第26話「異変」

 


 山に入って少しするとゲルガの群れが現れた。


 久々の対面に少しだけ腰を抜かしたが、俺自身も成長したことによりゲルガの群れとは言っても一蹴することができた。


 俺のAK47から放たれる銃撃音とマズルフラッシュ、その銃撃の合間を買いググろうとしてくる奴らの尻尾をシステナさんとユミの遠距離の光魔法を突き刺していく。


 唸る奴らに一切の躊躇なく俺たちの攻撃が蹂躙していくのを見て、トラウマは微塵もなく消え去った。


 ゲルガの群れの死体からお金になる毛皮と尻尾以外の肉をできるだけ収納魔法で詰めこみ、明日以降の準備のため直ぐに帰ることにした。

 




 そんなわけで山中を下り降り、帰路に着いた。


 エランゲル西部の森を抜け、中央都市に戻る最中。


「ゲスチルが言っていた男、いなかったなぁ……」


 システナさんが鞘付きの鉄剣を首の後ろに引っ掛けながら、何か思いついたかのように言う。


 確かにそうだった。


 俺としてもゲルガの群れとの戦いとAK47のロマン溢れる銃撃音ですっぽ抜けていたがそう言えばゲスチルがそんなことを言っていた気がする。


 山の中に消えていった一人の男冒険者が俺の狩場だから勝手に入るな。


 って感じだった気がする。


 いやはや、この世界の住民にも土地がどうのとかそういうややこし話もあるもんだなぁ——なんていうのは嘘だが、そんな言葉がまかり通るのかと感心していた。


 やはり、法というなの王の特権ですべてひっくり返る程度の決まりしかない世界では強いものが正義。前世の俺では確実に下っ端になるだろう。


「まぁ、ゲスチルの事です。弱すぎてはめられていたのかもしれませんよ?」


「ははっ、確かに間違えねぇ」


「そう言えばですが、ゲスチルの冒険者ランクってどの程度だったんですかね。ほら、他にもいたじゃないですか。パーティメンバーの……えっと」


「ベイブーとグルーギ」


「うぉ……ユミ、覚えてたのか」


「えぇ、全員覚えているわ。私もシステナさんの身のこなしを勉強したかったし……」


 照れながらブツブツと呟くユミを肘で小突き、嬉しそうな表情を浮かべている。


「ま、まぁ……か、かっこよかったですし」


「そう言われると嬉しいもんだねぇっ! 帰ったら、もっと特訓してあげようかな!」


「お手柔らかに……」


 しかしまぁ、話が反れまくっている。

 ユミの照れ具合も可愛いけどさ。


「って、ユミも照れてないでシステナさん、そう言う話じゃないでしょ」


「えぇ~~いいじゃんっ。ユミちゃん可愛いし、そう言う話もしようぜ~~!」


「いいから、それよりもゲスチルのランクを聞いてるんですよ」


「はぁ……もう、そんなんじゃ女の子から嫌われるよぉ?」


「……いいですよ、そう言う脅しは聞きませんよ」


 なぜならフリーターだった頃の親に「手に職付けないと女の子にもてないよ」って言われまくっていたからな。


 別にバイトはしているから手に職はついていると思うが……。


 それに、俺はユミを嫁にすると決めている。まぁ、最近の俺の行動で嫌われているかもしれないけど。


「ははっ……13歳の分際でぇ~~そんなこと言っちゃってぇ」


「分際って言わないでくださいよ、アラサーさん」


「うっ……わ、私はアラサーじゃない!! まだまだ20代の現役なんだからな!! ほらっ、右手の」


「めっちゃ刺さってるじゃないですか」


「うぐっ……うぅ」


 いやはや、毎度の事いじられるので腹が立ったから言い返して見たらどうやらめちゃめちゃに刺さったようだ。これから何か言われたらそう言い返すとしようか。


「それで、どうなんですか? 結局のところ?」


「……うぅ、血も涙もないなぁ、ほんとに。それで、何々? ゲスチルのランクでしょ? 確か……EかDくらいだと思うけど」


「DかEってほぼ一緒じゃないですか」


「……まぁ、数年も冒険者やってればランクはその分あがっていくわよ」


「え、そ、そうなんですか?」


「あぁ、D以上からは強さとか、スキルとか経験、結果諸々で上がっていくけどそれがどうかしたの?」


「いや、それじゃあゲスチルを脅してたのはC、B級のベテラン冒険者なのかなぁって」


「うーん、そこまでいくとそんなマナーもないようなこと言うとは思えないけどね」


「……まぁ、それもありますけど」


 というと、つまりは冒険者ではないのか?


