第29話「帝王直属近衛騎士隊」
時刻は11時24分。
作戦結構まで残り6時間弱。まだまだ時間はある。始まるまでの準備時間にしてもかなり早いくらいだ。
そんな時間に戻ってきた俺の目の前には信じがたい光景が広がっていた。
俺は目を疑った。
疑って、疑って、疑った。
訳が分からなかった。なんで、システナさんがユミを縛っている。考えても分からない。徐々に息が荒くなっていき、落ち着かなくなっていく鼓動。足が震え、手が硬直する。
何をすればいい。
何を言えばいい。
これ以上、何をしたらいいのだろう。
だめだ、訳が分からない。
いっそのこと、逃げ出すか? 相手はシステナさん。本気でかかれば勝てるかもしれないが彼女の固有スキルはかなり厄介で、銃弾でも追いつかないほどだ。
「……っ」
って、何を言ってるんだ俺は!
俺はユミを幸せにするんじゃなかったのかっ。いくらシステナさんでも勝機はあるなら挑むべきだ!
ここでユミを失ってしまえば、また……あの時みたいに。親友を失うことになる。
絶対にユミを助けて、システナさんを倒す。倒す、いや殺す。
そのくらいの勢いで出ていなくてはだめだ。逆に俺が食われてしまう。相手は帝国の兵隊。しかも聖騎士で魔法も使える。
こうなってそれが本当かどうかも分からないが、やるしかないっ。
ギュッと手を握り、俺は収納魔法を展開しながら周りを見渡す。こういう時こそ情報が命だ。しっかりと状況を把握しろ。
くるりと部屋を見渡しながら、システナさんの目を俺の収納魔法に向けさせる。
ベットは少しぐちゃぐちゃになっていて、つえが真っ二つに折れていて、ユミが抵抗していたのだと思われる。壁には穴が数カ所。おそらく、
結局、数回見渡したがユミが抵抗していた形跡以外特段変化はなかった。システナさんの格好くらいで、目視で確認できる程度なら罠がある感じでもなかった。
右手で銃を掴み、引き金を引こうと手前に持ってくるとシステナさんが睨みながら一言。
「動いたら殺すわよ」
「っ……」
「手をあげて」
「わ、分かりました」
やはり、そうか。
今まで銃を散々見せつけてきた弊害だ。
ゆっくりと手を離し、俺は手を上に伸ばす。
「それで……何をしてるんですか?」
ここで何かを放たれて死ぬのは避けたい。かといって
「何をって、見たら分かるでしょ」
「ユミを掴んで、どうかするんですか?」
「……っち。ほんと、帰ってくるのが早いわよっまじで」
「すみませんね、あそこのおじさんが親切だったんで」
「ちゃんと根回ししたって言うのに、これだからエランゲルの馬鹿どもは」
エランゲルの馬鹿ども?
まぁ、戦争状態ならそんな風に貶すこともあるか。
「まぁ、いいわ。どうせ、あなたも始末するの。話してしまおうかしらね」
「……」
「実はね、カイト君、そしてユミちゃん。あなた方二人を抹殺するためにここに連れてきたのよ」
「っ」
「っんん~~‼‼」
殺意の籠っている言葉に少し怯んだ。システナさんが担いでいるユミは口を塞いだまま恐れの表情を浮かべながら叫んでいる。
ユミは何か知っているのか? いや、まぁいいか。
そこじゃない。重要なのはなぜシステナさんは俺たちを殺そうとしているのかだ。
そこで、俺が考えられることは二つ。
一つはシステナさん自体が何かの組織のスパイで俺たちを帝国の人質としてこの国に連れて行き、戦争の交渉をしようとしているのか。
もう一つは、実は作戦は嘘であり、帝国が隠したい存在である元第4皇子の俺を殺すために違う国まで来て証拠を隠滅したいか。
一つ目に関してはあまりにも帝国の軍のシステムがずさんすぎるし、なんならミリアさんの冒険者仲間だった時があるのにバレないのはおかしい。まぁ、ミリアさんが馬鹿なだけって言う線もあるがにしてもおかしな話だ。
