第33話黒幕

「ところで貴方達、前に会った時と人が変わりすぎじゃない? 何があったのかしら?」


 私は二人の以前との変わりようが気になり、聞いてみることにした。


「特に何があったという訳でも……——そういえば、怪しい女から貰った薬を飲んで、恐怖心が消えて……!? 私、キリカ様に大変な失礼を!」

「気にしてないから謝罪は要りません。怪しい女か……グレープさんはどうかしら? 怪しい女に心当たりはあるかしら?」


 自分の失態に気が付いたローズが謝罪してきてるけど、私は気にしてないから大丈夫だよ。

 そんなに頭を下げないでくれ。

 それより何か情報を持ってないのか?


「はい、私も綺麗な女性に気持ちが楽になると言われて薬を貰って、飲んでからの記憶が曖昧なんですが……確か、カラスの濡羽色って言うんですかね? 艶のある綺麗な黒髪の女性でした」

「……ありがとう、参考になったわ」


 私は少し遠い記憶になったプリデスの記憶を引っ張り出して考える。

 カラスの濡羽色……綺麗な女性……間違いない、ケルベロスのドーベルだ。


 ドーベルは三人いるケルベロス大幹部の一人なんだけど、大体のルートで他の大幹部を蹴落として首領になり、ラスボスとして主人公達と戦うことになる。

 キリカもルートによってはラスボスになるんだけど、公式ではラスボスと言えばドーベルを指すんだよね。

 まだ学院在学中なのに、何て厄介な奴が出てくるのよ。


「どうしたのキリカちゃん、その女性に心当たりがあるの?」


 考え込んでいる私を見て、エルカちゃんが聞いてきた。


「たぶんケルベロスの仕業だと思う。それも、厄介なことに大幹部のドーベルが関わってそうなのよ」

「そうなんだ。そこまでわかるだなんて、キリカちゃんは博識だね」

「う……うん、ケルベロスの中でもドーベルは有名だからね。私の家にも情報が入ってきてるんだ。あの大幹部ドーベルが王国を狙ってやってきてるぞってね」

「そうなんだ。さすがはフローズン公爵家だね」


 危ない危ない、ドーベルは世間一般では有名じゃなかったよ。

 寧ろ正体を隠して暗躍するタイプの悪役だった。

 そんな人物を私が知ってたらおかしい、上手くごまかせて良かったよ。


 後ろでマリーが「まさかドーベルが……でもドーベルはラスボスなのでは……?」とかぶつぶつ言ってる。

 あれ? マリーも知ってるなんて、もしかしてドーベルって私が知らないだけで意外と有名人なのかな?


 とにかく、今日は働きすぎて疲れたよ。

 今後のドーベル対策は帰ってから考えよう。

 今は早く帰ってエミリアが淹れてくれる美味しいお茶が飲みたいわ。


 騒動の多かった一日で生徒会メンバーにも疲労が溜まり、負傷したメンバーも出た。

 今後の対策は翌日話し合うことになり私達は解散するのだった。






 翌日、学院にやってくると、いつもより明らかに登校する生徒の数が少なくなっていた。

 何でだろ? 昨日の抗争で負傷者がいっぱい出たからかな?


 放課後、会議の為に生徒会室に行くが、集まったのは私とエルカちゃん、それにヴィクトリアだけだった。


「もう! こんな一大事になんでみんなこないのよ!」


 出席しないメンバーにヴィクトリアが憤慨しているけど、昨日の騒動で生徒会メンバーにも負傷者が出てるからなあ。


「しょうがないわね。三人で対策を練りましょう。二人は何か案はあるかしら?」


 気を取り直して三人で会議を開始することにしたヴィクトリアが案を求めてきた。

 ふっふっふ、私は昨日家に帰ってからちゃんと考えてきたよ。

 結構忘れかけてるプリデスの記憶を思い出して対策を練ってきたんだ。


「私の調べでは、おそらく敵はケルベロスの大幹部ドーベルです」

「えっ!? 何でそんなことをキリカさんが知ってるの?」

「詳しくは言えませんが、フローズン家の情報網を駆使しました」

「そうなの? さすがはキリカさんね。頼りになるわ」


 フローズン公爵家の名前を出せば大抵の事は納得してもらえるんだから、こんな時はお貴族様も便利ね。


「そこでヴィクトリア様の出番ですよ。ヴィクトリア様の探知魔法は相手の特徴さえわかれば物でも人でも探し出せると有名です。このまま守勢に回っていてはこちらが不利です。奴らのアジトに攻め込むんです」

「そうね……魔法学院に手を出す事の愚かさを教えてやりましょう。……でも、私達三人だけでやるの? いくらキリカさんが強くても、さすがにきつくない?」


 う~ん、私的には雑魚が何人いようがへでもないんだけど、ヴィクトリアやエルカちゃんに心配はかけられないしなぁ。

 私がどうするか悩んでいると、生徒会室の扉が開かれ少女達が入室してきた。


「話は聞かせてもらったわキリカちゃん、私達にも協力させてもらえないかしら」

「内緒でカチコミに行くだなんて、水臭いですよキリカ様」

「私達の学院を土足で荒らされて黙ってなどいられません」

「私、昨日は置いてきぼりでしたから、今日はご一緒させていただきます」

「この下級貴族と同行などしたくはありませんが、私も連れて行ってください」

「この女と同行など私も嫌ですが、学院の危機に何もせずにはいられません」


 生徒会室に現れたのはマリー、ディアナ、サラ、シオリ、そして昨日喧嘩してたローズとグレープだった。

 おお! 友よ!

 私のピンチに駆けつけてくれるだなんて!

 なんか喧嘩してる人もいるけど、頼もしい仲間が増えたぞ。

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