第25話「冒険者の狩場」


 早速、エランゲルの中央都市を出て西に数キロ。

 人里離れた森の中に入り込み、俺たちは三角形に陣を取りながら歩いていると目の前に見知った顔をしている冒険者が立っていた。


「あ、ゲスチルじゃん」


 システナさんが呑気な顔でそう言うと背中を向けていたゲスチルはビクッと震えて恐る恐る振り向いた。徐々に見えてきた顔は少し残念そう――というか悲しげ、いや、どっちかと言うと憐れなものだった。


「……あ、あの……時の」


「あの時は世話になったなぁっ。って、そこに突っ立ってどうかしたのか? もうあんなことはしませんって山神様にでも伝えてるのか?」


「ち、ちがっ……そういうわけでは、ないっ……」


 適当な言葉に肩をビクつかせながら口を開くゲスチル。

 目の奥が笑っていない、どこか歪んな表情をしていたがシステナさんはさらに問い詰める。


「——ふぅん、何かあったのか?」


「お、俺たちはっ……いつも通り、赤狼レッドウルフの討伐に向かっていたんだが」


「おぉ」


「な、なんかフードを被った男が来やがってよぉ……ここは俺たちの狩場だからって手を出すなって」


「ほぉ、そりゃまた難儀なことやなぁ」


「な、難儀って! 俺らにとっちゃ死活問題なんだ! も、もうすぐ1歳になる息子がいるってのによぉ」


 ゲスチル、お前には子供がいるのか。

 正直びっくりした。こんな奴にも家族はいるものなのか、日本での生活で考えれば全く合うことも内容な人種だったがこっちの世界にも不思議が多いらしい。


 とはいえ、だ。


 ゲスチルがどうのこうのとかは置いておくにして、この山一帯を自分の狩場にするやつがいるとは。


「どうしますか? やめときます?」


 俺は少し考えたが、ここは経験豊富なシステナさんに指示を仰いだ方がいいだろうと訊ねた。


 少し「んー」と声をあげると、今度はユミの方に視線を向けて


「ユミはどうしたい?」


「っ……わ、私ですか?」


「あぁ、ユミに聞いてるよっ」


「わた……私は別に、どっちでもいいですけど」


「やめたいとかは思ってないか?」


「う、うんっ。別に」


「よし、なら行ってみるか! この際、強いは良い奴と戦うのも経験だろ?」


「……さすがシステナさんですね」


「ん、そうか?」


「いやぁ……その、行き当たりばったりなところがそっくりだなぁと」


「……?」


 はて、と不思議そうな顔をしているが自覚がない所もミリアさんに凄く似ている。果てしなくデカい胸も含めてだな。


 とまぁ、与太話は良いとして俺としてもこういう展開は嬉しい! いいね、いいねぇ、自分の狩場を主張する強者冒険者に、治安の悪さが目立つおバカな冒険者、そしてそれを助ける主人公っ!


「おい、どうした? 顔がにやけてるぞ?」


「……また、変なこと」


「え、あぁ!! 違う違う! そんなことじゃないからっ——てユミも杖を向けないでってぇええ!!!」


「っ……変態、馬鹿」


「ま、まぁ怒るなって……そんなこと考えてないからさぁ」


「信じられないけど……いいわ」


「っぷぷ」


 俺ら二人のやり取りを聞きながらニヤニヤと笑みを浮かべやがっている筋骨隆々巨乳美女は置いておくとして、とにかく勘違いだ。


 ユミも毎度の事、俺の行動に厳しいのは何とかしてほしいが俺の方も昔の癖が抜けていないし、妄想癖も何とかしなくては。


 それに、数メートル先でポカンと立っているゲスチルが可哀想だ。


 俺は二人の間を抜けて、ゲスチルの前まで歩く。


「……と、とにかくですっ‼‼ とにかくっ——引き受けます! 俺たちがしっかりと見に行ってくるので、ゲスチルさんは待っててください!」


「……ん、あ、あぁ」


「えぇ、俺たちは強いんで任せてください!」


「で、でも……ガキにどうこうできる相手じゃ」


「んぐっ……」


「それに、俺はそこの女に言ってるのであって、お前には……」


 ここで俺らの新たな伝説が一ページ紡がれて————と行きたいところだったが、前に立つゲスチルは何言ってんだこいつと諭してきやがった。


 俺の言葉に驚いたかのように声を出して、挙句の果てには心配そうな表情で俺の方をまじまじと見つけきやがる。


「お、おい……」


「っ~~~‼‼」

「っぷぷ」


 おいおい、そこは気にせず「任せた!」だろうがよ!! と叫んでやりたいところだったが、後ろには俺の事を見て腹を抱えだす二人。


 さすがに面子が持たないと思い、ゲスチルの耳を借りた。


「俺はこれでも教官と互角なんだよ、ゲスチル、お前さんなんてイチコロだぜ?」


「ま、マジか‼‼」


「あぁあぁ、声は出すなよ!! とにかく、俺たちに任せたって言ってくれ……この俺にな! しっかりと、自信気に、ちゃんとな‼‼」


「……わ、分かったよ……あに、兄貴っ」


「おぉ、さっすが分かってるな。んじゃ、よろしくっ‼‼」


 ニコッと笑みを見せながら離れると、コホンと一息っ。


「んじゃ、俺たちに任せてくれな!!」


「は、はいーあにきぃーー」


「おい、何で棒読みなんだよ」


「っ…………めんどいや。とにかく頼むよ、兄貴」


 おいなんだよこいつ。

 いいのか? 俺がこいつを馬刺しにしちまっていいってことか? なぁ、なぁ⁉


「カイト、悪あがきはよせ! お前はガキだ! こういうときは私に任せておけばいいんだよっ!」


「んぐっ……」


「カイト、馬鹿ね……」


「っぐぅ……」


 というわけで、冒険者になり初クエストが始まったと同時。俺のやる気とテンションは地の底まで落ちていくのだった。




☆ステータス☆


名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:13歳

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル3

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り、性欲、妄想

魔法属性:無し

魔法レベル:1→闇魔法(煙幕、収納)



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:12歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル2

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り、探知

魔法属性:光、火(中級すべて)

魔法レベル:3



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