第14話「出発:小国エランゲルへ」


 修行を始めて数か月が経った。

 

 あれから色々と訓練や修行を経て、俺の方は創造レベルが1上がり、ついにアサルトライフルなどの連射性能と威力が上がった銃器を作ることができるようになってきた。


 まだまだ試射もしていないし、調整が必須だがこれからの戦闘にも活かせそうで期待したい。


 また、ユミの方も光、火魔法の中級魔法がすべて使えるようになったことに加えて、その他の水、土、闇魔法の初級魔法がすべて扱えるようになったと聞いている。


 これで魔法レベルも3に上がり、遂にシステナさんとも並んだらしい。


 しかし、それのせいか、少しだけシステナさんからの当たりがきつい。流石にとばっちりすぎて嫌だが、俺も俺で逆らえるわけではない。


 ただ……銀髪碧眼の美人なお姉さんにこうも手厚くいじめられるのは嬉しいというか、案外新感覚だった。



 いや勘違いしないでくれ、俺は別にドMじゃないから!


  まぁ、しかしシステナさんには同情できる。


 人間が全力で10年かけてやることを彼女はたったの2年でやり遂げるのだから、目も当てられない。俺なんて最近ようやく闇の初級魔法が使えるようになったんだから。



 そんなこんなで俺は今、本日3度目となるシステナさんとの一対一の試合を行なっていた。


「ったぁ‼‼」


「っまだまだ!」


 俺が右に身体をくねらせながら、システナさんの一突きを交わす。くるっと回って蹴りを決め、システナさんを反対側までくるっと飛ばし、しっかりと着地を決めた。


 よし、しっかりと入った。多少は効いてくれているといいな。


 俺は口角を上げて数メートル先でお腹を抑える彼女に言う。


「システナさんも最近は詰めが甘いですねっ」


「っとぉ、言ってくれるじゃないのぉ?」


「ははは……ユミは凄いから俺も悲しくなりますけど、仕方ないですよ……」


「こちとら先輩としての威厳がないのよっ!」


 ギュン――――と音を立て、彼女は一瞬で俺の懐に入ってくる。


 最近は俺もついて行けるようになり、システナさんに攻撃できるようになったことで彼女の固有スキル「神速」を使われまくっている。


 俺の周りをぐるりと一周し、彼女は拳を構えながら胸に向かって一打。それが見えた俺は両手でガードし、受け身を取って懐へ潜り込む。


「あさいっ‼‼」


 しかし、それが見切られていたようで背中から一瞬で体の向きを変えた彼女の神速の蹴りが顔面へ突き刺さる。


「ぐはぁっ――」


 すんでのところで上でを構えたためにダイレクトに当たることはなかったがその勢いで横に生えていた木に背中を殴打した。


 腰をすりすりしている俺に駆け寄ってシステナさんは手を引いた。


「ふぅ……まだまだなのはカイトくんの方よ!」


「たたたた……ほんと、容赦がないですよっ」


「ははっ、最近はカイトくんにも気が抜けないからねっ。もっと頑張らないとっ」


「魔法ではユミに負けましたもんね~~」


 ニヤニヤしながらいじると彼女は「もうっ‼‼」と女の子らしく悔しそうな声をあげる。


「まだ並んだだけよ!! 私がまだまだ上ねっ」


「負けず嫌いですね~~」


「あったりまえじゃない! 最近は上級魔法の研究だってしてるし、これでいつか大尉、いや少将以上に任命されるかもだからね!」


「いやぁ、ユミもそのうち絶級とか使えるようになりますかもよ?」


 今の調子ならその可能性は大ありだ。


「またぁ、カイトくんは分かってないね魔法の事がっ。上級から難しさは格段と上がるのよ、絶級はこの世界の上級冒険者や聖騎士の中でも使えるのは片手で数えられるほどだわ。彼らも極めるのに20年以上はかかっているし、そう簡単にはいかないわよ」


「へぇ……そう考えると凄いんですね」


「えぇ、もちろんね。だから私も上級魔法からとん挫しているわけ。上級魔法でさえ、帝国の軍で使えるものは5人程度だわ」


「え、まじすか!」


「当たり前よ。知らなかった?」


「は、はい……」


 いやはや、真面目に驚いた。上級魔法がそれほどに難しいものだとは知りもしなかった。絶級、そして神の御業なら何となく分かっていたつもりだがそこまでに難しいものなのか。


 自分があまり上達しないのは属性やレベルが皆無だから仕方ないとはいえ、近くにどんどんと成長していく魔法士がいるものだから感覚がくるっていたのだろうか。


「ほんと……ユミちゃんはどうして捨てられたのか、分からないわねっ」


「あはは……それは確かに」


「君も言えないわよ?」


「っ——え、は、はい」


 最近は没頭するあまり忘れていたが一応俺は元王族。もしかしたら命を狙われる立場にいる。それに、この武器や強さ、ユミの事でバレたりでもすれば確実に大ごとになる。それは避けないとな。


