第5話「ミリアの過去」

 

 ・ミリア・フォン・ツィンベルグの視点


 久々に興奮したかもしれない。


 このストレーア協会孤児院にとんでもない逸材がいたことは考えてもみなかった。


 ここに務めて、はや11年。


 当時はまだ成人したばっかりで冒険者と聖職者の違いにてんやわんやだったけど、なんとかここまでやってきた。


 常に子供たちのミライの事を考えながら、中には才能なんてなくても冒険者を目指してくれるような夢のあるたくましい子はいないだろうかと探し続けてきた。


 そして、ここに務めてから12年目に差し掛かっていた昨日。


 そんな子をようやく見つけることができた。


 彼の名前はカイト・フォン・ツィンベルグ。


 この辺一帯をまとめ上げるストレーア教会孤児院の教祖様の苗字を受け継ぐ、王家に捨てられた可哀想な孤児。


 赤ちゃんの頃から静かで変わり者で、孤児院にある本を読み漁ることが好きで、気味悪がられるくらい頭がいい子だと思っていた。


 ただ、まさかまでとは思っていなかった。


 帝国の血を引いていることも知っていたし、固有ユニークスキルが創造で、そして魔法の属性も皆無。


 連れてきた一端の兵士はとても申し訳そうな顔をしていたが辺境の地でシスターをやっている私でもわかるくらいに一国の王子としては心もとない存在だったのだろう。


 しかし、そんな予想はさながらガラスの様にいとも簡単に砕かれた。


 やはり、噂は噂。


 結局はその人次第なのだと言うことを再確認した。


 司祭様や聖母様も言ってくれていたけど信じて努力する者は必ず報われる。


 踏まえれば、と言う帝国のやり方は非常に愚かだった。


「って……ひとまず、恨んでいることを考えたって仕方がないわね」


 とにかく、彼は凄い。


 途轍もない可能性を秘めている。


 今は辺境の孤児院に匿われている可哀想な子供だけど、磨けば必ず光る原石ダイヤモンドだ。


 いや、伝説のエールナスグレン極宝石かもしれない。


 冒険者になり、いずれこの土地を収める領主となってくれたら少しは負担も軽減するかもしれない。


 この貧乏孤児院にも何かいいことがあるかもしれない。


 この考え方は少しゲスいのかもしれないが神に誓って言いたい。


 彼には冒険者の素質がある。


 あの破壊力を持つ、銃? とやらを使えば上級のモンスターも余裕だろう。冒険者ランク元Bの私よりも上にいけると思う。


「そうね、まずは彼のスキルを伸ばすためにトレーニングをしてもらうことかしらねっ」


 トレーニングをして、とにかく伸ばす。まずはそこからだ。


 いや、あわよくば私も冒険に行くべきだろうか。一応、経験者だし……他の仲間が加わるまでっていうのでもいいかもしれない。


 ……シスターマザーに頼んでみよう。



「少し張り切り過ぎかしらね……でも、彼の人生が薔薇色になる可能性だってあるのだからっ! 私も少しは頑張らないとね!!」







『通信、発動』


 その夜。


 私は教会内にある神の像を前に手を組みながらそう呟いた。


 数秒ほど待つと、辺りを光が包み、目の前にシスターマザーが幽霊のように現れた。


『ん、こんな時間に……あぁ、ミリアじゃないですか、どうしたのです?』


「シスターマザー、こんな時間に申し訳ありませんっ。その……わけあって、ご相談と言いますか……」


『別にいいのよ……私もそこまでしごとがあるわけでもないし、この危機的状況で頑張ってくれているあなたの方が辛いでしょう』


「いえいえ、ただ……なんとも申し上げづらいと言いますかぁ」


『いってみなさい』


「そのですね——」


 と私がカイトくんについての才能を説明した。


 それから、冒険者になり、この地を収めるほどに大きくなってほしいとも詳細を話していく。


 すべて話し終わって、マザーは少し口ごもると——


『そうですね、確かに……彼には創造スキルを使いこなす力もあり、その才能もある。冒険者になるのはおそらく彼には向いている道であると思います……』


「はいっ!」


 ですよねと私も頷いた。


 ただ、マザーは少し間を置いて。


『しかし、彼はまだ12歳ですっ。まだまだ子供で、冒険者になるにはまだ若い』


「で、すが——私も、冒険者を始めたのは同じくらいのっ!」


『確かにそうでしたね。ただ、あなたは冒険に目がないだけです。駄目です。冒険者ギルドは年齢制限を13歳からに設定していますが私はもっと、準備をしてから15歳、16歳あたりの体が出来上がってからではないとないと考えます』


 私が冒険を始めたのはきゅ、いや……13歳からだった。


 それなりに危ないことも潜り抜けてここまでやって来たが、確かにマザーの言っていることは正しかった。


 ただ、なるべく早く始めた方が冒険者として名が売れるのも早い。


『名が売れることは大事ですが、彼の安全、そして未来の方が大事ですよ?』


「んにゃ! ば、バレて……!」


『全シスターの考えていることはすべてわかりますよ?』


「……そ、そうでしたか」


『はははっ……それに、です。冒険者になるためには初級モンスターを討伐しなくてはなりません。13歳にとっては酷ではないのですか?』


 私はその時の回復魔法士の師匠と一緒に倒した。


 ただ、今回は——いや、私が一緒に倒して上げれれば! 


 あの銃? というものがあれば私の力など借りずとも……。


『あなたが共に冒険者をやると?』


「——そ、そうです!!」


『今の人手不足、どうするつもりですか?』


「……そ、それは。なんとか、できないのでしょうか?」


『カイトくんだけではありません。他の子はどうするつもりですか?』


「……な、なんとか……代わりをっ」


『それは難しいです。信徒は多くありませんし、他のシスターも今ので手一杯です』


「で、すよね……」


『ただ』


 私が落ち込んでいると、マザーが一言付け加える。


『ただですよ。もしも、あなたがその未来で、この状況を打破してくれるのであれば……許しましょう』


「い、いいのですか⁉」


『期限は10年ですよ』


「は、はいっ!! 絶対に成し遂げてきます!!」


『……ええ、いいでしょう。今年はとにかく鍛錬し、磨きをかけ、確実に初級モンスター、いえ、中級モンスター以上を倒せるようにしなさい。そして、彼を確実に上級冒険者の身分まで導きなさい』


「は、はい!!」


『あぁ、それと……ユミ・フォン・ツィンベルクも連れて行きなさい。彼女もきっと、役に立つでしょう』


「……分かりました!! ありがとうございます、マザー!!」


『えぇ、では……』


 そう言うと通信魔法はぷつんと切れる。


 とにかく、マザーからの条件付きでの許可はもらった。あとは私がしっかりと彼を連れて行けるようにしなくてはならない。


 それに、最後に言っていたユミちゃんも……もしかしたら、読書ばかりしている彼女もなにか力があるのだろうか……。






☆ステータス☆

名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:12

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル1

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術

魔法属性:無し

魔法レベル:0



☆カイトの作成した武器☆


 ・M1911(自動拳銃ハンドガン

  詳細:アメリカ合衆国のコルト・ファイヤーアームズ社等製造。1911年3月に正式配備され、1985年までの長期間に渡り米軍の正式拳銃として使用された(M1911A1)。全長216mm程度、使用弾薬は.45ACP弾、装弾数は7+1発、シングルアクション、重量1.1kg程度。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る