第54話「集中砲火」
ユミの中級魔法「
円状の炎が地面から空中に掛けて広がり、中級魔法の中では最大級の火力を持つ魔法。
これが放たれたら作戦2に移行する合図。
実際、作戦2はやらずに済むんじゃないかと思っていたがそうではなかったらしい。
魔法が示すのは「敵の本隊が潜んでいる」ということ。本隊っていうのは司令部とかそう言う意味ではなく、こっちが甚大な被害を得るかもしれない可能性を持つ部隊がいるという意味だ。
だからこそ、悠長にしている時間はない。
『みんな、俺は敵本隊を叩きに行く。このまま戦線を維持して敵を見つけ次第集中砲火してくれ』
「「「「「「了解」」」」」」
『ヴォルフさん、敵本隊が現れました。行きましょう!』
『分かった』
部隊のみんなに指示して指揮を副隊長に任して、俺はヴォルフを待たずに駆け出した。
『ユミ、状況は!!』
『カイト、今集中砲火してる。RPGの弾も奴らの防御魔法がつぎからつぎへど出来て、何回打っても埒が明かなくて中々突破できないのっ‼ 多分魔法使いが10人以上いる! 防御魔法が働いているせいで戦線が維持できなさそう!』
『分かった!』
抜けないわけではないのか。
さすが俺の武器。ただ、奴らも連続攻撃には準備があるらしいな。
それなら、とにかく連射で押し出せば。
いや、違うか。
ユミとRPGに注意を向けさせつつ、後ろからヴォルフの攻撃で防御陣形を妨害してくれれば、そこにMG42が一気に刺さる。
もっと強い火力の高い武器があれば作戦2なんてやらなくて済むんだが……これ以上の武器は生憎と手元にはない。さきの戦いでも分かったがやっぱりこの程度では足りないということだ。
この戦いが終わったら研究をし始めないと。
いずれ作る戦車に向けて、ここでもデータを回収しておかないとだしやりたいことは山積みだ。
それに最悪、絶級以上の魔法に対抗するためには核も考えておかないといけなさそうだしな。インフレが凄そうだ。
とにかく、先の事はいいとしてまずはこの膠着状態を何とかしないければならない。敵の数は残り半分程度。
ヴォルフとユミの魔法の同時攻撃で防御魔法を突破して、β、γ分隊の隊員でそこを叩く。
おそらく、敵部隊は魔法使いの後ろで回復を始めているだろうから、いち早くやらないと前線を下げるしかなくなってしまう。
『ユミ、ヴォルフさんに防御魔法は何とかしてもらう! 部隊の指揮は俺に任せてとにかくやつらの気を引いてくれ!』
『分かった! じゃあ頼むよ、カイト!!』
ぶつっと通信が切れる。
よし、俺はとにかく状況を確認しつつβ分隊の陣地まで走ろう。
すると、一気に俺の横を突破して前線に向かったヴォルフ。流石の身体能力でなんの力もない俺とはまったくと言っていい程スピードが違かった。
そこで、通信魔法でヴォルフに訊ねる。
『ヴォルフさん、あの防御魔法突破できますか?』
『あぁ、もちろんだが、一つ異様だぞ』
『異様? 何がです?』
『上級以上の魔物の匂いがするっ』
『上級以上? というといけますか?』
『この前のやつが上級だ。正直、それとは比べ物にはならない。おそらく下級悪魔クラスだ。悪魔の使いとはまたレベルが違うぞ』
まじか、どうして次から次へとそんな奴らが。
さすが、クロスベリア大帝国だな。根回しは奴らだとは考えていたが能がないわけがないか。奴らも奴らで予想外の敵用に切り札があるってわけか。
ただ、ヴォルフなら。
『いけますか?』
『無論だな』
『じゃあ、俺が打開を引きつくんでそこは頼みますよ!!』
『分かった! 先に行って注意を引いてるぞ!』
そうして、ヴォルフは視界から消えていく。
俺がβ分隊に説明していると大爆発が起きて、木が倒れていく激しさの戦闘が始まった。
さすがヴォルフ。伊達に獣人族を守っているわけじゃない。
俺もあのくらい強くなりたいものだ。
「そんな感じで、頼めるか?」
俺とユミ、そしてヴォルフで奴らの防御魔法と敵の注意を何とかするからとにかく魔法使いと回復士がいる場所へ集中砲火してくれと指示を出した。
指示を終えて再び離れ走り出し、肩にかけっぱなしにしていたHK416を収納魔法で空間上に仕舞う。
今度は身軽さと攻撃力の組み合わせの方が行けると踏んで、グロック19を腰につけ、レミントンM870に弾を込めてリロードする。
側面から回り込んで、防御魔法の陣地内に入り込み魔法使いを射殺する。
俺がやるべきことはたったそれだけだ。
ようやく俺もこの戦いに参加できる。
なんとなく、第二次大戦のアメリカ軍の若い兵士が早く戦地に行きたいと思う気持ちが何となくだけ分かった気がするな。
緊張はするけども。
よし、いくか。
息を吸って吐いてを繰り返し、目を見開いて闇夜に紛れて走り出した。
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