第6話「静かなる魔法士ヒロイン」


 翌朝、俺はミリアさんの部屋にもう一度呼ばれこんなことを告げられた。


「ねぇ、カイトくん」


「はい」


「冒険者になってほしい件だけど、カイトくんは冒険者を目指してもいいのよね?」


「——もちろんですっ。今すぐにでも!」


「今すぐに……とはいかないけれど、あなたがそうしたいのなら私は全力で応援するわっ」


「ありがとうございますっ」


 俺の人生の一ページが再び彩られていくのか。

 志半ばで途切れた前世もこれで報われる。そう思い、俺はミリアさんに笑みを見せた。


「それで、なんだけどね? 色々としてもらいたいことがあるのよ」


 新たなる門出を感じて胸を躍らせていると、彼女は少し苦しそうにしながらこう言った。


「色々とマザーにも相談してみたの。冒険者になるために私もついて行くことはできないですかって。そしたら許可は下りたんだけど、カイトくんが15歳になるのを待ったなくちゃいけないことと、冒険者ギルドに行く前にまず中級モンスターを倒せるようにしてからにしなさいという条件付きで……」


「俺が……15歳ってことは、あと3年ですか?」


「そう。それに初級はもちろん、中級モンスターを狩りに行かなくちゃいけない。それでも、できそうかってカイトくんに確認したいの」


 彼女は俺の肩を掴み、真剣な眼差しで訴える。


 そう言われて、俺は考える。


 俺がどんなになりたいとは言っても親のような立場であるミリアさんにとってはいきなり旅に出すのは心もとないのだろう。


 それに、銃のことだって、初級モンスターには歯が立ってもあの大きさの拳銃じゃ貫通力や破壊力が物足りない。


 その辺の研究もしていきたいし、それにミリアさんはもちろん他の人の迷惑になるようなことはしたくはない。


 しっかりと安心させて、そして冒険者になる。旅を経て、上級冒険者になり、この地を治めるほどに名を轟かせる。


 それが今の俺の夢だ。


 なら、答えは決まっている。


「もちろんですっ、やるべきことはしっかりやって。俺は冒険者になります!」


 そんな俺の言葉を聞いて嬉しそうにミリアさんは笑みを浮かべる。


「……えぇっ、ありがとう!!」


 少し涙交じりの瞳を見せるミリアさんに俺はいつの間にか近づいていて、手を差し出していた。


「っん!」


「頑張りましょう!」


 手を組み、熱い握手を交わす。


 そうして、その日からミリアさんは俺のパーティの一員になったのだった。



 十秒ほど握手を交わしてから、居てもたってもいられなくなった俺が部屋を出ようとしていると——


「あ、忘れてた! カイトくん!」


「な、なんですか?」


「その、私も仕事で付けない時間帯もあるから……図書室にいるユミも誘いなさいっ。きっと、彼女も一緒に冒険者になってくれますっ」


「ゆ、ユミ……」


「じゃあ、頼みますよ」


「——は、はいっ」


 付け加えられた言葉を飲み込んでいなかったが俺は頷いて部屋を出た。


 ユミを誘え……ってどういうことだ?