「んじゃ、とりあえずご飯でも食べて午後も訓練していくわよっ」


「……」


「どうしたの? 返事は?」


「は、はい教官っ!」


「よろしい、じゃあ行くわよ」


 そうして、俺たちは彼女の後ろについて行く形で食堂へ向かった。



 にしても……戦っている最中に揺れてたシステナさんの巨乳は最高だったなぁ。







・システナの視点



 私が昼食をとっている間に、軍からの通信魔法で私の元に一通の伝令が届いた。


『エランゲルで拉致被害者、直ちに救出せよ。中尉が一番近い距離にいる。幸運を祈る』


 いかにも短い伝令で少し疑ったが、その最後に記されていた名前には見覚えがあった。


『ルゲイオーガ少将より伝達』


 ルギィ少将……昔、私が聖騎士軍の教育機関である聖流魔法大学で勉学を取っていたときの先輩からのものだった。彼は筋骨隆々で頭も切れる。ましては帝国で5人程度しかいない上級魔法の使い手でもあり、帝国の中では指折りの強者。


 そんな人間、ましては私の直属の上司からの伝令とあらば無視はできなかった。


 それにミリアからお金をもらっているとはいえ、この仕事は休暇中にしていることでプライベートだ。もちろん軍には伝えていない。


 しかし、こっちの任務は確実に優先しなくてはならない任務だ。今戦争状態にある隣国エランゲル小国に国の要人が拉致されたらしい。


 そんな言葉に悩ませていると後ろの方から、カイト君が声を掛けたきた。


「きょ、教官っ……顔色悪くないですか? 大丈夫ですか?」


「——え、あ、あぁ大丈夫だっ」


 いやはや、にしても……子供に心配させるわけにはいかない。夜中にでも抜け出して一人で肩を付ける。私の中隊の隊員も呼びたいところだが、皆の故郷は全くの真逆。近くの村の兵士を呼んでもいいが、あれは名ばかりで足手まといにしかならない。


「何か困ってるなら俺、手伝いますよ」


 私が悩ませていると彼は普通にそう言った。

 相手は政治的な拉致加害者。軍の特殊部隊、いやもしかしたら上級冒険者の軍団かもしれない。それに、潜入するのに魔物の森を超える必要もあるし、平原で敵に会えば終わる可能性もある。


 圧倒的に火力と射程範囲のをほこる武器があれば。


 あれば……。


 ん?


 圧倒的な火力、そして圧倒的な範囲。


 そんな武器を持っている人がここにいるではないか!!


「なぁ、カイト君」


「な、なんでしょう?」


「特別な修行になるが、手伝ってもらってもいいだろうか?」


「っ……特別?」


「あぁ、ユミには酷だから君だけに頼みたい」


「俺だけ……じゃ、じゃあ話でも」


「おう、ありがたい」





「————たなわけだ」


 私が真剣に話していくとカイト君の顔はみるみると晴れていき、挙句の果てには鼻を鳴らして私にしがみついてくるばかりに嬉しそうな表情を浮かべていた。


「あ、あの……どうしてそんな嬉しそうなんだ?」


「え——ん、いやいやそんなまさか!! 痛ましい事件で何よりと言うか……」


「そ、そうか?」


「はいっ!! それに是非同行させてくださいっ!!」


「お、おい……どうしてそんな嬉しそうなんだ。話は聞いていたよな? 特別な修業で、なにより死ぬ危険もあるかもしれないぞ」


「でも行きたいです!!」


 頼んでいる側として言うのは何だが、こんなの修行ではなく実践だ。私とて冒険者を目指す一般人でさらには子供に手伝ってもらうのは心苦しい、というかしたくはない。


 しかし、私一人では正直この件はどうにもならない。できないなら断ることもできるが……帝国の存続と威厳もかかっている。


「ほ、本当にか? 私も守ってやれないかも知れないぞ!」


「それでもです!!」


「そ、そうか……ならありがたく請け負ってもらおう」


 結局、彼は折れることもなく連れて行くことに決まったのだった。




☆ステータス☆


名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)

年齢:13歳

職業:孤児

経緯:転生

固有スキル:創造レベル3

スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り、

魔法属性:無し

魔法レベル:1



名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ

年齢:12歳

職業:孤児

経緯:貴族の捨て子

固有スキル:無詠唱レベル2

スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り

魔法属性:光、火(中級すべて)

魔法レベル:3


 



 システナさんは天然です。どうか許してやってください。




 

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