何よりその日の夜。

 

「カイト……くっついてもいい?」


「え、あぁ」


「ちょっと、寝つきが悪くて」


「いいよ……」


「ありがと……」


 いつも、絶対にくっついて寝ることはなかったユミがまるで猫のように。猫がご主人様に、たまに見せるような甘え顔に少しキュンときて、翌日は睡眠不足になる俺をいることを討伐すぐ後の俺には知る由もなかったのだった。







☆ステータス☆


名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:13歳

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル3

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り、

魔法属性:無し

魔法レベル:1→闇魔法(煙幕、収納)



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:12歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル2

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り、探知

魔法属性:光、火(中級すべて)

魔法レベル:3




 PS:翌朝、馬車運搬の商人から多額の賠償金とお礼金を頂きましたっ‼‼ これで、遊びに行くぞぉおおおおお!! と言ったら、ユミにすべて奪われました。




 

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