第28話「武器屋、裏切り」


 作戦開始は陽が落ちてからの19:00一九〇〇。今朝、システナさんが上官との通信で視界が訊かない夜がいいだろうと言う話になったらしい。やはり。どこの世界でも夜襲はあるようだ。


「てなわけで、作戦が始まるまではこの宿屋で待機って感じだ」


 作戦実行前だと言うのに、まったくどうしてこの人はこんなにもお気楽な雰囲気を出せるのか。そろそろ真面目なシステナさんも見たい。さすがに始まったらこんな顔はしまい。


 システナさんの清々しい言葉にユミが難色を見せながら訊ねる。


「外は出ちゃダメですか?」


「外か? 何か用でもあるのか?」


「そういうわけじゃないですけど……その、暇と言うか」


「俺の本とか読んでもいいぞ?」


「い、いいの?」


「あぁ、少し時間あるし武器でも創ろうかなって思って」


「じゃ、じゃあそれで……教官、何でもないです」


 こくりと頷き、俺の枕横に置いてあった歴史書を手渡した。読書好きのユミは少し微笑みながら受け取ってベットに座り込むと本を開いて無言になった。


「カイトはどうするんだ? 別に出ても構わないけど」


「あぁ、そうですね……この辺に工房とかってありますか?」


「工房? 刀鍛冶とか、そのへんのことか?」


「まぁ、そうなりますね。俺が作った武器の事でちょっと話をしたいなと」


「ほぅ……銃を何かに?」


「銃はさすがに……ただ、武器を作って売るのでお金を稼げないかなぁと」


「そうか、その辺は任せるよ……一応昼過ぎまでには戻ってこいよ」


「分かりましたっ」


 システナさんからの許可をもらい、俺は戦闘服に土で汚れたローブを纏って外に出た。





 宿が面している路地を回り、小さな裏路地を歩いていく。システナさんに教えてもらった地図じゃこっち側らしいがこれであっているのだろうか。少々不安だ。


「あの人、抜けてるところあるし……なんか怖いよな」


 念のためだ。一応、ベレッタとナイフは腰に付けておこう。


 とはいえ、ここにもやはり孤児のような存在はあるようだ。裏路地には小さなテントが張られていて、小さなスラム街のような場所が自然に形成されている。亜人や獣族の子供、中には人間もいるように思える。


 俺やユミのように親に捨てられたのか、はたまた戦争の結果で生まれた難民なのか。定かではないが皆やつれていて可哀想だった。食べ物でも持っていたら分けてあげたいが、生憎とないし、こういうので上げてしまうと狙われやすいとよく言う。ここは心を鬼にして進むしかない。


 子供もいるが大人もいるようで、盗賊の様な輩もいるようだ。ところかしこで俺を睨みつけて、目を離すのをやめれば今まさに後ろから襲い掛かってきそうな雰囲気だった。


「……っ」


 正直、テロリストに襲われて殺されたあの日以来。怖い人には出会ってないからな。システナさんの指導はかなり厳しかったが別に怖いとかそう言うわけではなかった。


 実際に、俺が高校生の頃のサッカー部の顧問の方が怖かったしな。大して強くない高校だと言うのに、あれはひどかった。練習前にゴール間を10周させられ、練習が終わったら90分間走らせられる。何せサッカーは90分間のスポーツだからだって言ってきやがる。あれは最悪だったな。


 って、話をしている場合じゃないか。しっかり回りを確認して歩かないと。


 こっちを睨む痩せ細った獣族の男。


 うぅと唸り声と涎を垂らしながらまじまじと見てくる狼顔の男。


 ボロボロでみすぼらしい服を着ている猫耳の女。


 どこもかしこも痛々しすぎる。


 そんな道を抜けて、さらに角を曲がって右手側。

 木の扉の上にある看板にはユビーボ売店と記されていて、中からはボーボーと音が響いていた。


「ここで、良いんだよな」


 少し不安になりながらもコンコンと数回ノックをすると、中からおじさんらしき低い声が返ってきた。


「なんだ?」


「そのっ、武器をお見せしたくて」


「ほう、いいだろう。入りな」


 低く野太い声が聞こえてきて、俺は頷きながら恐る恐る扉を開ける。


 すると、中にいたのは肌の色が青く、まるでドラゴンのような顔をした大男が椅子に座りながら待っていた。


 いやはや、騙された。

 俺は初見でそう思った。流石にデカすぎる。目視だが確実に2メートルは越えている。ガタイもよく、一発でも殴られたら負ける。というか意識が飛んでヤバい目にあわされるのは? と思うほどに凄まじい圧を感じた。


