第43話「悪魔の使い」
俺がようやく奴隷商人の手先を全員始末したところで、背後数十メートルの場所から悲鳴が聞こえてきた。
慌てて振り向くとそこにはボロボロになり大樹の根に背中を預けたまま倒れているユミがいた。
「お、おい! 大丈夫か!」
声をかけるが返答はない。
倒れるユミの後頭部に手を回すと出血していた。
即座に思う。
これはやばい、と。脳震盪か衝撃のショックで気を失っている。それに出血が止まらない。今すぐ治癒しなければ死んでしまう可能性がある凄まじい傷だった。
「っち、どうしたら……」
生憎と俺は治癒系の魔法が使えない。腰に携えてある数少ないポーションを使わざるおえない状況に考えている暇はなかった。
キャップを開けて傷口や口に一気に注ぎ込む。
「おい、ユミ!! 大丈夫か‼‼ 目を覚ませっ‼‼」
「っ……」
肩を叩きながら、いつしかの自動車教習所で習った応急処置の仕方を試す。
すると、喉が詰まったようにビクッと肩が跳ねた。
「がっ……ごほっ!!」
「だ、大丈夫か‼‼」
「か……ぁ、ぃと……っ」
「お、俺だ! お前、どうしてこんな! 奴らは⁉」
いきなりで申し訳なかったが事態は急を要する。しかし、そう聞いた瞬間、ユミは何か思い出したかのように背中を起こして俺の肩をがっつりと掴んで離さない。
「か、カイト!!! やばい!!」
必死な形相で語り掛ける彼女。
一体何がと、周りを見渡しても何の脅威もないように見える。
ただ、一つ不可解があると言えば奥に見えるユミが戦っていた奴らの馬車に乗っていた子供たちがビクビクと震えていることだった。
いや、普通に誘拐されれば怖いから震えるんじゃないのか。それなら別に変っているわけではないのだが……。
そう考えてもおかしくない状況で、ただユミがここまで追い込まれているということ。
そして何よりも壮絶な表情で肩を揺らす彼女。
一体何が何だか分からなかった。
「な、なにが——」
そうユミに訊ねた刹那だった。
ドォオオオオオオオオオオオオンンンン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
爆音だった。
まるでミサイルでも近くに落ちたかのように轟音と何かの雄たけびが地面を、森も、そして俺の耳を抉る様に響いていく。
一気に風向きが変わり、立っているのがやっとだった。
一体何が起こった?
真面目に隕石でも落ちたのか? この近くに?
それじゃ、ここには宇宙があって、惑星と言う概念があるのか?
なんて——怖くならないようにと考えを巡らせている自分に驚いたくらいだ。
背筋が凍る。
後ろに何かがいる。
「ぅご……」
ごそっと足首をユミに捕まれ、何かヤバいものを見ている目で何かを言おうとしている。
「う……ごぃ、ちゃ……だ、めぇ……」
「っ⁉」
動くな。
そう言われて勝手に動きが止まる。
恐怖故のものなのか、意識して止めているのか――もはや区別などつかない。ただ分かるのは俺の背中、そしてそのすぐそばで何かヤバいものがいると言うことだけ。
「っく……」
思わず死を悟る。
さすがにずるいぞ、これは。
人を助けたと思えば冤罪を吹っ掛けられて、助けようと思ったら化け物にやられて死ぬと言うのか?
馬鹿馬鹿しいだろ、さすがに運がなさすぎる。
この異世界に来てから何度目の死の恐怖か分からなかったが受け入れざる負えない。
——————フスゥゥゥゥッ。
耳元で鼻声がひびく。
距離にしておそらく3メートルもないだろう。
匂いを嗅いでいるということは獲物を探っているのか。
って、俺って獲物なんだよな……クソっ。
状況は何度言っても最悪だった。
ここまで来てあれだが、ヴォルフさんに助けてもらいたいっていうのが本音だ。
「っち……くそぉ」
———————フゴォォォォォォォ‼
鼻息が荒れる。
突如として奴は走り出した。こっち見て正面にいる奴隷商人の手先の死骸を見つけ、背中側から正面に姿を現した。
目に映った化け物は異様だった。
シルエットはサルと犬を足して二で割った感じだが、迫力は大いに違う。目視でおそらく10メートルはあるだろうか。手には大きなかぎ爪を備えて、口からはみ出るとてつもなく大きな牙。
瞳はドラゴンのそれで、覇気だけでもそこらへんの冒険者ならチビって逃げ出したくなるような鋭さだった。
一目見て思う。
これは勝てない。
文明の利器は亜人や人には有効でも、異世界の化け物に勝てるわけではないと試してもいないのにひしひしと伝わってくる。
禍々しい何かを感じるその姿はまさに悪魔。
鳥肌が立ち、本能が逃げろと叫んでいる。
しかしまぁ、生憎とユミを置いて逃げることはできない。少なくともユミが回復して空を飛んで逃げる時間は稼がなくてはいけない。
後ろは商人の生き残りに、目の前には化け物。
ゴクリと生唾を飲むと、そばに横たわっている亜人の女が何か呟いた。
「——に、げて」
人族の言葉だった。
ただ、なんで喋れるのか――なんて聞いている暇はない。
すると続けて——
「——あ、あくま……の……つか、いよ……」
悪魔の使い?
その言葉を聞いて俺はハッとした。
昔、孤児院で読んだ書物の中に悪魔の話もあった気がする。
3人と勇者と共に歴史で名をはせた7人の悪魔がいると。
詳細は覚えていないが今は各国家で厳重に保管されていると書いてあった気がする。なにも解き放てば飢饉が置き、世界大戦に陥るほどにスケールがでかい。おそらく俺のいた世界で言う原子爆弾のような存在なのだろうか。
とにかくだ。
どっちみち、その元凶が何にせよ。このままだと全滅だった。
商人の手先共を素通して死骸を漁っている姿を見るにおそらく飼いならされているようだし、俺たちの敵であることは間違いない。
このまま死ぬのなら——一矢報いるべきだろう。
「ふぅ……っち」
痰を吐き捨てて、俺はユミに一言告げて立ち上がる。
「ユミ、回復したら飛んで逃げろ」
思い立ったら即行動、それがモットーだった元ゲーム実況者の頃を思い出せ。
拳を握り締め、手元に取り出したのはSTANAGマガジン。ゆっくりと装填し、もう一つレミントンM870を背中に取り付ける。念のため腰元に檻の中でぱっと考え付いたグレネードを括りつけ、デザートイーグルをくっ付ける。
適切な装備なのかは分からないが、今は持ち合わせでなんとかするしかない。
考えて取り出すのも時間がかかるわけで——っ
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
そして、その瞬間。
悪魔の使いとやらは雄たけびをあげて俺の方に突っ込んできた。
☆カイトの作った武器☆
・レミントンM870
アメリカのレミントン・アームズ社がM31の後継として開発したポンプアクション式ショットガン。12ゲージ、5発内臓。比較的高火力。
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