二つ目に関してはまず、戦争という設定が要らない。だいたい敵国に簡単に入れてしまうし、もしかしたらそんなのはない可能性もあるが……わざわざここまで来て危険を冒して殺す必要があるのかどうか。
ただ、どちらにしても穴があり過ぎる。
「……なんで、殺すんですか?」
「理由か? 別に私個人的には殺すつまりはないんだけどね。国の命令だからね」
「国?」
「あぁ、帝王直属近衛騎士隊のお達しの命令だからね」
帝王直属近衛騎士隊? なんだ、それは。いや、まぁ帝王なら近衛騎士もいるのは分かるがどうしてそんなのがシステナさんに命令を? それに騎士よりも聖騎士の方が権限は持っていて、実戦経験も多くて強いと彼女は言っていたじゃないか。
「まさか……」
「聖騎士中隊は帝王直属の近衛騎士隊の表の名前。ちなみに、本当の名前は
栄誉不沈なる人類の鑑。
人間こそが頂点……そうか、確かそんな羅列を聞いた事がある。生まれてから非公式にも参加したクロスベリア大帝国の式典ではその言葉が帝王の玉座の上に国旗とともに掲げられていた。
あの頃はまだ文字や言葉を理解していなかったから分からなかったが形は覚えている。
「……そ、そんな隊がどうして俺たちを?」
「まぁ、色々と理由はあるわ。あなたは公式には存在が抹消されているがごく一部の皇族と私たちは知っているの。そこで、我らが世界での主権を取り戻すために孤児院にいるあなたを使おうってわけよ」
「俺を……」
「えぇ、今はクロスベリアの恩恵を受けてそれなりに豊かなこの国を使ってね。私たちが世界征服をするために、その一歩としてまずはこの国が喧嘩を売ってきたことにするためにカイト君がいるのよ」
「っ⁉」
つまり、俺をこの国の組織が殺したことにして、戦争を仕掛ける。まさにあの
そう言えばだが、孤児のほかにも帝国は問題を抱えていた。人口増加と土地の減少や資源の減少。そのなくなった部分を侵略戦争を仕掛けて取り戻す気なのだ。
まさか、そこまで……いやでも、どうしてユミが。
「でも、ユミはどうして!!」
「あぁ、それはあの子の親はかなりの数の兵隊を指揮してるからよ。捨て子とは言っても初めての娘。ちなみに、実は彼女、帝国の病院で検査を受けていることになってるのよ」
「な、そんなこと!?」
「えぇ、無断で孤児院にぶち込んでいるってわけね。まぁ、どうせ殺すのだからいいじゃない?」
不敵な笑みを浮かべる彼女。
さすがに、ひどすぎる。いくら命令とは言っても……そこまでするかよ普通!
確かにそうすれば力を持つ貴族が動いて、容易に民衆の意を射止められる。ただ、個々の国の優しい人たちはどうなる?
いや、たしかここには犯罪組織があって……そいつらを捉えて……そうか、つまりはやつら、まさかっ!!
「分かったようね? 要人をさらったと言われている集団は私の騎士隊の部下よ。ユミちゃんが攫われ、助けに来た君を一気に叩く。それが真相ね」
「ひど、すぎる……」
「それはそれは……まぁ、私としちゃあそんなことしたくはないけど、帝国の騎士がそんなこと言っていたら格好悪いからね。帝王の意思は絶対。それに、私たちは支持もしている。生憎と帝国にいる反対派は全員始末してるからあなたの見方はいないわ」
「っ——ミリアさんは!?」
「あぁ、あの子はあとで騙すから大丈夫よ」
「騙すっ」
「えぇ、だから安心して死になさい」
傲慢すぎる考え方だ。そんなの許されるわけがない。
しかし、俺がその残忍さに何を吐いたって変わるはずもなく、遂に満を持したのか彼女は動き出した。
「んじゃ、二人ともどもここで死んでもらうわね!!!!!」
ビュン――っと音を立て、彼女の聖剣が振り下ろされる。
あまりにも一瞬。刹那を10分の1しても足りないそれが……俺に襲い掛かってくる。
その瞬間。俺は死を悟った。
「あ」
「んんんんっ!!!!!!!」
「—————っ」
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