第13話「VS聖騎士お姉さん」
結局、その日のうちは適当に話し合うことだけでお互いを知るということだけで終わった。
俺たちはシステナさんがどういう経緯で聖騎士になったのか、そして同年代のミリアさんとの関係はどんな物なのかを聞き、帰路に着いたのだった。
そして、翌日。
俺たちの訓練、いや修行が始まった。
まずは俺とユミの基礎武術の確認。ユミの方も走れないとはいえ、魔法を使えば足を動かさずともかなり動くことが可能なためそれの練習を踏まえてということだった。
システナさんとの1対1の勝負で、ユミは身体支援魔法を使ってもいいとのこと。二人がお互いを見据えて数メートルほど離れて戦闘態勢に入ったところで、俺はやや後ろから眺めることにした。
「じゃ、じゃあ……いきますっ」
「おう、かかってきな!」
システナさんは腰に携えた聖剣を床に突き刺し、甲冑を外してユミが来るのを構える。
ユミの方も一度深呼吸して、目を見開くと光の初級魔法『
正直、その瞬間に勝負はついていた。
「たぁああああああ‼‼」
「おっと、動きがとろいよぉ!!」
勿論、相手は聖騎士軍の中隊を指揮する手前弱いわけがない。ユミの猪突猛進な一撃をすんなりと交わし、挙句の果てには交わして一発ユミの腹元に拳が突き刺さる。
「っぐぇ……!?」
「ほらほら、もっと動かないとぉ!」
ユミが苦しそうに声をあげ、受け身を取りながら地面に転がっていく。モンスター相手とは違う実践になかなか慣れていないのか、難しそうだった。
にしても、システナさんは容赦がない。自分が女性であるがために相手が子供で、さらに女の子でも一切の躊躇がなかった。俺の番になったらもっとやってきそうだし、俺も殺す気でかからないとヤバそうだ。
「っ——」
転がったユミは何とか立ち上がり、今度は頭を使いながら様々な身体支援魔法を自らに掛けていく。
『
光の初級魔法で足が速くなるものだった。突如、消えるようにして光翼を生やして飛ぶユミの動きが凄まじく早くなり、ビュンビュンと音を立てながら目にもとまらぬ速さで加速する。
システナさんを囲むようにして飛び回りながら何回か突進しては交わされを繰り返していた。
「んっと……あぶあぶぅ!」
「っく!」
「ほらっ——まだまだ追えるぞ~~‼‼」
「ったぁ‼」
突っ込んでは受け身を取って、再び飛び回りを繰り返すがシステナさんにはまったくと言っていいほど当たらない。そこで、少しだけ冷静さを欠いたユミが大してスピードを付けずに拳を振り下ろしながら突っ込んだ。
「おっとぉ、いいのかぁ!!」
システナさんは満面の笑みで、空中に飛んで交わし――くるっと一回転しながらユミの背中をガシリと掴んで地面にたたきつける。
「——ぐはっ!!」
「っと!」
そのまま、試合終了。
圧倒的な試合展開だった。ユミはありとあらゆる手を使いながら全力で動き戦っていたがシステナさんの方はまったくと言っていいほど動いていなかった。
ほとんどの攻撃をその場で交わしながら、その場で駆け引きし、その場で決め込む。戦いと言っていいのか分からないほどに圧倒されているものだった。
とはいえ、ユミの方もよくやっていたと思う。足が使えないために魔法をふんだんに使いながら飛び回り試合を運んでいった。彼女なりの彼女だけの戦法で戦っていたが相手が本当に悪かった。
今日の敵は帝国の聖騎士様だ。俺も帝都の城にいた時は窓からその戦いっぷりを見ていたから少しは分かる。戦い方が違いすぎる。初級モンスターとしか戦っていなかった俺たちとは差が歴然だった。しっかりと人間の動き方を熟知している。それも魔法を使った相手をだ。
俺には出来ないことをいとも簡単にシステナさんはやっていた。今のユミと丸腰で戦ったら俺なんかすぐにやられるだろうに。
「……すごい」
思わず呟くとシステナさんが気付いて——
「そんなこと言っているけど、次は君だぜ?」
「え、あぁ……そうですねっ」
「はは~~ん、その調子で大丈夫かなぁ? お姉さん、子供でも容赦しないし、めっちゃ強いよ?」
「それはさすがに……まぁでも、頑張ります」
そう言って俺は疲れてへたり込むユミをこの前創造スキルで作ったベンチに座らせる。
「よく頑張ったな、成長してると思うぞ」
「——全然だった、お世辞は良いわ」
「お世辞じゃない。俺よりも年下で、走れない身体なのによく頑張ったよ。相手が悪かっただけだ」
「……でも、まだまだっ」
「まぁ、それはそうかもな。一緒に頑張ろうぜ」
俯いて悲しげにしているユミの頭をこつんと叩き、俺はシステナさんと対峙する。
足首を回し、その場で数回飛び跳ねて軽く準備運動し、俺は自衛隊の人に教わった格闘術を思い出し、手を構える。
「お、様になってるねぇ……」
「まぁ、習ってましたから」
「じゃあ、こっちも本気でいこうかなっ——」
「はいっ、お願いしますっ————!」
先手必勝、魔法も、スキルもない。ただの技。
俺は体に沁み込んだ技を確実に決めるだけ。
相手を警戒しつつ、距離を取りつつ……一気に片をつける。
システナさんがキュッと動いた隙をつき、俺は一発拳を腹に決め込む。
「っ——!」
「うぉ!」
しかし、寸でのところで身体をくねらせて交わされて、その反動で回した足を俺の膝に当てる。
「かっ」
遠心力の付いた攻撃に俺の脚はぐらっと揺れて、体勢が崩れる。
一瞬、視界の端でシステナさんがとどめを刺そうと足と腕を動かしているのが見えて危険を感じた俺は地面を大きく蹴ってその場から全力で離れた。
「っお! 逃げられたかっ」
「……戦略的撤退ですっ」
「ははっ! よく言うね、いいねぇ、センスあるよぉ! その年で私とここまで渡り歩けるのは凄いことだ!」
キュッと身体を反転させ、彼女はすさまじい速さで突進してくる。
あまりにもおかしな動きに俺は重心がずれたが倒れるようにして、数ミリ単位のところで交わす。
「っ⁉」
「いいねぇ!!!」
余裕そうな顔。
まさに蟻と蜂。
雲泥の差を感じ、10分以上による一方的な防戦に持ち込まれた俺は体力的に為替無くなって一撃を食らい、ダウンしてしまったのだった。
その場に倒れ込み、ぜぇぜぇと息をあげている俺に駆け寄ってくるユミ。俺の汗だくな顔を覗きながら心配そうな顔をしていて、右手を掴んで訊ねてくる。
「だ、大丈夫?」
「ん、あぁ……だいじょ、うぶっ」
俺が息をあげながらそう言うと少しは安心してくれたようで肩を撫でおろす。
そこで、彼女の後ろからやって来たシステナさんはニコニコと楽しそうな笑みを浮かべながら肩を叩いた。
「はははっ‼‼‼‼ いやぁ、君凄いね、ほんとにっ!」
「っ——し、システナさんこそ、すごいで、す」
「そんなことないって!! 君だって、13才だろ? 凄すぎだよ! 私の中隊の部下で私と互角に渡り合えるのは副隊長の一人だけっ。歳を考えたら10分も耐えた君は凄すぎだって!」
興奮気味に語ってくるシステナさんのその姿はまさに冒険者について話すときのミリアさんの様だった。
「そうだねっ……君さ、やっぱり入らないかい?」
「……入りませんっ」
「あちゃぁ~~なら仕方ないか!」
何度も誘ってくるが俺は入るつもりはない。そんな彼女にジト目を向けるユミに気づき、「こほん」と喉をならし、再び俺の目をみてこう言った。
「でもっ——スキルと言い、対人戦と言い、君はかなり才能がある。カイトくん、だよね? よし、カイト! 君が冒険者になるまでの一年間と少し、私がしっかりと見届けてあげる!」
「えっ——半年じゃ」
「いいのいいの! 私の隊は当分休暇だし、その間はボランティアでやってあげる! それに、ユミちゃんも足が駄目なのにあそこまで思いきれるのは肝が据わってるよ! 君も見てあげる!」
「そ、い、いいんですか……?」
「あぁ、もちろんね! ミリアには私から話しておくから、ユミ回復魔法掛けておいてね」
「は、はい!!」
そうして、システナさんは俺たちに武術と魔法の使い方を教えてくれることになった。
とはいえ、システナさんが中隊長でこの強さだと考えるとさらに上の上官はどれほどの強さなのか考えたくもないな。
☆ステータス☆
名前:カイト・フォン・ツィンベルグ(旧姓:カイト・ストルベ・クロスべリア)
年齢:13歳
職業:孤児
経緯:転生
固有スキル:創造レベル2
スキル:博識(銃器のみ)、格闘術、思い切り
魔法属性:無し
魔法レベル:0
名前:ユミ・フォン・ツィンベルグ
年齢:12歳
職業:孤児
経緯:貴族の捨て子
固有スキル:無詠唱レベル1
スキル:博識、潜伏、攻撃魔法+3、属性外魔法適性、思い切り
魔法属性:光、火(光魔法は中級、火魔法もほぼ中級まで)
魔法レベル:2
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