「っこ、こんにちは」


 さすがの迫力になんて言ったらいいか分からなくなった俺はかける言葉もなく、頭をさっと下げながら一言挨拶。


「頭下げてどうしたんだよ、小僧?」


「っあ、そ、その……」


 おっと、しまった。前世の癖が出てしまった。


「ぼ、僕の……故郷の挨拶で」


「ほう、そうか。随分と面白い挨拶をするんだな。お前の故郷はっ」


「……ま、まぁ」


「どこ出身なんだ?」


「え」


「いや、お前の生まれた場所はどこかって聞いたんだ。何か悪いことでもあるのか?」


 思わず、声が漏れた。

 やばい。この質問はヤバい。


 しかし、気づいたときには手遅れでドラゴン顔のおじさんの表情は不思議そうにこちらを見つめている。


「……なんだ? 覚えていないのか?」


「あぁ……えっと、そうですね。はいっ」


 あぶねぇ。

 ありがと、おじさんっ。


 そんなおじさんがぽろっと出した言葉に乗っかると、どうやら分かってくれたようで「そうか」と頷いてくれた。


 真面目に危ない。敵国の子供がいたら、さすがに怪しまれるし、せっかくの実践が台無しになる。それはそれで色々と困るし、最悪殺されかねないので黙っておくことにしよう。


「——んで、武器ってなんだ? 売りに来たのか?」


「あ、は、はいっ……そのですね。色々と材料集めて作ったナイフが売れないかなって思って来ました」


「ないふ?」


「あ、その……短剣みたいなものです」


「そうか……まぁいい。面白そうだから見せてもらおうか」


「こ、これです」


 ニコッと笑みを浮かべながら見つめてくるドラゴンおじさん。


 めんどいから、ドラゴンおじさんにしよう。顔があれだから名前くらいは可愛くしたいし、いいだろう。


 そうして、俺は事前に腰に携えていた木製の柄が付いた刃渡り20㎝ほどのナイフを取り出す。


 ドラゴンおじさんの手に渡すと、それをまじまじと見つめながら数分。


 無言のままでいられたせいでダメだったかなと悟った時、俺の肩に手を置いて今度はこっちを見つめてきた。


 まさか、粗悪品だったかな。


 なんて思っていると、頷きながら一言。


「よく出来てる、銀貨2枚だ」


「ほ、ほんとですか?」


「あぁ、上出来だ。この長さの剣も見たことないし、短剣にしては細すぎる。面白いから買い取っておこう」


「いいんですか?」


 気前良さそうに言ってきて、俺は若干驚いたがどうやら嘘でもなく買い取ってくれるようだ。


「その代わり、返さねえからな?」


「は、はいっ。それは大丈夫です」


「よし、いいだろう。成立だ。んじゃ、銀貨2枚だ」


「ありがとうございますっ」


「んで、お前の名前は?」


「名前ですか?」


 銀貨を受け取り、ドラゴンおじさんがナイフを後ろに置くとなぜか彼は俺に名前を訊ねてきた。


「あぁ。この短剣の製作者を印字したいからな」


 どうやら、この国では武器の製作者を印字するらしい。まぁ、名前くらいは大丈夫かと思った俺はすぐさま答える。


「カイトです」


「ほう、いいだろう。色々と市場に流してみようか」


「は、はい……」


「あ、あのっ」


「ん?」


「こ、ここは何をうっているんですか? その、結構裏道を進まないとないですし」


「……知りたいか?」


 少しニヤつきながらおじさんは訊き返してきた。


 一瞬、背中をゾわっとなぞられた感じがして何かヤバいと肌で感じた。それに、このおじさんが相手じゃ勝てる気が湧かない。銃弾も弾きそうなくらいに肌が硬そうなのも不安だ。


「いや、いいです」


「賢明な判断だ」


「じゃ、じゃあ僕はこれで」


「おう、ご達者でな」


 結局何も聞きだすことはできず、というか明らかに裏がありそうなので俺はすぐさま店を離れることにした。


 まぁ、正体は何にしても、どうやら、俺の武器は案外売れるようだ。もしもお金に困っても、作った武器を流して武器商人として暮らしていくのもいいかもしれないな。


 味気はなかったが、早めに宿に戻っておこうか。













 しかし、だった。




 宿の部屋の前。

 俺がドアをノックして開けようとした刹那だった。


「きゃあああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼」


 凄まじい悲鳴が部屋から突き抜けて、廊下へ響く。あまりにもいきなりで頭が一瞬だけ真っ白になったが俺はすぐさまドアを突き破って中に入ると……。


「ゆ、み?」


 システナさんがユミを縛り、背中に括り付けていた。

 まさに誘拐現場。驚きすぎて言葉も出ない。腕も動かない。どうすればいいのか分からなくなって、足がすくみそうになる。


「なんで」


「っち。バレたか」


 俺は目を疑った。


 目の前にいたのはグルグルに縛られたユミと。

 俺を睨みつけるように見つめる盗賊の格好をしたシステナさんだったのだ。









<あとがき>


 昨日は投稿できずにすみません。頭痛が酷く、中々書くことができませんでした。まだ微妙に痛いので誤字脱字多いかもしれません。指摘していただけると嬉しいです。読んでいただきありがとうございます。

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