第52話「D-DAY」
早朝、俺たちは朝日が上がると共に起き上がった。
目が覚めると守備兵の皆皆は訓練をしていて、ヴォルフや獣人族の民兵も談笑をしながら朝食をとっているのが見受けられる。
まさに戦争、戦いの前の雰囲気では完璧だった。
「ふぅ、俺も準備するか」
齢13と30年弱。
ここまで緊張していて、不安もあって、でもそれでいて高揚感のある不思議な朝は初めてだった。
久々に銃を抱き枕にして寝たけど、なんかうん、良かったね。
いつかはユミを抱きしめながら寝てみたいけど、こういう戦いの最中って言うのがかなりいい。
思えば転生する前の人生で一度第二次世界大戦サバゲ―をしたこともあった。あの時は半分遊びでやっていたけど、生憎と今日は実銃だし、本当の闘いだ。
規模的に考えたらかなり大きな戦場だし、相手は侵略者で、こっちは防衛線を引いて――なんて昔頭の中で考えてきた戦闘そのものだった。
あの時の様子と違うのは世界中の武器が敵味方関係なく仲間になり、力を合わせている所だ。今回の武器はどっちかというとドイツ製が多いが、使っている国はアメリカ、ドイツと昔の敵国同士。
なんか、胸アツ展開だな。
そんな妄想をしている所でユミも寝起きボサボサの格好で俺の元にやってくる。
「うぅ……ねむぃ」
「緊張感ないなぁ、ユミは」
「だって、朝は苦手……」
昨日はあそこまで俺を慰めて鼓舞してくれたと言うのに、まるであれが嘘だったようだ。
まぁ、戦場にもたまにはこういう光景があるだろうし、悪くはない。むしろ心が和む。
そして、この顔を守りたい。
今ようやく「この笑顔、守りたい」の真意がわかって気がする。
「ほら、着替えて体洗ってこい。ご飯も獣人族のお母さんたちが配ってくれているから」
「うん……いく」
「おう、いってこい」
背中を押すと眠そうに欠伸をしながら外に出るユミ。
「おいおいおい、服着ろって!」
「あぁ、うん……」
ふぅ、まったく。
女の子なんだから、そう言うところは気にしてほしい。
気にする時もあるけど、朝は寝ぼけてるのか気にしないからなこの子は。
って、俺はいつからユミの親になったんだか。
「よし、俺も準備をしよう」
顔を洗い、朝食を食べて、戦闘服に着替える。
最近は戦闘服よりも獣人族から貰った魔物の毛皮服ばかり着ていたから久し振りだ。
うん、この匂いとこのオーラ。
やっぱり戦闘には迷彩柄が一番いいな。
着替えて上から東大陸のエランゲルで買った対魔法耐性のマントを羽織って、肩にHK416を担いで外に出る。
すると、徐々に緊張感が溢れ始めていた。
さっきまで寝ぼけていたユミも杖にローブの魔法使いスタイルで、イメトレをしているのか中級魔法の構えでどうするかをブツブツと呟いている。
ああいうところは会った時とあまり変わらなくて可愛いな。
よし、俺もあのキスに、ここにいる獣人族の皆のためにも――全身全霊を掛けて戦おう。
そして、数時間後。
偵察に出ていたヴォルフからユミが扱う通信魔法で連絡が入る。
『カイト、ユミ、聞こえてるか?』
「「はい」」
『今、動きがあった。おそらく1時間以内に射程内までやってくるぞ』
強張った声に俺は生唾を飲み込んだ。
しかし、そこでユミがギュッと手を握ってきて笑みを浮かべた。
「はい、わかりました。こっちも準備を整えます」
『あぁ、頼む。お前の銃とやらの凄さをあの何もわかってない馬鹿どもに見せつけてくれ』
馬鹿どもか、良い響きだ。
昔、サバゲ―で考えた台詞がパッと思い浮かんでじわじわとくる高揚感と共にぶつける。
「もちろんですとも。あの能無しの賊軍に戦争の恐ろしさをぶつけてやりますわ、少尉!」
『——ははっ、似たようなことを言うなぁ』
「えぇ、大和男児の魂見せつけてやりますよ!!!」
『おう、頼んだ』
ぶつ。
ユミが若干首を傾げていたがいつものことだな。
ということで俺たちは数十分ほどかけて配置についた。それぞれの隊の隊長にユミの通信魔法が付与されたオブジェを持たせ、準備確認をしていく。
「こちらα分隊、準備完了したか。送れ」
『こちらβ、完了した。送れ』
『こちらγ、大丈夫だ。送れ』
『こちら突撃、完了したぞ。送れ』
『ヴォルフだ、大丈夫だ。送れ』
「了解。銃撃準備をして待機。射撃指示はこちらから送る。合図とともにβ、γに射撃開始せよ、送れ」
『β了解』
『γ了解』
『突撃了解』
『ヴォルフだ、了解』
「以上だ、終わり」
さてさて、そろそろだな。
「残り1000メートルを突破」
息を飲む声がする。
「残り900メートルを突破」
マガジンをはめ込む音がする。
「残り800メートルを突破」
安全装置を外す音がする。
「残り700メートルを突破」
深呼吸をする声がする。
「残り600メートルを突破」
心臓が高鳴る音がする。
「残り500メートルを突破」
「残り400メートルを突破」
エリカが恋しいと思う者がいた。
「残り300メートルを突破」
主の心理を進みゆく者もいた。
「残り200メートルを突破」
あばよ相棒と嘆くものがいた。
ただいま家族と言いたかったものもいた。
「残り100メートルを突破」
皆が息を吐き、そして構える。
始まる銃声を、高鳴る心意気を、信じる正義を。
すべてを込めた、己のすべてを掛けて、故郷を守るための戦いが幕を開ける。
「射撃開始!!!!!!!」
D-DAY
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