第36話「異世界の九四式拳銃!?」
「じゅう……というものらしいんだ」
ヴォルフさんが静かに開けた箱から出てきたのは日本人なら知っているあの有名な銃だった。
名前は「
大日本帝国陸軍が開発し、採用した主に将校准士官が装備していた装弾数6+1発の自動拳銃、所謂ハンドガンの一種だ。
形、大きさ、機構、見た目からのあくまでも目視での確認だがおそらく、いや確実に九四式拳銃で間違いないだろう。
日本軍が作るどくどくなあの形は絶対にそうだ。
そんな確信が感動を呼び寄せる。
「触るか?」
「は、はいっ!」
俺は迷わず頷いた。
その銃を持ち上げる。触ってみると少し錆が始まっていて、マガジンも取り出せないほどに壊れていたが見た目はやはり間違いない。
横から、前から、そして後ろから。
昔の日本人の手にあった小さな銃は今の俺に手にはぴったりで、それがどうしてか感動してしまい、思わず舐めまわす様に眺めてしまっていた。
数分ほど言葉を忘れていて眺めていると、ユミが俺の肩をトントンと指で叩く。それにハッとして、その箱に戻すと正面にいたヴォルフさんが少し嬉しそうに呟いた。
「知っているのか、それを?」
知っている。もちろん知っているとも。
ただ、ここで一つの疑問が頭に浮かんだ。
よく考えてみれば、ここは異世界。そんな銃があるわけではない。無論、俺も作ったりはしていないし、作った銃は収納魔法でとられないように保管している。
では、なぜこれがある? さっき、ヴォルフさんはこれを父親から、人間の父親から預かったと言っていた。
しかし、それは人族で、あくまでもこの世界の人間のはずだ。1940年あたりの日本軍将校がこの世界にいるはずもないのだ。異世界人でもあるまいし、そんなわけないのだ。
異世界人……そうでなければ。
いや、待てよ。よくよく考えてみれば俺って異世界人か? いや、この世界の人間ではある。確かに、前世の記憶を持ち合わせているが……でも、考えてみればここは地球ではない。
異世界転生をしている人間がいるならば、異世界に転移している人もいるはずだ。それも、全員が全員現代人から異世界転移しているわけでもない。それがかつての大日本帝国陸軍の将校の可能性もあるわけだ。
見つめてくるヴォルフさんに俺は訊ねる。
「彼はどこの国の出身でしたか?」
「どこの国? あぁ、それなら確か……日本と言っていたな」
「にほん?」
やっぱり、そうだった。これで確定だ。どういう経緯かは知らないがきっとあの優柔不断な神様が異世界から連れてきたのだろう。そう思えばおかしいことはない。
「西大陸にはそんな国はなかったが……親父は東にあると言っていたな。きっと、東大陸のどこかじゃないか?」
「え、でも東大陸にはそんな国ありませんよ?」
「ないのかっ?」
「私が知ってる限りでは……孤児院の図書室にあった本にはそんな国の起債はありませんでしたし」
「あぁ、俺も見たことはない」
まぁ、だからと言ってここで白状するのは少し違う。だいたい、異世界転移や異世界転生なんて言葉は当時の日本にはなかった。だからこそ、その親父さんは戦争中に違う島に来てしまったと思って小さかったヴォルフさんを育てたのだと思う。
それにだ。もしかしたらこの世界で異世界転生と言うのは禁忌とかの可能性だってある。ここは少し濁したほうがいいかもしれない。
「いや……それでも、もしかしたら東大陸の近くに見つかっていない島があるかもしれない」
「あぁ、そう言えば島国とは言っていたぞ? まぁ、人族なのに獣人語を使えるのは少し面白かったが」
「獣人語を話せたんですか?」
「あぁ、なぜかな」
そうなると話も変わるが……正直、今の話では断定できないな。とりあえず、そこはまた今度にするとしよう。
とにかくだ。ここはこの銃の正体が何かを彼に教えなければ。
「えと、あれですねこれの正体ですよね?」
「ん、あぁ、そうだったな。悪い、話が飛んでしまった」
「いえいえ、俺が変なことまで聞いてすみません。その、それはですね。銃と呼ばれるもので間違いありません」
「知ってるのか?」
「はい。これは銃というものです。なかから弾が高速で飛び出して、敵を撃つことができる遠距離武器の一種です」
「遠距離武器……てことは弓矢みたいな?」
「近いですね。弓矢の進化系みたいな感じです」
「弓矢の進化系……」
この感じならどうやら使ったことはない感じだな。おそらく、親父さんも子供に使い方は教えなかったらしい、とてもいい人そうだ。
「えと、見せた方が早いですね」
そう呟いて、俺は収納魔法を展開し、中からベレッタを取り出した。
「それは、なんだ?」
「仲間みたいなものです。色々な形があるので」
「そうか……でも、それでどうするんだ?」
「あーーと、さすがに中だとヤバそうですね。今って外で音立ててもいい感じですか?」
「まぁ、大丈夫だが……」
「じゃあ、その、外に来てください」
そうして俺たちは外に出た。ちなみにユミは「いかない」と言って小屋の中で待っている。彼女的にはどうしても音に慣れないらしい。そこに関しては何とも言えないがいつかサプレッサーも作れるようになりたいところだ。
適当に良さそうな木を見つけて、ヴォルフさんには少し後ろに下がってもらい俺は銃を構える。
「よし、ではいきます」
パンパン、パン!
三発をセミオートで単連射。
夜中の草原に乾いた音が響き渡る。
「いっ……い、今のは?」
「銃を発射した音です。えと、一応この木を目がけて撃ったのですが……」
数メートルほど歩いて木に近づくと幹の部分にはめり込んだ9ミリ弾が三つ。それを見るとヴォルフさんは目を見開いて、言葉を失っていた。
「こ、これが銃……」
「はいっ」
「じゃ、じゃああれでも撃てるのか?」
「いえ、さすがに汚くなっているのであれですけど……」
「そ、そうか……まぁ、ここまで錆びてしまえば撃てるわけないか……」
少し悲しそうな顔を見せたが、俺はふと気が付いた。というより、最初からそうすればよかったのかもしれないがあまりにも普通すぎて思い浮かばなかったのだ。
俺のスキルで作ってしまえばいいのである。
「その良ければ俺の創造スキルで作りますけど……」
「創造スキル……?」
「獣人族にはスキルはないんですか?」
「聞いた事はないな……いや、でも作れるのか?」
「はい、もちろんですっ!」
「じゃあ、頼むよっ」
「分かりましたっ!」
そうして、俺は数日ほど費やして九四式拳銃を作り上げたのだった。
☆カイトの作った武器
・九四式拳銃
種類:
設計、製造:南部銃製造所
弾:十四年式拳銃実包
装弾数:6発+1発
全長:187mm
重量:720g
説明:1934年に九四式拳銃として採用され、翌年から生産が開始された。主に将校准士官の装備だったが機工兵や空挺部隊の挺進兵などにも生産された。ショートリコイル方式であり、日本独自の技術を集結させた銃になっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます