第34話「ヴォルフの年齢」


「ここは……西大陸の北西部、獣人族が統括する『エルーダの里』だぞ」


 西大陸?


 ん、いや待て? 聞き間違いか?


 そう言ったか? 西大陸だと……そう言ったのか?


 ここは東大陸じゃないのか? いやいやいや、待て……孤児院で読んだ本では西大陸と東大陸とじゃ海によって離れているって話だったはずじゃ? まさか、あれは嘘? それじゃあかなり近場に西大陸があったのか?


 考えても考えても訳が分からなかった。

 混乱が混乱を生んで、今自分がどこにいるかが分からなくなってきた


 まず、だいたいだ。


 根本から分からない。東大陸つについては孤児院の図書室にあった地形書や歴史書で書いてあったから把握しているが西大陸についての話は大昔の世界大戦の話でしか聞いた事がない。


 海があると言うのもその言い伝えのような話の一部である。


 それに、意味が分からなすぎて忘れかけていたが、神様(?)が言っていた困っている人というのはこの人の事だろう。一応、獣人で人の仲間だ。間違ってはいない。


 いや、でもどうして獣人族が人語を話せるんだ? 昔読んだ本にも人語を話す悪魔がいるとか記載されていたがもしかして獣人族を名乗った悪魔なのか? それとも騙されているのか? まだシステナさんの手のひらの上で踊らされているとか……。


 って、駄目だ! それじゃらちが明かない! ひとまずはそこに話を持って行くのはやめておこう。まずは現状を理解しなくては始まらない。動画投稿だってまずは分析から始めたじゃないか。


 だいたい。ここが西大陸なら俺たちは追い出されてもいく当てがない。クロスベリアの元皇子に貴族の娘だ。重荷が過ぎる。あの国なら変ないちゃもん吹っ掛けてここまでやってくる可能性だって十二分にあり得るからな。


 慌てるな、俺はこれでも元大人だ。落ちつけ、落ち着いていこう。深呼吸して……。


 別に知らない種族ってわけでもないんだ。きっと大丈夫だ。


 しっかり聞こう。

 まずはヴォルフさんの話を聞くべきだ。


「おい、どうした?」


「や……は、はい。その西大陸だと聞いてびっくりして」


「びっくり?」


 俺が慌ててそう言い返すとヴォルフさんは驚いた顔を向けてきた。


「お前はこっちの出じゃないのか? 俺は迷子だと思ったんだが……」


「迷子……それはそうですね、こうして意味が分かっていないので」


「んじゃ、どうしたんだ?」


 いや、待て。この感じじゃヴォルフさんは俺たちがどこの出かは知っていないように思われる。本の記述では元々西大陸にいた人族が戦争によって移民として東大陸に来たはずだ。それにより西大陸には人族はいないと言われている。


 もしかしたら、まず俺たちが人間って言うのも知らないんじゃないか?


「俺たちはさっきまでエランゲル小国にいたんです」


「えらんげる…………それは、あれか、東の……?」


「はいっ」


「いや、でもな……それはないだろ? ここはエルーダだぞ?」


「それは俺も分かりませんが……さっきまでエランゲルにいたのは本当です。こっちで寝ているユミも同じです」


「そうか……つまり、お前たちは人間ってことなのか?」


「はい、そうです」


 俺が頷くと彼は少しだけ苦しそうに顔を歪めていた。見つめていると横を向いて「すまん」と一言。どうやら、人間と何かあるらしい。


「まぁ、それはいいか。とにかくお前たちがどうしてここにいるのかってところだな」


「そうですね……俺もちんぷんかんで」


「ははっ。だろうな。こっちには人間はいないからな、一人も」


「——いないんですか?」


「あぁ、いないぞ。というより、こっちでは人間は生きていけないさ」


「生きていけない?」


 そんな言葉に少しびっくりした。


 こっちの大陸では人族、人間にとってあまりよくないものでもあるのだろうか。いや、それなら俺たちはこうやって五体満足でいられるわけがない。


 他の要因があるのか、はたまた……。


「驚いてるな、無理もないだろうけど」


「無理もって……昔は人族の生息域は西大陸だったって聞いたんですけど」


「あぁ、そうだぞ。あの頃は今よりも栄えていて、もっとこう賑やかで活気ある土地だったんだけどな……」


「知ってるんですかっ?」


「無論だ」


 いや、知ってるのか? そんなはずあるわけないだろう。第一次世界大戦はもう1000年以上も前のことだったはずだ。人族を見たことがあるのはとっくのとうに死んでいても何らおかしくない。


 というか、死んでいなくてはおかしいまである。


 ということは……待てよ、まさか――?


「——え、えと、ヴォルフさんはおいくつで?」


「俺か? 俺は1400歳だ」


「——————っえ!?」


 その瞬間、俺は悟った。


 この世界は本当に異世界なのだと。異世界では10世紀も生きられる生物が存在していて、中でも人間は頭は優れているが寿命が短く、短命であることを。














 ――数分後。


「はははっ!!! そうだな、悪かった。俺も忘れていた。人間は1世紀程度しか生きないんだったな」


「び、びっくりですよ……」


「まぁ、あれだぞ? 俺の種族もここまでは生きないぞ?」


「1000歳までってことですか?」


「そうだ。普通は600年くらいで寿命を迎えるが、俺は大昔に色々とあってな」


「……ま、まぁそれはいいですよ。とりあえず、ヴォルフさんが物凄く生きてるのは分かりました」


 おそらく異世界には異世界なりの要因があるのだろう。

 まずは、俺たち人間がどうして生きていけないのかについて聞きだすことにしよう。


「それで、さっきの続き。なんで生きていけないのか、についてだったな————」









※次回は6月1日に更新します。立て続けに大学の試験が続いちゃうのでそれまでお待ちください!





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