第37話「エルーダ村へ」


 ヴォルフさんのために九四式拳銃を作ってから数日。丸一かかった製作作業も功を為し、彼もかなり喜んでくれた。


 そしてさらに、お礼に路頭に迷った俺たちをエルーダ村に連れてくれるらしい。なんならずっと住み込んでいいと言っていた。


 まぁ、さすがにずっと入られないが数か月ほどは装備を整えたいし、この土地の事も俺たちにとっては知らない事ばかり。情報を集めておくべきだ。


 そう言えばだが、あの日、助けてくれた日に俺たちの身体を支えるようにしていた白い犬の名前は「アイドリヒ」というらしい。見た目が犬っぽいから俺は犬だと思っていたが、品種は犬ではないようだ。


 確かに、言われてみれば体も犬の数倍は大きいし、俺やユミよりは背が高い。四足地面につけて俺らよりもでかいから、立ったらヴォルフさんよりもでかい。


 どうやら、元々は黒狼ブラックウルフの子供だったらしく俺らのように親がいない子犬で、それをヴォルフさんが育てたらしい。


 拾ったのはもう数十年ほど前と言っていた。この世界では人間がモンスターに干渉すると色々と良くないらしいがヴォルフさんに懐いたこともあって、色々と言い方へ育ってくれたようだ。


「ワンっ!」


 普段はヤンチャで人懐っこくて、俺やユミを背中に乗せて散歩に連れて行ってくれたこともあるほど。


 とても可愛いが戦うと頼りになって、周囲のモンスターは一切寄り付かないとも言っていた。


 ヴォルフさんも強そうだし、俺たちが知っているほど世界は狭くないらしい。俺の銃もいつまで通用するか未知数なのであまり付け上がらないようにしようと胸に刻んだ。




 ――というわけであれから1週間が経ち、俺たちは今ヴォルフさんの小さな小屋を出発しようとしているのである。


「ユミもカイトも二人とも、準備は大丈夫か?」


「はいっ」「うんっ」


「よし、それじゃあ行くとするか」


 そうして、俺たちの旅路第二章が始まった。










 西大陸の中央。


 このエルーダの里は西大陸の中央に位置している。そのため、気候も一年を通して温暖で、前世で言うところの日本、なかでも関東地方に近い。


 もちろん、南に行けば熱くなるし、地球で言う赤道付近に行けば熱くなるようだがこの世界には天動説だとか、地動説だとか騒がれないほどに平面の地図しかないので気候に関しても神様の感情で決められる――という考え方が主流らしい。少なくともヴォルフさんはそう言っていた。


 ヴォルフさんほどに生きている生き者でも神様を信じるのだなと個人的に感心してしまったが、俺に散々なこと吹っ掛けてくるあいつもその類と言うことを考えるとこの世界には案外、蔓延っているように思えるし、普通なのだろう。