 その助言を追い、俺は孤児院にある図書室へやって来た。


 ミリアさんは確かユミと言っていたが……この世界にそんな日本人みたいな名前の子供はいるのだろうかと疑問に思う。


 って、よくよく考えてみれば俺もか。


 でもまあ、俺はまだ外国人にもワンチャンあり得るからいい。その変にでも転がっているような名前だし。国忠よりかはマシだ。


 戦国武将っぽくて好きじゃないし。


 って、話が反れたな。俺の名前はどうでもいいんだった。


 とにかく、ユミと言う子を探さなくちゃいけない。


 ミリアさんから聞いた事は静かで本ばかり読んでいて、博識で……体が小さく、眼鏡をしている——とのことだ。


 お姉さん系が好きな俺からしたらあまり魅力的ではない。


 ただ、陰キャで引きこもりだった俺にとっては話しやすくていいのかもしれない。


 俺が何を判断してるんだって話だけど……とにかく、探そう。


「ん、あの子かな」


 すると、探す必要もなく、彼女は図書室の隅の方で座り込んでいた。図書室には他に誰もいないから一瞬だった。


 にしても……本読んでる。


 タイトルは——【誠剣の伝説】か。


 俺も確か数年前に読んだことがある。魔法を【神の御業】まで使える三大英雄の一人。


 一対多が得意な剣技で魔法を使わずとも強かったと言われている。


 加えて、光魔法が最高位まで使えて他の魔法士や剣士などあてにならないほどに強かったと記されていた。


 小さな村の出身で、となりの王国に攻め落とされそうになった時にその強さを発揮したらしく。


 侵略戦争に打ち勝った後は弟子を数人受け入れて、田舎で余生を過ごしたと言われている。


 ——にしても、そうか。彼女もそう言う冒険記が好きなのだろうか。


 それなら話は早い。


 俺は彼女の元まで近づき、しゃがんで声を掛ける。


 小さな女の子と話すときは目線を合わせるのが絶対だ。


「誠剣の伝説が好きなの?」


 そう訊ねると彼女は顔をあげて、不思議そうに首を傾げながら俺の目を見つめる。


 大きな目が丸眼鏡の内側から覗かれる。


 顔は芋っ子で地味っぽいけど、こう見ると可愛いかもしれない。


 この年になってからか、同年代の女の子がどうしても魅力的に映るし……これが、恋かな。


 初めての恋(おじさん)笑。


「うん……」


「そうなんだ。俺も昔読んでたな、ゲルニカってイケメンだし、強くてかっこいいよね」


「うんっ」


 コクっと頷く彼女。

 口が小さくて、声が小さかったがどこかしっくりくる。


「本、すき?」


 すると、彼女が小さな声で訊ねてきた。あまりしゃべらない子だと思っていたせいで少し驚いた。


「ん、あぁ、うんっ。小さな時から読んでるからな」


「……君も小さい」


「え……あぁ、そ、そうだな」


 ジト目を向けられて、気が付いたが俺は一応12歳だった。


 30+12で実質42歳だけど、まぁ……転生したとは言えないわな。


「……変な人」


「へ、変って……別に普通だよ」


「匂いが違うもん……話し方とか、落ち着いてるし」


「そうかな?」


 おっと、まずい。さすがに子供っぽくないよな。この前からミリアさん以外のシスターにきもがられているし気を付けないと。


 じゃあ。


「えぇ~~僕ぅ、そんなことないと思うぅ~~」


「……きもい」


 んな!?

 渾身のガキっぽい感じ台詞を演出したって言うのにっ。



 いや、そうか。




 これはメスガキだ。生前の趣味が裏目に出たな。



 にしてもあの18禁ボイスは持ってきたかったなぁ。メスガキにち○こを足コ○されながら罵倒されるけど、途中で形成逆転してオホ声垂れ流しでオナ○穴にしちゃうって言う。


 大変美味だった。


 っとまた話が逸れたな。


「あぁ……そうだな、俺はこっちの方がしっくりくるっ……ははは」


「それで、私に何か用?」


「おっと、忘れてた。そうだった。単刀直入に言うけど……俺と冒険者にならないか?」


「……ぼうけんしゃ?」


 すると、彼女は訝しげな表情で見つめる。何かおかしいことでも言ったのだろうか。


「……なりたいけど、私じゃなれない」


 数秒ほど固まって、俯きながらそう呟く。


「私、運動できないもの」


「運動ができない?」


「……足がおかしくてね、走れないの。魔法の適性は光と火だけど。両親もいないから、きっと無理よ」


「足はそうだけど……なんで両親が必要なんだよ?」


「誰にも必要とされないし、死んでほしくないと言われない……死んでもいいやって思っちゃうから迷惑だよ」


 淡々とそう告げる。

 そんな彼女に何も言えずに俺は黙り込んでしまった。


 ただ、俺にも言い包められるカードがある。


「俺は魔法属性は無い。帝国の血筋で、才能がなくてここに来たんだ。固有スキルも創造だぞ?」


「そう、ぞう?」


「あぁ、創造スキルだ」


「……そ、それは……そうね」


 分かってくれたのか、少し悲し気な声色で呟いた。

 

「でもな。力は使い方次第だ。見るか、創造スキルが何なのか?」


「え」


 俺は念じた。

 次に作るのは何がいいだろうか、鉄製の剣でも作ろうか。


 原子の構成を思い出し、なんならカーボンで加工までしてしまおう。


『発動、創造』


 口に出すと、手元に取っ手が木製のバトルナイフが出現した。


「——い、今作ったの⁉」


「あぁ、そうだ」


 すると、彼女は目を見開いて、大事そうに抱えていた本を床に置いて俺の方に駆け寄った。


 手に持ったナイフをまじまじと見つめながら……


「創造できるの……?」


 この世界には決まった法則がある。

 そのことを知っている俺は驚きながら見つめる彼女に言い放った。


「————力は使い方次第だ」


「っ……」


「それに、俺が死ぬなって思ってやる。いつでも胸貸してやるよっ」


 我ながら臭い台詞だったが、それしか思いつかなかった。

 しかし、彼女は目に涙を浮かべる。


 伝わったのだろうか、と不安も感じながら手を差し出す。




「だから……なろうぜ、冒険者」




「……」


 少し黙って、零れ堕ちた涙を手で拭きとり——彼女は俺の手を掴んだ。


「なるっ……私も冒険者になりたいっ!!!」


「あぁ!」


 そうして、俺のパーティに二人目が加わったのだった。







「あ、そうだ。名前はなんて言うの?」


「俺はカイトだ」


「カイト……いい名前」


「照れるな……そっちは?」


「ユミよ。よろしくね」


「あぁ、よろしく」


 そう言うとユミは優しそうな顔で微笑んだ。

 その表情が少しぎゅっときて、なぜだか顔が熱くなった気がした。




☆ステータス☆

名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:12

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル1

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術

魔法属性:無し

魔法レベル:0



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:11歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル1

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+1

魔法属性:光、火(それぞれ初級まで)

魔法レベル:1

 


☆作成した武器☆

 取っ手が木製の20㎝のバトルナイフ。素材は100%の鉄で、表面に薄く黒くカーボン加工がなされている。合金ではないため、かなり重くて強度はそこまで期待できないがそれなりに使える。



 

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