第27話「都市デート、そして真相」


「なんだ……あれ」


 空に浮かぶ黒い球体。


 まるで昔のヤンジャンに出てきた例の黒い球のような雰囲気で、まさか死後の世界で宇宙人と戦わされるんじゃ!? なんて思ったくらいだ。


 その禍々しさと何かあるんじゃないかという変な期待は原作を凌駕しそうな雰囲気だが……そんな与太話をしていいかどうか分からない。


「か、カイト……」


「なんだ……」


「私……なんか見たことある気がする……」


「えっ」


 俺の袖を掴みながら、ボソッと呟くユミ。

 

「いつか読んだ本で……年に一度、ある国では黒い球体が現れるようになったって」


「年に一度……伝説の話か?」


「いや、多分違う。正直もう覚えていないけど、そんな話を読んだ気がする」


 少し不安げな瞳を見て、俺はますます不安になってきた。


 とりあえず、〇ANTZではないのは分かったが伝説の話にもなると余計に不安しかない。


 誠剣の話もそうだったが、大抵伝説は良い話では終わらない。


 結局、今ではいるのかいないのかも分からない初代帝王の話も他国を蹂躙して一国を築いた一方的な話でしかないからな。


 いや、でもまてよ。


 年に一回、〇ANTZモドキが出てくるということはつまり、この街は破壊されていないということじゃないか? 毎年出て、壊されて——なんてを繰り返していたらこんな場所に人間は住まないはずだ。


「大丈夫、かな」


 確証なんてない。普通に考えれば、孤児院から外に出たことがない俺たちからしたらすべてが初めてで不安しかないのは自明の理。


 ただ、ここで怖がっていても何も変わらないのだ。


 不安そうに袖を掴むユミに掛ける言葉は「問題ない」だろう。


「もしも毎年、あれがあるならこの街に人なんて住んでないんじゃないか?」


「……た、確かにそうね」


「それに、今更ここで何かできるわけでもないだろ」


「うん……」


「多分、問題ないんじゃないのか? そう言う街の一つや二つはあるだろう、きっと」


「そ、そっか」


「住民たちも感心ないみたいだしさ、考えるのはやめとこうぜ」


「……」


 こくりと頷く。

 自信なさげではあったがひとまずは良いだろう。というか、すっかり忘れていたが本屋に行かなくてはな。


「よし、それじゃ本屋行って、服買って帰るぞ!」


「そ、そうねっ」


 そう言って俺たちは薄暗い街を駆けていった。






 俺は本屋でこの地域一帯の歴史書や山神が出てくる伝説本「神大全」などを数冊購入し、途中見かけた服屋でユミのための冒険者服を買った。


 冒険者用の服はないわけではないが、やはり魔法士の格好はコートがなければ始まらないので店主のおっちゃんに聞いて、対魔法耐性の特殊な繊維を使った銀貨5枚の猫耳付きコートを購入した。


「わりぃな、この街は獣族が多いんでな!」


 と言われたが、生憎とこちとらケモナーもかじっている。むしろ、イイ!! くらいだ。


 それに、ユミの方もまんざらじゃなさそうで「にゃん」と小さな声で呟いている。今度揶揄うネタにでもしておこうか。


「気に入ったか?」


「うんっ。なんか、すっごく魔法士みたい」


「まぁ、ユミはもともと魔法士の才能があったからな」


「っ……ま、まぁね」


 いつもは冷静なユミもはしゃいでいて、可愛いものだった。たまにはこんな風に普通な女の子の一面も見れて嬉しい。


「カイトはなんか、買わないの?」


「俺?」


「うん。せっかく来たし、カイトは結構動くからさ」


 ふりふりとコートの裾を左右にはためかせながら、俺にそう訊いた。


 まぁ、確かにユミの言う通りではある。俺の場合はかなり動くし、なんならよく破けてしまうからこれを機に頑丈な服を買うのも悪くないかも知れない。


「そ、そうだな……俺もなんか買うか」


 そして、それからかれこれ数十分。


 ユミの意見や店主の意見を聞きながら、俺は緑色の迷彩柄の服を作ってもらうことになった。繊維はユミのコートで使われている特殊なものにしてもらった。


 いやはや、俺が絵で説明したからあまり様にならないのかもなぁ……なんて思ってはいたが、さすが服屋の店主。服を作るのに特化している固有スキルを持っているだけあって、再現度は完璧だ。


 ただまぁ、まったく違うこっち側の服を御所望していたユミとしてはかなり不服そうだった。


「……こんなんでいいのかい? オーダー料もかかっちゃうけど」


「いいんですっ!! というか安いくらいですよ!!」


 前世の戦闘服をこの異世界で着れるのだから銀貨7枚はまだ安い方だ。これで俺たちが持っている金貨も残り数枚になったが、稼げばいいだろう。


 いつかバックとか、手りゅう弾も作れば……いいねぇ、最高だねぇ!


「……な、ならいいんですけど」


「はいっ!! とにかく、お金どうぞ! ありがとうございます!」


「は、はぁ」


 ついてこれない二人。

 結局、ユミには最後まで理解してもらえず、部屋まで戻ることになった。






 部屋に帰るとシステナさんが日記を書きながら待っていた。システナさんが計画は明日に変更になったと伝えてきて、少し驚いたが明日のためにすぐに寝ることになった。




 まぁ、寝ないんだけど。



 俺はこっそりと灯りを付けて、ベットの上で歴史書を読むことにした。あの〇ANTZといい、山神といい、今日は引っ掛かることが多い過ぎるからな。安心するためでもあるし、こればっかりは罰は当たらないだろう。




 小一時間ほど文字を眺めていると何か引っかかるなと思っていたことが一気に晴れた。


 まず、この地域では昔、山神と呼ばれる神様がいたらしい。


 その力は絶大で、上級以上のモンスターを従え、クロスベリア大帝国が生まれるよりもはるか前にこの大陸一帯を制覇していたようだ。


 そして、ここからは初耳だったが三大大陸には神様が祀られていて、東は山神、西は炎神、南は天神とそれぞれの神様がいて、全ての魔法を使える最古の人間だったようだ。神とは言っても死後に神になっただけらしいが……。


 彼らの死後は常に誰かが山に行き、絶級モンスターを供物に差し出すことで年に一度、神たちと交信をするという義式が行われているようだ。


 ただ、その弊害なのか。違うのかは分からないが、この数十年の間で異変も起きている。


 それがユミが見つけた空の黒い球体なのだ。あの○ANTZが現れて以降、木が枯れる地域があったり、謎の人物が市民を惨殺したりなど、祟りらしきことも起きている。


 いったい、それらの出来事に意味があるのかどうかというところは分からないが神様が絡む宗教系の話はいつだって同じだ。いずれ役に立つだろう。


 とはいえ、こんな町で歴史書に出会えたのは良かった。クロスベリアでは手に入らないものもあるようなので、今後とも世話になろう。


「よし、とりあえず今日は銃の手入れでもして……寝るか」


 そして、夜も更け。


 メインに2倍スコープとサプレッサーを付けたHK416、サブ武器としてベレッタM9A1にレーザーポインターを付け、バトルナイフを収納した戦闘服を準備して寝ることにした。



☆ステータス☆


名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:13歳

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル3

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り、性欲、妄想

魔法属性:無し

魔法レベル:1→闇魔法(煙幕、収納)



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:12歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル2

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り、探知

魔法属性:光、火(中級すべて)

魔法レベル:3






 

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