 ゲスチルの顔見知り、もしくはしっかりと観察していて冒険者の稼ぎ場を自分のものにしているのか。


 それに、昔、何かの歴史書で読んだ気もしなくない。山神さまと契約する冒険者の話と似ている気がする。


 色々と結ばれそうで、少し裏がありそうだ。一応、頭の隅っこに入れておくとしよう。


「でも、カイトはそんなこと聞いてどうかしたのか?」


「いや……少しだけです。どこかで読んだことあるような気がしただけですよ。帰りましょう」


「あ、あぁ」


 結局、その話をするのはやめて、俺たちは途中で馬車に乗りエランゲルの中央都市の冒険者ギルドまで送ってもらうことにした。








 冒険者ギルドで討伐報告などをし、ゲルガの毛皮や肉を売り、報酬としては銀貨6枚となった。


 今日の担当である兎耳のお姉さんからは心底嬉しがられたし、俺とユミの冒険者処女もいい形で締めくくることができたみたいだ。


「……あ、そうだ。カイト、ユミちょっといいか? 上との通信の時間だから、待っててくれ」


 ギルドの食堂でゲルガの肉の唐揚げを頬張っていると、システナさんが何かに気づいたのか立ち上がりそう言った。


「だ、大丈夫か?」


「大丈夫ですけど……その、俺、書店に寄りたいんですけど」


「書店? まぁ、ユミも一緒に」


「分かってます、色々と服も買いたいので」


 そう言うとユミもかぶりついていた唐揚げを飲み込み、一瞬で食いついた。


「——ふ、服!?」


「うん。ユミとか全然持ってきてなかっただろ? せっかくだから現地で買っておこうかなって」


「か、買う!!」


 ぺくぺこと首を縦に振り、かなり嬉しそうだった。女の子はどこまで言っても女の子らしいようだ。


「わ、分かったよ。じゃあなるべく早く宿に帰ってこいよ?」


「はいっ」

「うんっ」


 返事を訊くと、システナさんは急いで外に走っていった。


 というわけで、食堂に二人きり。

 置いて行かれた俺たちの目の前に広がっているのはゲルガの唐揚げの山。


「じゃ、じゃあ……食べるか」


「うん」


 結局、ギルドを出たのは陽が沈んでからだった。




「たらふく食べたなっ」


「う、うんっ……」


 げふっ――。


 ユミが口からゲップの様な音が響き、少し恥ずかしそうにしている。弄ってやろうかとは思ったが色々と危ない気がするので言うのはやめた。


 というわけで、まず。俺たちは書店に向かうことにした。書店はギルドがから数分の場所にあるのは来た日に確認していたので、しっかりと道を辿っていく。


 終始無言で綺麗な街の元を歩いていく。


 夕陽が沈んでいく中、まだ少しだけ明るい空の下にあるエランゲルの街。こんな町が敵国だなんて思えないなと改めて思う。思えば前世の時も同じ人間同士で戦争なんて頻繁に起こっていたし、人間はどこに行っても同じなんだろう。


 にしても、敵国にいるのはなかなかして不思議だ。敵国の子供をすんなり入れてしまうこの国もどうかとも思うが、文明レベルが低いとこうなるのだろうか。


 頭の中のモヤモヤがどんどんと積もっていくがそんな最中で、ユミが目の前で立ち止まった。


「っんが」


 ごつん。

 顎元がユミの頭にぶつかった。


「いてて……お、おい。どうかしたのかよ」


「あれ」


「ん?」


 俺が顎を抑えながら、そう訊ねるとユミは無言で薄暗い空に指をさしていた。


 いきなりどうしたんだ? もしかして、変な雲でもあるのか? とくだらないことでも言いやがるのかななんて思っていたのだが……。


「え、何あれ」


「わからない……」


 しかし、その先には――———————真っ暗な球体が無造作に浮かんでいたのだった。






 




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