 とにかく、エルーダの里は大陸の中央に位置している。そこで今から向かおうとしているのはエルーダ村。この近隣を統治している獣人族が多く住んでいる場所だ。


 統治していると言っても、西大陸には国と言う国があるわけではないのでそこら辺は曖昧とのこと。村や集落、大きくてもドワーフが作る工業都市程度で一般的ではないようだ。


 そのためか、道も整備されていないので馬車で言ってもかなり時間がかかり、だいたい1週間ほど。


 俺たちは歩きで行くことになっているのでおそらく1カ月はかかるとのことだ。


 まぁ、冒険は道のりが主役なので個人的にはウェルカムだ。銃による戦い方ももっと練習したいしな。




 山中を歩く三人と一匹。


 ユミはそんな俺たちの後ろをアイドリヒと一緒についてくる。こう見るとパーティみたいだな。


「——そう言えばカイト」


 小屋を出てからかれこれ小一時間。草原を抜けて、森林地帯に入るとヴォルフが今更ながらと顔を顰めた。


「な、なんですか?」


「別に大したことじゃないんだが、聞きたいことがあってな」


「はい?」


「その、カイトが着ている服はどういうやつなんだ? その、人族の服装がよく分からなくてな……」


「これ、ですか?」


 俺は戦闘服の上にあるコートを指さすがヴォルフは首を横に振った。どうやらこっちじゃないらしい。


「こっち、ですか?」


 今度はその下に纏っている戦闘服を指さすと首を縦に振った。すると、続けて。


「あぁ、そっちの緑の服だ」


「見たことありませんか?」


「見たことはないな、俺は。人族とは全くあっていなかったし、今はそう言うのが流行りなのか?」


「あぁ……違いますね」


「ユリの服は普通だしな、コートに木の杖でそれっぽいし」


 そう言うとゆりも便乗して。


「私もカイトの服は分かりません……」


「だよな……」


 まぁ、俺は異世界人でもないし、こんな服珍しく感じてしょうがないだろう。少しアウェーなのが悲しいけど。


「一応、こういう森では目視で周りを確認するときに役に立つんですよ?」


「そうなのか?」


「はいっ。ほら、色が森と同化しているじゃないですか? そこで敵から目を欺くって言うので!」


 自信気に言ったが二人の目が冷たい。

 何かおかしなことでも言ったのだろうか。後ろのアイドリヒの目が可愛いのは相変わらずだ。


「カイト」


「な、なんですか?」


「私が魔法士なのは知ってる……?」


「もちろん知ってるけど」


「光魔法には光感知の魔法があるし、火魔法には熱感知まほうがある。それに、土魔法も振動感知、闇魔法にも影感知、水魔法にも水分感知がある。だから、人族で才能がない人間以外は皆魔法による感知魔法で見えてるの」


「え?」


 正直、寝み耳に水だった。

 というか初耳だ! そんな魔法知らないぞ!


「ほ、本当なんですか⁉」


「あぁ、本当だ。その程度の魔法なら獣人族の魔法士も使えるぞ」


 ヴォルフに視線をずらしたが彼も当然かのように頷いていた。どうやら、俺が間違っているようだ。


「ま、まじですか……」


「あぁ、それに獣人族なら第六感がある。自分のテリトリーに入ったら違和感で教えてくれるから、そんな小手先の潜伏じゃ一瞬で見破られるぞ」


「っんな……」


 加えて追撃。どうやら、異世界も甘くはないようだった。

 さすがにここまで便利なものがあれば科学入らないまである。それが少し理解できた。


「ま、まぁ……一応、好きなので……いいじゃないですかっ!!!」


 結局、俺は二人にいい負かされて涙目になるだけだった。








☆カイトの装備

 ・戦闘服(対魔法耐性)

 ・ぼろいコート(ヴォルフさんに貸してもらったやつ)

 ・ベレッタM9A1(光学ライト付き、腰に携えている)

 ・M3グリース(AKやHK416は肩がおかしくなるので今日はサブマシンガン)

 ・バトルナイフ(脛横)

 ・ブーツ(革製)

 


☆ユミの装備

 ・魔法士のコート(対魔法耐性)

 ・真っ白なパンツ(寝ている時にスカート捲ったら見えた。めっちゃエロかった。可愛くて食べちゃいたい)

 ・木製の杖(魔力が込められた魔石が付いている杖。ミリアさんからもらったもので、収納魔法に隠してあった)

 ・バトルナイフ(カイトが作った木製のナイフ)

 ・ブーツ(黒革)


☆ヴォルフの装備

 ・一族の槍(正体不明だが金属のような?)

 ・薄汚れたズボン(臭くはないが少し汚い)

 ・一族のバンダナ(親父にもらった日の丸のバンダナ)

 ・ブーツ(革)

 ・ナイスバディな肉体(シックスパック、胸板爆弾、肩に小さな銃器が入ってる!)

 




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