第7話「初恋と初実践」
ユミを誘った日から俺の銃器創造研究(異世界編)が始まった。
ミリアさんも色々と動いてくれて、裏山の一部を使っていいと言われた。
それから数か月ほどかけて射撃場を作ったのだ。
そこではユミの魔法研究も進めて、たまたまミリアさんが持っていた光魔法中級全書を持ち込みながら、二人楽しく様々な成長を促した。
「ねえねえ!! 見てこれ、私使えるようになった!!」
「ん?」
「ほら、見てみて!」
俺がガチャガチャと武器の手入れをしていると、ユミが後ろから満面の笑みで俺の肩を叩いた。
彼女が発動している魔法は光属性の中級魔法『
まるでどこかの英雄たちの聖杯戦争に出てくるセイバーさんのような技名だったが見た目は全く違う。
「ユミは凄いなぁ……俺よりも全然才能あると思う」
「えへへ……、なんかそう言われると照れるわね」
彼女はニマァっと頬を赤らめながら笑みを浮かべる。にしても、彼女は本当にすごい。
初級魔法にも似たような魔法があるのだが、それとは打って違ってリーチも長く、輝度も全く違う。
攻撃力も初級のよりも数十倍飛躍していて、同じ中級モンスターなら一度の斬撃で絶命しそうな雰囲気だ。
今更言ってもなんだが、どうしてユミの父親と母親は彼女を捨てたのだろうか。別に運動はできなくとも彼女は容姿も悪くないし、かなり優秀だ。
そこで、俺は試しに尋ねてみることにした。
「なぁ、もしかしたら失礼なこと聞くかもしれないけど……聞いてもいいか?」
「しつれいなこと? 何?」
「いやぁ、な。なんかすっごく聞きづらいんだけど、でもどうしても聞いてみたくて」
「どうしてもならいいけど……もしかして、両親?」
「っ……」
「図星ね、カイト」
「いぁ……ま、まぁ、そうなんだけども……」
ユミはジト目を向けてくる。
前世でもあまり人と話してこなかったのでこうもジト目を向けられるとむず痒いな。画面の向こう側の視聴者も俺が間違えた時にこんな顔をしていたのだろうか。
「……でも、私もあんまり覚えていないし。それにもう赤の他人。私のお母さんはミリアさんだから……関係ないわ」
「そ、そうか」
「ミリアさん曰くだけど、私の産みの両親はここからかなり近くの広大な領地を統治している貴族で、複数の街を持っているって言っていたわね。豪邸で、私以外にも数人の子供がいる元老院でも顔が訊く。帝国軍にも直属の兵士を持っていて、中でも1個師団を指揮しているらしいわ」
「一個師団……すごいな」
俺は素直に感心してしまった。前世ではサバゲ―だったり、エアガンだったり、FPSのゲームに打ち込んでいた重度のミリタリーオタクである。
クロスベリア大帝国の総人口が確か300万人ほどで、兵士の数は14万人程度。そのうちの1割を一貴族が保有していると考えるとかなり大きい。
師団の人数は約1万人から2万人だ。
班、分隊、小隊、中隊、大隊、旅団、師団、軍団、軍って感じだからそう考えてもかなり多い。
憧れるが……ただ、ここまで優秀で可愛いユミをほっぽり出した親だ。好きにはなれないな。
「にしても、ユミは優秀だろ? なんで捨てられたんだろうな」
「まぁ、部隊を指揮する人間が動けないんじゃ心もとないと思う。話じゃ私の歳で一個大隊を指揮しなくちゃいけないらしいから」
「じゅ、11歳で……一個大隊」
感覚がバグってやがる。
ただ、そう言われると認めざる負えなかった。
「ま、まぁそうか……」
「でも、それを言うならカイトは王国の血だって聞いてるけど?」
「んな!? だ、誰がそんなこと!」
ユミが俺の素性を知っているのを聞いてびっくりした。
俺の素性はミリアさんしか知らない。無論、王家の情報が漏れるかもしれないし、それが分れば変な輩が孤児院に攻めてくるかもしれないからだ。
「ミリアさん」
「そ、そうか……」
やっぱり。
まったく、抜けてるのか抜けてないのか分からなくなるなぁ。
「まぁ、そのことは口外禁止な」
「えぇ。でも、カイトも優秀なんだし、顔もその……っぁ……うん」
すると、ユミは頬を真っ赤にして口をもごもごとさせる。
「ん?」
「か、かっこいいのに……どうしてだろうって」
「っ——お、お世辞を」
我ながら照れてしまった。確かに今の顔は金髪で、顔も小さくて、太っていない。前世の俺よりも断然カッコいいのかもしれないが改めて言われると少し恥ずかしくなった。
「……お世辞じゃない」
「っそう、か……ありがとう」
「うん……」
「で、でも……それならユミだって可愛いと思うけど」
「っ……お世辞」
いかにも愛らしい状況なのかもしれないがいたって俺は真剣だった。
やはり、俺はこの年齢になってからというものの孤児院にいる同い年くらいの女の子に惚れやすい気がする。
最近はユミとばかり一緒にいすぎるのかトキめいてしょうがない。
ちなみに今の俺は12歳だからロリコンじゃない。ロリコンじゃないからな!!
ぼそっと呟かれた一言によって、俺たちは数分ほど口を開けなくなっていた。
しかし、そんなあまあましい雰囲気もぶち壊れることになる。
突如、俺は何か禍々しい気配を感じた。
「ユミ、後ろに来て」
「え」
「早くっ!」
「う、うんっ——」
明らかに近づいてくる気配と嫌な予感。禍々しい何かに俺は生唾を飲み込んだ。
モンスターだろうか、にしてもここの山にいるのはせいぜい中級モンスター程度だ。
中級ならユミの『
いきなりの実践に威張れるほど強いわけではない。しかし、今の俺には守るべき人がいる。それに俺は年上で彼女を冒険者の道に誘い込んだ大元だ。
初めてでも絶対に守らなくては!
「な、なに?」
「静かにっ……近くにいる」
「えっ」
そう言うとユミは少し不安そうに身体を抱えた。
「大丈夫っ、絶対守るからっ」
「っん……」
若干臭かった気がするが、今の俺にはそんなことを気にしている余裕はなかった。腰のベルトにぶら下げたバトルナイフを抜き、戦闘態勢に入る。
自衛隊の人は常に姿勢を低くしてと言っていたが、この場合相手は人間ではない。正直、一か八かだった。
銃は研究台の上。試しに作った
試作一型、その名もスプリングフィールドM1903を模したものだ。M1ガーランドも頭に浮かんだが、ひとまずはとして作ったボルトアクション式ライフル。
どうやら、今の俺には創造スキルのレベルが低いので高機能なものは作れないらしいからな。この前にアサルトライフルのHK416を作ろうとした時、単発発射の銃になってしまったのだ。
これで
ただ、ハンドガンじゃ心もとないし……やるしかない。
——そう思った瞬間。
奴は地中から飛び出してきやがった。
「キュアァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
「きゃあああああああああ‼‼」
「っ——!?」
凄まじい雄たけびと共に、俺とユミの数メートル手前から飛び出してきた。あまりの迫力に動けなくなったが、そのモンスターの大きさは言葉でもできないほどに大きかった。
「ユミっ——下がれ!!」
俺は全力で叫ぶ。
すぐに背中から後ろに下がって、俺はそいつと目を合わせる。
体長は目視で約7メートル。体重は分からないがかなり重そうで、見た目はトカゲが蛇のような尻尾を持っている。色は紫色で普通に気持ち悪かった。
冒険者になるためにそれなりにモンスターのことをミリアさんから教えてもらったつもりなのだが、そのラインナップにはいないモンスターだった。
ただ、大きさからしておそらく中級かそこらだろう。こういう時でもパニックにならず、冷静に、落ち着きながら、確実に殺す。
相手を見くびらず、一瞬で片づけるためにはそれを忘れてはいけない。
震えた腕と脚に深呼吸をして落ち着かせながら力を入れる。
「よしっ——」
ふぅっと息を吐き、俺はユミにこう叫びながらトカゲの脚の下に飛び込んだ。
「ユミは回復魔法と後方支援を頼むっ‼‼ 俺は正面から囮して誘導するっ‼‼‼ やれっ‼‼‼‼」
「分かったぁ!!!!」
そうして、俺とユミの初実践が始まった。
☆ステータス☆
名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)
年齢:12歳
職業:孤児
経緯:転生
固有スキル:創造レベル1
スキル:博識(銃器のみ)、格闘術
魔法属性:無し
魔法レベル:0
名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ
年齢:11歳
職業:孤児
経緯:貴族の捨て子
固有スキル:無詠唱レベル1
スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+1
魔法属性:光、火(光魔法は一部中級、ほかは初級まで)
魔法レベル:1.5
☆作成した武器☆
・M1903 スプリングフィールド(ボルトアクションライフル)
使用弾薬:.30-06スプリングフィールド弾(7.62mm×63mm)、装弾数は5発(クリップ式)、全長1115mm、重量約3.9㎏。アメリカ軍に1903年に正式採用されたライフルである。
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